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夏の始まり -青春18きっぷ初日の上州・越後-

今年の夏シーズンにどういうわけかSNS上で「そもそも発売されるのか」が話題になった青春18きっぷ、結果から言えば特にこれと言った変化もなく発売されたのは皆様ご存知の通り。
「本命」とも言える旅行を今後に控えてのものなのだが、筆者もこれを購入して早速初日から使っていた。この日の行き先は群馬県方面として途中越後湯沢へも足を伸ばす。

どんな旅になるのだろう

早朝の野田線はゆっくりと眠れた、熱気に叩き起こされて大宮駅の階段を登るのは昨年に新幹線で東北を目指したときと同じ「北への旅の始まり」らしいスタート。指定席券売機で青春18きっぷを購入して湘南新宿ラインのE231系から「旅の夏休み」が始まった。
青春18きっぷと高崎線のE231系というと筆者としては学生時代に「ムーンライトえちご」に乗るべく高崎駅に向かったことを思い出す。節約するために大宮駅からはムーンライトに乗らず終電1本前の普通列車で日付を超えるギリギリの北鴻巣あるいは吹上までまず移動、日付をまたぐと同時に青春18きっぷで改札に入って高崎行きの終電に乗車。ムーンライトえちごの日付を超えて最初の…というよりは関東側唯一の停車駅である高崎駅から乗り込んで新潟駅に向かった、これで米坂線や磐越西・東線、更には信越本線に飯山線と南東北や信越の路線にずいぶん多く乗ったものだ。
こう書いてふと気になったので計算してみるとムーンライトえちごを利用して初乗車した路線はJR東日本路線の2割程度だった、もちろん再訪した路線も多くあるものの乗りつぶしに大きく寄与してくれたことは間違いない。

そんなムーンライトえちご、ひいてはムーンライトシリーズの快速列車が姿を消して早4年となる。一方でかつての「ムーンライト信州」を思い出させるような夜行特急が登場し、青春18きっぷと直接の関係は薄いかもしれないにしても夜の移動という可能性は鉄道にもしっかり息づいている。

ポケモンスタンプラリー

そんなことを思いながら乗る高崎線、ふと視線を上げるとそこにはポケモンスタンプラリーの広告が。筆者が幼い頃から行われているこのイベントもずいぶん息の長いものになっている。そろそろ幼少の思い出に親に連れられ(あるいは引きずり回して)参加したというようなかつての子供達が今度は子供を連れて(あるいは引きずり回されて)参加しているのだろうか。彼らの夏休みが実り多いものになることを少しばかり願って高崎駅で吾妻線の211系に乗り込む。

座席がほぼ満員といった程度で高崎駅を発車し、まずは上越線に歩みを進める。昨年にJR東日本は一旦全線完乗しているのだが八ッ場ダムの関係で切り替えられた新線は実はこのときが初めて。一応路線データ上は完乗ではあったものの自分が乗ったときとは駅の位置含めて大きく変わっていたとなると「完乗」というのには少し引っかかりを感じていたのも事実。これから乗ってそこを通ることで名実とも「完乗」と言えるようになってようやく胸のつかえが取れたような思いはあった。全国のJR線で乗車していないのは1路線のみ、そこを踏破することで本当に「JR全線完乗」が実現する。

青空のもとを走る

10時過ぎに岩島駅を出て2駅先の長野原草津口駅までが付け替え区間だ、大きなカーブでトンネルに入ってからは川原湯温泉駅付近を除きほとんどトンネルを駆け抜ける。旧線の渓谷とは大きく変わったことを実感しているとその川原湯温泉だ。ここで交換待ちのためしばらく停車、乗客には「同業者」が少なからずおりちょっとした撮影会のように。

山の間の駅で
対向列車をしばし待つ

川原湯温泉からはやはり大部分がトンネル、再び大きなカーブを描いて着いた長野原草津口からは再び切り替え前ぶりの吾妻線を走っていき途中で通り雨に降られつつ30分もせずに終点の大前に到着する。この区間は吾妻線の中でも特に利用が少なく、以前は万座・鹿沢口まで走っていた特急も草津温泉の入口たる長野原草津口駅で折り返すようになってしまっている。

1車両に数人程度の車内

技術的に困難と断念された嬬恋・豊野までの延伸が実現していればまた異なる状況になったのかとこの区間の交通体系の見直しに関する申し入れのニュースに触れて思った人も筆者はじめ少なくないだろう。
大前駅に着いたときには雨は止んでいた、本当に小さな雨雲によるものだったようだ。

終点の大前駅で
駅前の川にて

大前での折り返し時間は約10分、1日5本しか列車がない上にこの10時50分発の次は17時32分と7時間近く開く。隣の万座・鹿沢口では列車本数はおおよそ倍になるし、特に日中に始発が3本あるのが特徴だ。そんな大前駅午前中最後の列車にはどこに乗っていたのか不思議なくらいの人々が降り立ち、この終点の駅の雰囲気を楽しむ。

駅の時刻表
きっぷはこちらに

ここからはもと来た道をたどって渋川駅まで向かう、途中で高崎線の遅れの影響で交換待ちが長く掛かり少々の遅れがあったものの最終的には時間通りに到着。やれやれ良かった、と思っているとすぐに3分接続の上越線が到着、乗り込んだら吾妻線とは比較にならないほどの乗客数な上に「同業者」の数がちょっとびっくりするほど。
乗り換えの便を考えて先頭車両に移動し終点の水上駅に到着。目の前の階段を上がってここからはE129系の長岡行き。いわゆる上越国境越えの区間は昔から新潟地区の車両が乗り入れてきているが、ここで「新潟の電車」を見るといかにも関東を脱して山を越えるのだということを実感させてくれる。そんな電車でひたすらにトンネルを駆け抜けて、緑を纏った雄大なスキー場の景色に驚いているともう越後湯沢だ。隣には「越乃Shu*Kura」が停車していた。

「ゆざわShu*Kura」としての越乃Shu*Kura

日本酒をフィーチャーした列車となると下戸の筆者としては正直ハードルが高いような気もするのだが、もちろんソフトドリンクコースもあるので安心して利用することができる。もはや通常の定期運用から撤退したキハ40系による運行というのも趣味者としては興味深いポイントだ。
ここで少し遅い昼食としよう、越後湯沢はスキーリゾートとしての利用が多い駅でもありその需要を見込んで駅構内だけで飲食が特に充実している。そんな中から今回は「爆弾おにぎり」をチョイス、米一合に新潟自慢の特産品を使った具を入れたおにぎりで大満足の一品だ。

爆弾おにぎり

お土産を買い求めたりしている間にあっという間に水上行きの時間だ、再びE129系に乗り込んで南に向かう。途中の越後中里ではスキー場の休憩スペースに使われる客車(スハ43系だったろうか)を眺めて行きより短いトンネルを走り、ループ線を降りていけば水上到着。関東に帰ってきた。
ちなみに川端康成の名作「雪国」に出てくる「国境の長いトンネル」は執筆時期と照らし合わせると現在上り線として使われているこの清水トンネル経由のルートであり、少なくとも通常時にはこのルートで新潟に向かうことはできない。現在の下り線である新清水トンネルを通って新潟に入るさまを表現するならさしずめ「国境の更に長いトンネル~」とでもなるだろうか、いやくどいな。

越後中里駅にて
「新潟の電車」E129系

ここからは利根川に沿って下っていき家に帰るだけだ。高崎駅では対面乗り換えで2分接続、便利なようなあるいはもう少し余韻を感じさせてほしいと言うか。朝の遅延もすっかりなくなっており1時間半もかからずに大宮に着くと家の延長線にあるような東武野田線が見えてきた。

こうして夏が始まった、お目当ての旅行までの間にもう1回どこか出かけることができそうだがさてどこに行こうか。この記事を執筆している時点で実は何も決まっていない。逆に言えばあいまいな状態でひとまず買い求めておいて、それから決めればいいという「ゆるさ」こそがこの青春18きっぷの魅力とも言うべきか。
少しケチくさい話をするとこの日のJR線で通常の乗車券だと8,030円掛かっていたところだ。青春18きっぷ1日分が約2,400円なのでその3倍程度、1日の利用で全体の2/3程度回収してしまったことになる。ともすれば早朝や深夜までずっと乗り通すような前提で語られがちなきっぷだが、ちょっとした遠出についてこそ自由度の高さとリーズナブルな価格設定が魅力的なきっぷと言えるだろう。

越後湯沢の旅は東京近郊圏からだと無理なく日帰りができて雄大な山を楽しんだり、また越後湯沢駅の駅ナカは飲食に加えて温泉、駅前には足湯など充実しているので行き先としてぜひともオススメしたいところ。唯一の問題点は普通列車の本数の少なさで、時間を間違えると越後湯沢から高崎まで新幹線に別途乗車し青春18きっぷ1日分より高い料金を支払うことになるのでそこだけはご注意を…

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