懐かしの町に
朝の空気が心地良い。そろそろ寒くなってきたこのタイミング、凛とした風に秋の深まりを感じる。飛行機の時間まではだいぶ余裕があるのだがその前にまず向かうのは池袋、前日から公開された劇場版「BanG Dream! It's MyGO!!!!! 後編」を是非見てから行きたい…ということで都心の映画館に吸い込まれていったのである。
映画を満喫したが今日はこれから始まると言っても過言ではない。山手線とモノレールを乗り継いで羽田空港に向かう。空港快速を待つ人がずらりと並ぶ中目の前の普通電車に乗り込む、せいぜい数分遅い程度なのだから空いている電車の方が気が楽だ。狙い通り進行方向左側を眺められる席を確保してキャナルビューや羽田空港を眺めていると普通電車でも空港はあっという間だ。展望デッキで新しいディズニーラッピングのボーイング767"JA622J"を撮影したら保安検査を通り、しばらく歩いて搭乗口に向かう。
そういえば昼食がまだだった、搭乗時間までの間に牛丼を頂き徳島行きのボーイング737に乗り込む。普段乗る機体と何か違う雰囲気なのも当然のこと、国際線機材が充当されている便を選んで予約したのである。徳島空港は2017年、初めて四国に行ったときの帰りに羽田行きのボーイング767に乗って以来なのでご無沙汰といったところだ。ちなみにこの機体は一昨年の秋に乗った岡山便ぶり、国際線機材なんてそうそう当たることもないもので同じ機体を引き当てるとは…
🛫DEP:HND/RJTT
RWY05
🛬ARR:TKS/RJOS
RWY29
JAL JL459
(HA5197)
Planned:1240-1355
Actual:1259-1351
Japan Airlines
🛩Boeing737-846 B738
(for Intr aircraft)
JA304J 35333 /2253
https://flyteam.jp/registration/JA304J
機内誌も国際線版と国内線版の2冊があるので見比べる面白さがある。個人用モニタも設置されており、離陸前の安全ビデオは全席で流されたが通常は電源が切られており希望者は各自電源を入れて使うというものだった。結局ほぼずっとフライトマップを眺めていたが、電源が無い席だったのが惜しまれるところ(多くの席には電源があるが、後部席には設置されていない)。
紀伊半島上空で高度を下げていき、雲を抜けて再び地上が見えてくると和歌山県上空だった。ここから紀淡海峡を渡って海側から着陸となる。南海フェリーで何度か渡った海だがやはり飛行機ではその速さは文字通り桁違いというもの。船だと2時間掛けての航海で淡路島を眺めて、大鳴門橋を遠くに望み、やがて港が見えてくる。そこから何倍速だろうか、ちらっと淡路島が見えたと思ったら大鳴門橋が視界に飛び込み、そして瞬く間に滑走路に接地してしまった。
徳島空港には展望デッキはないものの、離れのような区画に展望ホールがある。対岸の大空港をコンパクトにしたような構造のようだと思いながらさっきまで乗っていた機体を撮影してレストランや売店を眺めつつ鳴門行きのバスを待つ。
ところがこのバスが遅れてしまい、鳴門線の列車に乗り換えることができなかった。と言っても列車は1時間毎にあるのでそこまで大きな問題でもない。次の列車まで数駅歩き、徳島の風を感じながらの散歩も心地良い。やがてやってきたキハ47、いつまで乗れるかも分からない車両に乗って池谷駅に向かう…キハ47だったら長く乗るためむしろ鳴門駅で待つべきだったか?
ここからは一気に特急で高松、車種が多彩な「うずしお」号に乗ろう…となるのだが次のうずしおは岡山行き。1日に2本だけある瀬戸大橋を渡る便だ。これは嬉しい誤算、特急料金の計算式の関係で池谷からギリギリ100kmを超えない宇多津まで快適な2700系で移動出来るという有難い列車だ。これで高松までと同じ特急料金で宇多津までコンセントを使いながらリクライニングシートを使うことが出来るという次第。
長く乗れるのは有難いが、なぜこの列車だけ遠回りの宇多津経由なのだろうか。徳島方面から岡山に行くだけなら坂出から「マリンライナー」と同じ経路で行けば良いはずだ。ところがこの列車の場合宇多津まで立ち寄るので大回りなだけでなく高松と宇多津で方向転換が2回発生する珍しい特急列車になっている…答えはすぐにやってきた、高知から走ってきた南風号。この南風と併結するために宇多津まで走っているのだ。
うずしお・南風号は合計5両の堂々たる編成となって岡山に向かっていく。2両あるいは3両という身軽な編成が多い2700系でこの長さはなかなかの迫力だ。ここからはどうしようかと考えていたのだが、結局到着を40分早く出来る魅力に抗えずにいしづち号に乗り込んだ。カネで時間を買う資本主義にアンパンチということだろうか。
宇多津から30分ばかり、昼間なら多度津を出て早速瀬戸内海の眺めが出迎えてくれるところだが日もすっかり暮れている。そして香川県内最後の特急停車駅、観音寺駅が今日の目的地だ。前に来たのは2020年3月、気が付いたらご時世柄なんて言い訳も最早成り立たない程度に少しばかりご無沙汰となってしまった。
時間も時間で早速夕食とする、駅前のビジネスホテル1階にあるレストランで骨付き鳥を頂く。食事のみの利用もできるのは夕食の選択肢が増えてありがたいところ。地元高校生が考案した味付けがされたという骨付き鳥の「おや」をチョイスし、ついでに練り物なども注文する。この観音寺市はいりこで有名な伊吹島を擁するほか水産業が盛んな町、せっかく「帰ってきた」のだからこれも欠かせない。
食事を終えて最後はここに、観音寺の観光名所の一つである銭形砂絵を見に行く。ライトアップされた様子を久しぶりに拝みたくなった。ということで夜間に登山としゃれ込み…
緑にライトアップされた砂絵、山の上から観ることを想定した楕円形で東西122m、南北90mの大きさとなっている。東側の展望台から見る為にこのような形状になっているのである。その後は有明浜に下り伊吹島を向こうにしばらく波の音を聴く、特に何をするでもなく過ごすというのも良いもの。昼間はずっと何かしら見に行くであったり移動するのでこのように過ごす時間は貴重なものとなるか。
この旅のベースキャンプとなる宿泊先はそこからすぐそこ、琴弾荘を選んだ。伝統ある宿泊施設を今年にリニューアルしたところで部屋が広くゆったりと過ごせる。
翌朝、目覚めのシャワーを終えてまずは源平合戦の伝説が残る琴弾八幡宮に久しぶりの参拝。朝もやの中の町を眺めてから港に向かう。伊吹島行きのフェリーが出ている港の近くの鮮魚店の朝ラーメンがお目当てだ。あっさりした味のラーメンは気持ちの良い目覚めをもたらしてくれる。
近くの道の駅に立ち寄ったりなどし、昼までは自室で一休み…というか何故か眠気に囚われてしばらくの昼寝。昼食を兼ねて向かうのは町の名前の由来にもなっている観音寺。「神恵院 観音寺」というとまるで1箇所の寺院のように思えるがここは2箇所に分かれており、四国88ヶ所のうち第68番札所の神恵院と第69番札所の観音寺1箇所の境内に並び立つ珍しい場所だ。元々第68番札所は琴弾八幡宮だったのだが明治時代の神仏分離政策によって今の形に変わっている。
ここにはカフェ「梧桐庵(ごどうあん)」があり、うどんやカレー等の軽食や甘味、また各種のグッズを求めることができる。カレーうどんとコーヒーをいただき、そろそろ雨が降るかもしれない空模様の中を今回の旅のトリガーになった場所に向かう。観音寺グランドホテル、ここで開かれるイベントが今回の誘いだったのだ。
もう10年経ったのかという思いが強い、気が付けば長い付き合いになったコンテンツとなった。このコンテンツに出会った数年後に初めて四国を訪れたのもこの作品の「聖地巡礼」とJR四国の完乗狙いだった。それまでは四国島内最初の電化区間の西端の駅がある…つまり予讃線の運行上の主要駅なのだろうという程度の知識しかなかったのに、今となってはまるで「実家のある町」のような気分だ。
盛りだくさんのイベントで盛り上がった後はホテルでの夕食バイキングをいただき、宿に戻る。充実した内容、ごちそうさまでした。
この翌日から工事のため下流側の歩道が通行止めになるという三架橋を歩き、この旅最後の夜は更けていく。
最終日、帰るだけと言えば帰るだけだがとはいえ最後に寄りたいところがある。宿をチェックアウトして川を渡り、細い麺が特徴のうどん屋さん「柳川製麺所」でわかめうどんをいただく。朝から賑わう店内ですするうどんの優しい味は旅の終わりが近づく寂しさを和らげてくれるかのよう。
朝食を終えたら商店街のお菓子屋さんで土産を買い求めてから駅に向かい、列車を待つ。思っていたより1本速い列車に乗れそうだ。スマえきアプリで乗車券と特急券を購入するのもすっかり慣れたもの、手元でキャッシュレス購入ができることの利便性の高さは使うたびにひしひし感じざるを得ない。おそらく「いしづち」側の方が空いているだろうと思い後ろに歩く。
ところがここで嬉しい誤算、「しおかぜ」は通常カラーの編成だったが「いしづち」編成は何かが異なる…後輩の8600系に似たこの色は最新のリニューアルが行われた証だ。何が嬉しいか、なんと言ってもコンセントがある。乗車券すら乗客のスマホアプリで買ってもらう今の時代ともなるとスマートデバイスを使いやすい環境はぜひ揃えていきたいところ。もちろんそれだけではなく改めて綺麗になった室内もやはり魅力的。あっという間に降りる駅に着いてしまった。
到着したのは今治駅、愛媛県の主要都市の1つにしてしまなみ海道の四国側の入口、そして造船とタオルに代表される産業の街。ここから本州まで船を乗り継いで行くこととしよう。予定の1本前の特急だったこともあり時間には余裕がある、港に行く前に何か名所があれば見に行きたいが…
今治城、海事都市今治の象徴とも言える場所だが創建は藤堂高虎が関ヶ原の戦いの戦功でこの地域を治めるようになってからなので意外と最近だ。海水が引き込まれた堀や大きな船入が特徴の海城で、現在残っているのは内堀と主郭部の石垣である。流石に豊富な展示を観る時間は到底なかったが、しかしこれはぜひ腰を据えて学んでみたいところ。
そこから少し歩くと現代の海の拠点、今治港にたどり着く。しまなみ海道の整備によってここを発着するフェリーや高速船は大幅に減少してしまったものの、近隣の離島に向かう船が今でも就航している。そんな今治港の歴史を伝えるボードなども近くに掲示されているので歴史に思いを馳せるのもまた一興だ。
みなと交流センターの建物の1階にフェリーの券売機があるのでここからの乗船券をあらかじめ購入し、しばし付近を散歩する。市営渡船「第二せきぜん」もお目にかかれた。
ここから乗船するのは大三島ブルーラインの木江(大崎上島)行き、小型のフェリーでの旅となる。出発のおおよそ10分前から乗船可能になるので船首のランプを歩いて乗り込み、階段を上がって客室に入る。客室は座席が並び小さなカーペットスペースがあるが、天気の良さに乗せられて結局ずっと船尾のデッキに陣取っていた。トイレと自動販売機も設置されている。
出航すると船は北を向き、前方に見えるしまなみ海道の橋に向かっていく。後ろを振り返ると先程までいたみなと交流センターに加えて今治城の天守も見ることができる。やはり天守があることの視覚的インパクトは改めてすごい。そして今治港の広さ、かつてここにフェリーや水中翼船が並んでいた時代があったということか。
この航路の最大の見せ場はしまなみ海道の橋をくぐるところだろう。そこまでは今治の景色や反対側の瀬戸内海を見ながら船は進んでいく。天気が良く波も穏やか、外を眺めているだけで充実した気分になるので船室に入って休むという選択肢がどうにも出てこない。とはいえ平日月曜日の日中だと観光目的で乗っている者は筆者くらいのものだろう、おそらく慣れた地元ユーザと思しき人々は船室で思い思いにくつろいでいる。
出航から20分足らずでしまなみ海道の橋が迫ってきて、そしてくぐっていく。乗用車やトラックの他に今治と尾道を結ぶバスなども多数運行されている本四連絡橋の1つだ、その最大の特徴はサイクリングが可能ということだろう。羽田空港から九州に行く飛行機から眺めることもできるので初めて見る訳では無いが、船でくぐるとその迫力は段違いだ。
そんなしまなみ海道をくぐると更に船は進み、大三島の宗方港に入る。大山祇神社がある神の島、そして愛媛県最北の地でもある。
大三島はしまなみ海道が通過しているので陸路でもアクセス可能だが、この船が経由する宗方港からは離れているので地域によってはフェリーも選択肢であり続けているのだろう。更にここから大崎上島に行くニーズもあるのか乗ってくる乗客もいたようだ。離れていく大三島を眺めているとあっという間に木江港に到着する、目の前にある待合所で乗船券を買わないとならないはずだ。
ここから竹原港行きの高速船に乗換える、ところがこの高速船は乗船から半年足らず後の2025年3月末をもって運航休止とされている。この乗継も貴重なものになってしまうかもしれない。
桟橋目の前に待合所の建物があるので見落とすことはまず無いだろう。受付にも人がいるが通常の乗船券を買うだけなら入って左側の券売機を使えば問題ない。
ところで上掲の写真の通り「天満港」と書いてあるが、ここは木江港ではなかったのか。実は木江港は地区が分かれておりこの大三島からのフェリーと高速船共に発着する「天満」地区と、すぐそばにあって高速船のみが発着する「一貫目」地区があるのだ。
ちょうど湾の左右にあるような構造で直線距離では500mに満たず実際高速船では所要時間2分とされているが陸路では大回りとなり1.1kmもある。ちなみに筆者の乗船時点でどういうわけかGoogleマップでは高速船のルートが天満港を経由せず随分南の港を経由しているように表示されているが、一体どういう理由なのだろう…?
10分程度の乗換時間はあっという間に過ぎていよいよ竹原行きの高速船の時間となった。見てみればまだ先程のフェリーもあまり離れていないところで見ることができる、そのフェリーとすれ違って凄い勢いで迫ってきた。高速船「かがやき2号」の到着だ。
船の側面から乗り込みすぐに入れる平屋の客室は優先席、自分含めて3人程度の乗客しかいないのでそこでも特に問題は無いだろうがせっかくならと階段を降りて前部客室に。結局そこに自分以外が来たのは最後の寄港地であるめばる港に着いた時だった。
なんだか私鉄の観光特急とか、パノラマと呼ばれるような車両のようだ…と思いつつ船の揺れに身を委ねる。天気がいい日でもありカーテンはほぼ閉まっているが少し開けてみると前方の景色を眺めて旅することができる。まずはすぐそこの一貫目港、そして島の北側にあるめばる港を目指す。身軽な高速船でもあり直前までまるで通過するかのような勢いで走り抜けている、ところが速度としては40km/hに届くかといった程度。長距離フェリーで悠々と航海するあの速度と同じというのは不思議な気になる。
20分そこそこの航海で竹原港に到着、1時間程度のトランジットの間に軽食をいただき出入りする船を眺める。大崎上島行きのカーフェリーがここの主役で、印象としてはずっと出入港を繰り返していたかのように思えるほど。
ここの売店はお土産や軽食等地元の名物含め選択することが出来て、そこまで大規模ではないものの印象的なスポットだった。
竹原港発広島空港行きのジャンボタクシーに乗って広島空港着、定員9名のハイエースは大盛況で竹原駅発車時点で自分含め8名が乗っていた。満員時の後続便などは無いのでこれを利用する場合は極力予約をお勧めする。
広島市街地からの遠さが問題視されるこの空港の立地だが、確かに市街地を通らないということもあり県内その他の地域からのアクセスはしやすい位置にあるといえる。それが最大の需要回廊であろう首都圏と広島市における航空の比較優位性を大きく毀損してでも是非やらねばならないのかは意見が分かれそうではあるが…
さて広島空港に着いても少し余裕がある、そうなるとやるべきことはただ一つ、Flightrader24を立ち上げ展望デッキに向かう。ちょうど日没も近い、ANAのボーイング787を眺めて楽しめるようだ。ついでにこれから乗る便の機材情報を…おいおい遅れているじゃないか。
これから乗る羽田行きの機材は新千歳空港からここ広島に飛んでくる。ところがその新千歳→広島便の更に1つ前の福岡→新千歳便の出発が何らかの理由でだいぶ遅れてしまい、それを引きずってしまっているようだ。とはいえそこまで酷くは遅れないようなので大きな問題ではない。保安検査の都合上機体の到着を展望デッキで見届けられないのは残念だが…
🛫DEP:HIJ/RJOA
RWY10
🛬ARR:HND/RJTT
RWY34L
JAL JL264
(AS7470,AY5192,QR6833,HA5112)
Planned:1755-1915
Actual:1828-1934
Japan Airlines
🛩Boeing737-846 B738
JA323J 35352 /3057
https://flyteam.jp/registration/JA323J
普段より遅れているとはいえそこはJALのフライト、乗ってみればいつも通りの安心感あるフライトを満喫することが出来た。航路上の天気も良く、ベルトサインが消灯した頃に上空から一望出来た関西の夜景は実に見事なもの。今後の旅のいずれかであの中に紛れ込む日もまたあることだろう。
それと、このJA323Jにはもう一つ思い出がある。この機体は2019年1月にも羽田発高松行きで乗ったことがあったのだが、その目的こそ他でもない観音寺市での「結城友奈は勇者である」イベントのためだったのだ。久しぶりの目的のために旅した家路をサポートしてくれたということに何やら単なる機材運用の妙以上のものを感じてしまった。
そんな機体に別れを告げたらいつものモノレール、この時間帯だと羽田空港から帰る旅行者というよりは周囲の企業からの退勤者が多く周囲の乗客も最初はガラガラだったのにだんだんと増えていくといった感じだ。そんな中で旅の余韻に浸るというのも、なんだか悪くない気分だ。
そろそろ来年の旅のことも考えていこう。