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高機能アルコール依存症者の断酒日記
はじめに
はじめまして。2017年に精神科で「高機能アルコール依存症」と診断された40代男性です。この病気と診断されて丸4年、断酒を継続しています(2022年現在継続中)。これまでの断酒の記録(特に断酒1~2年目)を残したくて日記として公開したいと考えました。同じ病気に苦しんで、それでも回復を目指して日々断酒されている方々への参考になれば幸いです。
高機能アルコール依存症
「アルコール依存症」は耳なじみのある病名だと思いますが、頭に「高機能」が付きます。以下、文献の引用から。
「飲みすぎの傾向はあるかもしれないが、仕事はちゃんとやっているから問題ない」。高学歴、専門職、高い社会的地位などから見過ごされることが多いのが「高機能アルコール依存症者」である。有能な仕事ぶり、きちんとしている(ように見える)生活が、アルコール依存症という病気を本人の目からも周囲の目からも覆い隠してしまい、治療に向かわせられない。
セイラ・アレン・ベントン (著), 水澤 都加佐 (監修, 翻訳), 伊藤 真理 (翻訳), 会津 亘 (翻訳)
有能な人たちとありますが、この本、読むと分かるのですが、要するに「アルコールに溺れそうにない普通の人(と周囲に見られる人)」のことで、酒瓶をもって徘徊するような古典的イメージのアル中じゃなくても、普通の人もアルコール依存症になるよ、というのがここでの主旨です。
プロフィールと飲酒歴
40代独身男性(結婚歴なし、子供なし、18歳の大学進学で上京して以来、一人暮らし)。
理系大学院を卒業後にメーカーエンジニアとして就職。高校卒業の際の友人との打ち上げが初めての飲酒、それまでは親戚の集まりなどで舐める程度。大学入学を機にサークルやバイト先の飲み会で定期的な飲酒を開始。この時18歳だったが、当時は特段問題ない時代だった(この数年後くらいから厳しくなったと思う)。
飲酒が常習(ここでは、休肝日を設けず365日欠かさず毎日飲む状態を指す)となったのは、大学院卒業直前の23歳ぐらいだと記憶している。この時は、当然学生なので常に金欠だったが、当時付き合っていた彼女から金を借りてでも毎日飲んでいた。100円/1本の発泡酒を毎日6本、1日も欠かさず飲んでいた。
大学院修了後、メーカの機械設計エンジニアとして就職。就職後は入金(給料)のほとんどを飲み代に使用。後述するが、メーカを退職するまでの約10年間、ほぼ毎日飲んでいた(10年間で飲まなかったと覚えているのは1日だけ)。
30代前半ぐらいから、シラフの時に手が震えるようになった。はじめのうちは、緊張するような特殊な状況で手が震えるようになり、「年をとったかな?」程度の認識だった。それが、1~2年と経つうちに、シラフであれば常に手が震えていることに気付いた(うすうす、頭ではアルコールが原因ではないかと思っていたが、酒が飲みたいのでこの考えには蓋をしていた)。
そうこうしているうちに、仕事で人前で講演したり、署名したり(人前で字を書く)する機会が増えてきて、この際に手の震えを隠すために、仕事中にもかかわらず酒を飲んだ。
ここからは早かった。朝出社前に酒(手の震えを止める魔法薬)を飲んで飲酒運転で通勤、昼休憩時にトイレで飲酒(服薬)して午後を乗り切る、というパターンに。当然、こんなサイクルが長続きする訳もなく、体が限界を迎え、病院に駆け込み断酒治療を開始することに。
この断酒日記では、断酒を決意した日からこれまで書き溜めていた日記をベースに、断酒中に考えていたことなどを中心に記載していきたいと思います。
断酒日記(初断酒)
断酒0日目
手の震えだけでなく、体全体が震えて酷い。ここで酒を飲むと震えは収まるけど、これって完全にアル中じゃない?このサイクルで今後生活するには限界ある。とりあえず近所の病院に駆け込んで、依存症専門の病院を紹介してもらった。紹介してもらったはいいけど、専門医の予約が3週間先までとれない。予約だけして、とりあえず今日は飲むか。とにかく今日は飲んで震えを止めたい。。。
断酒1日目
この状況を打破するためには、酒を断つ以外にないのは分かってる。父親もアル中なので(父親は20年以上断酒継続中)断酒が最も確実なことは知ってる。・・・離脱症状(禁断症状のこと)は怖いけど・・・やるか。
こんな状態じゃ仕事になんないから、会社は1週間休みとろう。
断酒2日目
昨日、酒飲まなかった。飲まない日なんて何年振りだろう。「酒を飲まない日なんてあり得ない」と本気で思ってたけど、そんなことなかった。ただし、離脱症状がひどい。。。離脱症状は1週間程度らしいけど、こんなんが1週間?マジか。
断酒3日目
離脱症状で手の震えのほかに、幻覚と幻聴が出てきた。特にひどいのは幻聴。幻聴の一例としては以下のようなもの。
エアコンや冷蔵庫のファンの音が、人の話し声やお経(電波の悪いラジオのイメージが一番近い)に聞こえる
突然、耳元で女性に囁かれる。これが一番怖い。
幻覚はそれほど酷くはなく、よく体から虫が這い出るようなものが紹介されことが多いけど、それはなかった。以下のような幻覚あり
テーブルの本が、閉め切って無風の部屋なのに勝手にめくれる(ように見える)
部屋のカーテンに人が居るように感じる(気配を感じるだけで見えはしない)
断酒4日目
相変わらずの離脱症状。横になっても幻覚・幻聴、ダルくて何もする気が起きない。運よく寝つけても、寝汗がひどくて起きる(これも離脱症状のひとつ)。布団も着ているシャツも寝汗でビシャビシャ。着替えだけして再度横になるも布団が気持ち悪い。洗濯する気にもなれない。
断酒5日目
離脱症状が少しマシになってきた気がする。とりあえず、外を散歩するぐらいの余裕は出来てきた。歩いてると気が紛れるので楽。散歩いいね。
断酒7日目
手の震えは若干残ってるけど、幻覚・幻聴は完全になくなった。体から毒気が抜けたって感じがする。散歩が気持ちいい。
断酒9日目
職場復帰。今まで手の震えで打ちづらかったキーボードがいとも簡単に。酒やめてよかったかも。事前にアル中であることは職場の人には伝えて1週間休みもらったけど、みんなあんまり理解していない様子。それもそのはず。これまでは飲んだ状態で普通に仕事していたので周囲から見たらおんなじにしか見えないよね。
断酒13日目
断酒、思っていたよりも楽だな。もっと強烈な飲酒欲求に日々抗うって感じを想像してたけど、そんなでもない。飲みたくない訳ではないんだけど、今は毒気が抜けているこの状態が心地いい。「俺、健康!!」というのをすごく感じる。
断酒17日目
予約していた依存症専門病院の初外来。断酒も自分で初めて継続中ということで、入院も薬もなし。とりあえずは定期的な通院のみということになった。AAとか断酒会はどうしようか。近所のを探してみるか。
断酒35日目
イライラするなぁ。相変わらず飲み会に誘ってくる奴いるし。この病気のこと全然理解されてない。出張とかマジでやめてほしい。電車移動⇒宿泊なんて、飲みたくなるに決まってるじゃん。ちょっと配慮がほしい。
断酒47日目
仕事の環境は特に変わらず、相変わらずイライラする。。。酒飲みてぇ。飲むか?飲んでもまた禁酒すれば良いわけだし。
再飲酒1回目(ここまでの断酒期間47日)
(以下は再飲酒(スリップ)後に再度断酒して、再飲酒の直前と連続飲酒中のことを思い出しながら記載。といってもほとんど記憶ないのですが)
仕事も相変わらずで、さらには他人の仕事振りにまで目がついてイライラしてしまい、もしかしたら飲酒をコントロール出来るのでは?との幻想からビール500ml×1缶をコンビニに買いに行った。
プシュッと缶を開けて口に近づけると、アルコールの臭いが鼻をつく。この臭いで頭のスイッチが切り替わるのを感じた。ホントにバチっと入れ替わる感じ。これまでの断酒の努力とか離脱症状の辛さとかどうでもよくなって、とにかく酒を飲むモード(断酒を始める前の常習的に飲んでいた状態)に変わるのが分かった。
最初のビール1缶がきっかけで、そのまま連続飲酒状態に。ここでの連続飲酒とは、寝ている時以外は常に酒を飲んでいる状態のこと。その状態が11日間続いた。職場にも行ってない。
当然、職場の人も心配になって、連絡してきたり、部屋に直接安否確認に来たりしてもらった(本当に迷惑を掛けた)が、それでも酒が止まらない。というか、ほとんど記憶にない。目が覚めたら酒を飲む。酒が切れたら買いに行く。酒を飲むこと以外が考えられない、思いつかない。
ようやく12日目になって、通院していた専門病院(精神科)に行く。酒は止められず酔った状態でタクシーで通院。離脱症状を緩和する薬を処方してもらって、再度断酒にトライすることに。
断酒日記(断酒トライ2回目)
断酒1日目
また離脱症状と闘うのかぁ、と憂鬱だっだけど処方してもらった離脱症状を緩和する薬(抗不安薬)がやたら効く。こんなに楽になるとは。早く教えてくれれば1回目にあんな辛い思いしなくてもよかったのに。。。
断酒2日目
離脱症状も2回目にもなると、いつ頃どんな幻聴・幻覚が来るのか予想できるので余裕がもてる。いや、飲まなきゃすむ話なんだけどね。それにしても抗不安薬が効くわー
断酒7日目
毒気(アルコール)も抜けて気分も良い。今回、「再飲酒⇒再断酒⇒改めて離脱症状との闘い」だった訳だけど、ホント飲まなきゃ良いんじゃない?とサルでも分かる構図なのに飲んでしまう依存症の怖さ。
断酒18日目
GWの連休期間、また飲んでしまうかと不安だったけど、何とか乗り切った。散歩というか20kmぐらいのウォーキングしてたら、結構気分も落ち着いて楽になった。余計なこと考えないのも良い。
断酒26日目
ここまで順調。1回目の断酒の時も感じたが、思っていたより断酒って楽じゃないか?
(※この後の入院中の教育プログラムで知ることになるが、これがいわゆる「ハネムーン期」。ハネムーン期含む、断酒の1年目に訪れる症状のステップが以下のページにまとめられていますのでご参考)
再飲酒2回目(ここまでの断酒期間34日)
これまでにないような強烈な飲酒欲求が発生。きっかけは思い出せないが、職場で嫌なことがあったとかそういうことではなく、もっと些細なことだったと思う(TVのビールのCMとか、そういう類いのもの)。
どうしても我慢できずに深夜のコンビニへGO。日本酒を2合買って飲酒。
日本酒2合を再飲酒した翌日、そのまま連続飲酒になるかと思ったが、その日は飲まなかった。「なんだ、飲んでも翌日はちゃんと飲まずに抑えて、ちゃんと飲酒をコントロールできてるじゃないか」、と全くもって自分に都合のよいように解釈したのが間違いの始まり。
「飲酒をコントロールできる」という勘違い・願望から、以前から行きつけだった鮨屋に(気持ちはスキップしながら)直行。寿司をつまみつつ、以前と変わらない酒量をハイペースで飲酒。そしてブラックアウト。
そしてそのまま連続飲酒状態。財布も落としてしまうという失態(落とした財布は拾って下さった親切な方が、財布に入っていた免許証の住所を見てわざわざ届けてくれた。あのときは本当に助かりました)
連続飲酒状態なので、当然職場には行けず(というか、会社に行くことより酒を飲むことが当然みたいな感覚)、そんな中、会社の上司と総務部門の方々が部屋に来て、ここで精神科への入院を薦められる。
精神科の主治医とも相談して、3ヶ月間入院することに。入院の手続きのため、実家の両親にもアルコール依存症になったことを伝えた(上述したとおり、父親はアル症の回復者で何となく分かっていたっぽい。母親には泣かれた)
入院1~2ヶ月目(断酒期間68日)
(入院した病院(精神科)がPC、スマホ等の持ち込みが禁止だったので、覚えている範囲で以下記載)
強制ではなく任意入院という形(形式上、いつでも自分の意思で退院できる)で精神科に入院し、3ヶ月間の治療プログラムを受けることに。
プログラムは、依存症治療で有名な久里浜の病院が作ったテキストにそって、集団療法的に行うもの。個人的には今でもこの時のプログラムで受講したことを部分的にだが実践している。
治療プログラム以外には、自助グループの方々が来院してのミーティングに参加する程度で、時間的には1日に2~3時間程度。その他の時間は基本的に自由。といっても外出は制限されているし、PC・スマホも無いので、暇。
プログラム以外の時間は、持ち込んだ文庫を読むか当時の仕事関連の資格試験の勉強をして過ごしていた。
その他、入院中に抗酒剤(この時はノックビン)の服用を開始。
入院中は時間もあったことから、色々と考えてしまう。特にこれからのことを考えると不安もありつつ、「再出発のための休養期間」と前向きに捉えてプログラムにも積極的に参加していた。
その一方で、飲酒欲求は常にあった。入院して規則正しいスケジュールをこなすことで、「酒の無い生活」自体には慣れてきて違和感も感じなくなるのだが、飲みたいという欲求だけは無くならない。
今でも持っている資格試験の勉強に使っていたノートの最後のページに、「モツ煮」、「サンマ塩焼き」、「日本酒」といったワードが記載されていて、当時の欲求度合いが分かると同時に笑えてしまう。
そしてなにより、酒以外に「喜び」、「楽しみ」、「生きがい」といったものが見いだせないことが一番つらかった。
入院3ヶ月~退院(断続的に再飲酒を繰り返す)
入院3ヶ月目になると、「外泊」といって、従来の生活環境に戻っても断酒が継続できるのかのお試し期間がある。最初は1泊で次に2泊、これを数度繰り返して晴れて退院となる。
ただ、この外泊、ほとんどの人(少なくとも同時期に入院していた方々)は外泊の時に飲んでしまう。私も漏れずに飲んだ。
それどころか、外泊時に飲酒、病院に戻って断酒、のサイクルができあがると、「飲酒をコントロール出来ている」という都合の良い錯覚におちいる。そんな訳ないのだが。
そうこうしているうちに退院日となり、完全断酒を達成できないまま病院を後にすることに。
退院後の再飲酒
退院後の帰宅途中、居酒屋に寄って飲んだことをよく覚えている。衝動的に立ち寄ったのではなく、退院日には行くことをずいぶん前から心の中で決めていた。「もしかしたら自制心が働くかも。。」と期待したが無駄だった。アルコール依存症者が一度飲むと決めてしまうと、その決定を覆すことは至難の業。
そしてそのまま13日間の連続飲酒状態に陥った。
断酒トライ3回目
(この後、断酒⇒再飲酒(会社からクビ宣告)⇒2回目入院⇒再飲酒⇒改めて断酒と社会復帰(この断酒が今でも継続している)、という流れなのですが、長くなったので一旦切ります)