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熱線カメラ



最初に

こちらの記事で紹介したボロメーターに代表される熱感知素子アレイを用いたカメラの原理、構造、用途について解説ていきたいと思います。


基本的に、物体そのものは温度に応じて赤外線を放射します。この放射の強度はステファン・ボルツマンの法則によって決まります。物体が室温の場合、約10µmの波長の光が放射され、800度を超えると可視光が放射されます。したがって、鉄を加熱すると赤く光るのはこの原理に基づいています。

物体の温度と電磁放射スペクトルの関係

ここで言いたい特徴は二つです。

光を自発的に出すということ

通常はカメラで物体を撮影しようとすると光を当ててその反射光や散乱光を撮影することが一般的です。そのため太陽光や照明が必要になってきます。一方温度に応じて自発的に光るということは外部から積極的に照明を当てなくてもその物体がそこにあるということがわかります。
この性質を利用して熱線カメラで物体を見ると光を当てなくても周りより温度の高い物体を観察することができるので夜間人は獣が暗闇に紛れている状態を見つけ出すことができます。
この目的でいうとこのカメラには
・暗視カメラ
・ナイトビジョン
・セキュリティカメラ
といった名称がふさわしくなってきます。

温度に応じた強さで光ること

温度に応じて光る強さが変わるということはその強さと温度の関係がわかっていれば物体の温度を知ることができます。
精密な測定には温度ドリフトや、物体の放射率、黒体でのキャリブレーション等難しい補正が必要になってきますが、おおざっぱにこのカメラで撮った時にこれぐらいの輝度なら何度ぐらいとおおざっぱに行ってもそれほど大きくはずれません。この温度補正測定精度をどれだけ真面目にやるかで価格が大きく変わってきますが、こういった目的でのカメラの名称としては
・サーモカメラ
・サーマルカメラ
・サーマルビジョン
・サーモグラフィ
といった名称がふさわしくなってきます。


ボロメーターでしかできないこと

ここを明確にするべきで、一般的な用途を考えたときに
人肌から数百度の温度帯に興味がある人が多いと思います。
この温度帯が放射する光は10um程度であり、それを(安価に)検出しようとするとボロメーターを利用したカメラが現実的な選択肢となってきます。
こういった理由から
・人や動物ぐらいの温度を検知するセキュリティカメラ
・体温や調理、故障診断等比較的温度の低い領域でのサーモカメラ
として利用できます。
逆に言うと低い温度帯の検知を行おうとすると10um付近に感度のあるボロメーターが必要になってきます。
近年製造技術が目覚ましく進歩してセンサー価格が低下してきています。一般的なボロメーターの撮像素子が数万~十数万となってきます。また解像度はだいぶ小さくなりますが同様の熱感知をする素子アレイとしてサーモパイルアレイセンサーもあり、こういったもっと安価な素子を利用することも可能です。これらは必要な解像度に依存して選択しますが、当然ながら価格にも影響してきます。

代表的な素子と性能について

近年FLIR社がシリコンレベルオプティクスという半導体加工技術を用いたSiレンズの加工とマイクロボロメーターを量産したことがあり、FLIROneに代表されます。

基本的には撮像素子の解像度が上がると価格が非常に高価になっていきます。

160 x 120(19,200画素)

160 x 120(19,200画素)

240x180(43,200画素)

320x240(76,800画素)

FLIR社が製造したボロメーターアレイを各社がOEMとしていろいろと出している状況であるが、
もう少し安価なサーモパイルアレイを使用した製品としてもある。

8×8(64画素)


注意すべきこと

ここで、物体の放射強度は物体の温度に依存することに留意が必要です。極端な例ですが、高温の物体は可視光でも輝いて見えます。複雑な説明を簡潔に述べれば、松明を持った人間はこちらから光を当てることなく、通常のWebカメラで撮影することができます。
したがって、数千円のWebカメラをセキュリティカメラとして販売することに問題はありません。
同様に、高温の物体の温度を計測することも可能です。サーマルカメラと呼ばれる製品を作ることさえ、数千円のWebカメラで実現できます。
この点が非常に複雑な事柄であることに留意すべきです。このような誤解を巧みに利用した製品については、別途紹介する予定です。


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