弦を描いて
羽田空港行きモノレールは東海道新幹線の回送列車と並んで走る。数分前まで山手線の混雑に揉まれていたのに籠の鳥が大空に解き放たれたような気分になれるのだからこの乗り物はやっぱり魅力的だ。
朝のモノレールは空港の他にも沿線の企業への通勤需要も担っており、車内は浜松町を出た時と比べてもいくぶんか空いてきた。
ここから向かうは北海道、今回は羽田から青森を経由して新千歳にはJ-AIRのエンブラエル機で降り立つ。奇怪なルートだがそのまま直行で着いてしまう羽田-新千歳便は少し味気無く思えたのだ。とはいえこの日程の羽田-新千歳便が他の日よりなぜか高く、ほとんど運賃が変わらないのでそれならフライト数が多く普段乗らないような路線を楽しめる青森経由を試してみたかったというのもあるが。
青森行きのボーイング737は北ウイングの更に一番北の方から出る、スカイマーク便が多いところなのでJALの保安検査場からは少し長く歩くのが御愛嬌というか玉に瑕というか…第1ターミナルも向こう数年内に拡張工事が実施され、その際には更に北に搭乗口が設定されるだろう。さて保安検査場やその他の設備はどうなるのか、興味は尽きない。ついでに搭乗までしばらく時間があったのでバスゲートも散策してみる。
🛫DEP:HND/RJTT
RWY34R
🛬ARR:AOJ/RJSA
RWY24
JAL JL143
(HA5045,CI9963,UK2013,AM7730)
Planned:1005-1115
Actual:1021-1112
Japan Airlines
🛩Boeing737-846 B738
JA335J 40350 /3525
いつものボーイング737と言ってしまえばそれまでだが、やはり電源があるのは有難い。先日の青春18きっぷ旅ほどではないにしても充電機会が限定されるような旅行においてこれがあるのとないのとでは大違いだ。737は満席近い乗客を乗せて雨模様の東京を飛び立つ。その直前に銀のロゴが特徴のJAL A350の2号機たるJA02XJが降りてきた、初めてA350に乗った時の思い出の機体だ。流石にカメラを構える余裕もなく惜しいなと思うが、数時間後にまさかの再会になることをこの時の自分は知らない。
滑走路34Rから離陸し東京ゲートブリッジの上空に至る前に雲に入ってしまったと言えば雲の低さを説明出来るだろうか。雲の中を揺れながらだが力強く上昇し、普段より少し長めに思えたベルト着用サインが消えると宇都宮の上空付近だった。すぐさまドリンクサービスが始まりビーフコンソメスープを頂く、毎度のことではあるにしてもこの安心感がたまらない。
飛行機は奥羽山脈の少し西側の上空を北上していく、眼下に広がるのは奥羽南線沿線の景色ということになるだろうか。とはいえ青森はもはや新幹線で3時間の距離の場所、そうこうしている内に高度が下がり始めてベルトサインが点く。どこまでも森が広がる山の景色が近付いてきて、着陸直前の旋回で目の前に青森の市街地が広がる。
前回この空港に来たときは今市街地の手前に伸びている新幹線で青森入りし、バスで来たのだった。今度は飛行機で飛んできたのでどういうところだったのかの「答え合わせ」が行われているような気分だ。秋晴れ爽やかな青森だが、今回は40分ばかしで次の飛行機だ。再度保安検査を通ってりんごジュースを買い求め、二回り小柄なエンブラエルに乗り込む。こちらはなんと満席とのこと。
🛫DEP:AOJ/RJSA
RWY24
🛬ARR:CTS/RJCC
RWY01R
JAL JL2804
(CI9944,HA5921)
Planned:1200-1250
Actual:1158-1236
Japan Airlines
(Operated by J-AIR)
🛩Embraer ERJ-170STD
JA212J 17000268
お次は青森発新千歳行きのJ-AIR便、50分のショートフライトだ。鉄道でこの区間を移動しようとすると新青森から新幹線、約1時間で新函館北斗に着いて北斗で3時間半程度…5時間位の旅路となろうか。そうなると市街地から空港・保安検査で最低1時間として合計2時間で済む飛行機は魅力的だ。しかし(遅れているとはいえ)あと10年ばかしで新幹線が開業するはずだ、そうなると話は変わる。
新幹線最大の魅力は新函館北斗から札幌が約1時間ということ。つまり新青森から札幌は今後のスピードアップを加味せずとも2時間程度に収まってしまう。「4時間の壁」と比べても大幅に短い時間しか掛からなくなる札幌と北東北を結ぶ航空路線は早い内に体験しておいたほうが良さそうだ。「4時間」と比べてあまり話題に上がらないこと、また最近では航空路線廃止にまで至るようなケースはさほど多くない(類似したパターンの羽田-富山便も新幹線延伸から10年近く経つ今日まで存続している)ためそこまで注目されにくいが、新幹線で2時間半程度の路線は廃止に至るケースが度々見られる。
青森空港を先程と同じ方位から離陸して旋回、北に進路を向けると陸奥湾の景色が広がる。今度の席はA席なので津軽半島を眺めながら北上していく。何度か乗った津軽線、北海道新幹線が目の前に横たわり、そうなると市街地や田畑が途切れるあそこは蟹田ということになるだろうか。
そのあたりのタイミングで下北半島上空に差し掛かり遂には大間の町が見えてくる。もしやと思い前方を見てみると一目で分かるあれは函館山ではないか。以前から大間の函館志向という話は知っていたし、そこを結ぶフェリーにも乗って体感はしていたものの、飛行機から見ると大間と函館は一度に見渡せるような距離にあるということは改めて驚かされる。
どこかに行くときにはこの交通機関を使うというやり方の人は多いだろう。しかし可能であれば是非複数の乗り物を乗り比べてほしい、速度や高度、角度が変わるとこれまでとは違った見方が出来るはずだ…ただ、この究極系としては伊能忠敬よろしく歩くことになるのだろうが。
飛行機はあっという間に高度を下げつつ新千歳空港への着陸列に向かっていく。ベルトサインが消えていたのは正味10分程度、本当にトイレに行く時間を確保するためだったと言われても納得の短さだ。苫小牧港など何か見えないかなどと期待していたが、その前に沖合に何やら苫小牧港を目指しているであろう白い船が見える。その場でAISアプリで確認した訳では無いが、大洗を前日夜に出港したさんふらわあなら概ね時間的に合致するはずだ…と思っていたらビンゴのようでさんふらわあ ふらのの入港直前の姿を目撃していたようだ。
掘り込み式の苫小牧港は飛行機から見ていても分かりやすい、懐かしいフェリー埠頭を見てみると何やら白い船体に帯が入った船がいるではないか。あれは時間と位置的に太平洋フェリーのはずだが…着陸後にAISアプリを確認すると他でもない太平洋フェリー「きそ」が停泊していた。この3ヶ月ばかりの間にまず苫小牧港で地上から眺め、その約2週間後仙台から名古屋まで乗船し、遂に今度は上空からその勇姿を眺めるに至ったのである。
驚いたのは着陸時、陸上に雲が掛かっていたのはその前から見ていたが近づくにつれどんどん分厚い姿が露わになり、苫小牧市街地の上空辺りから凄い勢いで雨粒が後ろに流れていく。ところが空港上空では雨は止み、晴れ間すら見えてきたのだから数分間の変化は凄まじいものだ。秋風吹く新千歳空港、15分ほどの早着だ。
ただ惜しむらくは工事中ということもあり今しがた乗ってきた機体を綺麗には撮れそうにない。駐機位置からすると折り返しの出発時含め展望デッキからもほぼ見られそうもなく少し残念。
着いてからは特にこの後の予定も無く夜まで行き当たりばったりが出来るのでひとまず展望デッキに、どうしようかと考えるついでに先ほど降機時に思うように機体が撮れなかった憂さはらしついでに飛行機を眺める。目の前のラピダスの工場もだいぶ見た目が出来上がってきたなあと見ているとそこに1機のA350が到着、もしかしてとFlightrader24を見ると朝羽田で見たJA02XJではないか。そうなるとこのあとの予定が一気に決まってくる。スポットインを撮ったら昼食として、その後出発時を撮影しよう。
決まってしまえば早いものでフードコートに向かいジンギスカン丼を頂く、新千歳空港はレストランが充実しており選択肢は迷ってしまうほどだが今回は(も)着いたと同時に北海道の味を感じたくこのチョイスに。
各種の料理が全部揃っていて土産物屋、ひいては温泉まであるのだから飛行機でこの空港まで往復するだけでも立派な「北海道旅行」が成立するのもすごい話だと思いつつ駐機場を見ながら思う。飛行機を見ながら食事ができるフードコートの位置も絶妙だ、そういえばここもラーメン店が複数集まられたコーナーがあるのか。空港でラーメンが食べられるといえば福岡空港も有名だ。札幌と福岡、南北の主要都市だがどちらも印象的なラーメン文化が息づいている。
時刻表上の出発時刻よりある程度の余裕を持って再度展望デッキに、スターアライアンス塗装のANA ボーイング767が現れて慌てて撮影するところから始まる。その後はプッシュバックされて出発していくまでお目当ての機体を堪能出来た。
さて、ここからもしばらく時間がある。今日の宿は小樽にあるがおおよそ21時過ぎくらいにそちらに着いていれば十分過ぎるからだ。夕食は札幌で食べてから小樽に向かうとして、さてそれまでどうしよう…小樽の鉄道記念館は魅力的で是非行きたいのだが、この時間から行っても閉館まで時間があまり無い。せっかく行くのならたっぷりと時間を取って堪能したいので今回はパスか。一度完乗したとはいえ地下鉄や市電に乗るのもいいが…そうだ気動車特急に乗りたい、ここからなら苫小牧に出て、そこから札幌まで北斗に乗ろう。
先程の飛行機撮影と同じく一度決まると早いもので区間快速で一駅の南千歳駅に向かい、そこから約40分待ちで東室蘭行きのワンマン電車に乗る。2両の737系はしかしかなり混雑しており、2ドアということもあって乗降も少し時間が掛かる。結局混んでいるのは南千歳から苫小牧でそこからは全員難なく座れる程度だったようだが、そうなるとこの区間をどうにかできないかという気になる。願わくば時折話題に出てくる新千歳空港駅スルー化構想が成った暁にはロンドンから南のガトウィック空港、そして南部の主要都市ブライトンまで向かう"Gatwick Express"よろしく(小樽・)札幌-苫小牧を結ぶ快速電車に期待したいところだが…
電車は千歳線を南下し室蘭本線に合流して沼ノ端、そして苫小牧に到着する。その前に車内でえきねっとからこの後の特急の指定席を予約しておく。チケットレスだと割引もあり、手元のスマートフォンで買えるのだから気楽なものだ。交通系ICカードも苫小牧から札幌方面であれば特に問題なく使うことができる。
ところが苫小牧にいざ着いてみると乗車予定だった特急北斗が1時間弱遅れているとのこと。とはいえ自分自身については全く困らない、一番時間の都合が良さそうな時間が「すずらん」で電車だからその1本前の北斗を選んだだけなのでむしろやりやすくなったくらいだ。嬉しいことに最寄りのセイコーマートにはホットシェフもある、夕食の時間も近いからおにぎりやカツ丼を求めるほどではないがおやつ等を購入してから駅に戻る。函館から乗ってきた人にとってはたまったものではないだろうが。
苫小牧駅のすぐ近くにはバスターミナルがあったが、2015年11月に廃止されているとのことで早くも9年が経とうとしている。バス停は既に移設されており、それまでのホームは使用されていないがビルは駐車場として今でも使われている。かつてはここに数多のバスがやってきて乗客を捌いていたのだろう。もう使用されることはない信号機や充実した設備がかつての様子を今に伝えている。やけに目立つポスターが掲示されているなと思ったらなんでも苫小牧市はポイ捨て規制を先導するような条例を制定した過去があるとのことでそれに関するポスターもある、ローマ字で書いてあるのは目を引くためというところが大きいのだろうか…?
夕闇迫る苫小牧駅で待っていると遅れが少し延びたようだ。とはいえ特急は着々と進んではいるようなので気にするほどではない。ちょうど本来後続のすずらんと被りそうな時間だったが予想通りすずらんを先行させるようでその後に来るとのこと。先にやって来たすずらんは789系1000番台のトップナンバーだった、そして後を追うように北斗が滑り込んでくる。満席近い車内で待ちに待った力強い加速を感じる。今度は鹿をはねてしまうようなこともなく快走するが、遅れの影響故か南千歳駅到着時にしばらく停車した後は列車本数が急激に増えることもあってかだいぶ速度が下がり最終的に遅れは1時間を超えてしまった。折返しについても遅れが残ってしまったようだが大丈夫だったのだろうか。
ともあれ夕食の時間だ、JRタワーステラプレイスでスープカレーを頂く。その後はスタバで抹茶ラテを飲みつつ小樽行きの列車の時間を確認する。普通列車小樽行き、自分が乗るのは721系で緑ナンバーの車両だ。いつ置換えられるのかも分からない車両、今のうちに堪能したいところだ。ところがこの車両、何か見覚えがあるなと思ったらなんと先程苫小牧で見た車両ではないか。おそらくここまでの時間で普通として苫小牧から走ってきたのだろう。
発車直前にまとまった乗車があり通路にも立ち客がポツポツ出ている状態で札幌を発車する。とはいえ夕ラッシュなので駅ごとに乗客は段々減っていく、手稲までで立ち客は座るか降りるかして終点の小樽に向けて南小樽を発車した頃には座席の半分も埋まっていないという塩梅か。南小樽駅はコンビニが併設されており、なるほどこれは使いやすい。
南小樽で降りたのは今日の宿…すなわち新日本海フェリーのターミナルに向けて、歩いていくならここが最も良さそうだったためだ。フェリーターミナルまでは小樽駅と小樽築港駅からバスが出ている、しかし徒歩で行くなら中間の南小樽だ。海沿いに出てから公園でこれから乗る船を眺めて、それからターミナルに行くことができる。ここも先日こちらは新潟発の「らべんだあ」を眺めたところ、朝方だった前回と異なり今度は真っ暗だが道順は分かりやすくそこまでの障壁でもない。これからの約1日お世話になる船を眺めてトラックやトレーラーが行き交う様子を横目にフェリーターミナルに到着。既にQRコードを用意しているので乗船手続きも特にやることは無く、売店で水を買ったら後は持ってきた本を読みながら乗船開始時間を待つ。しまった、せっかくなら新日本海フェリーの本を持ってくればよかったか。
今回乗船するのは新日本海フェリー舞鶴-小樽航路の「はまなす」何やら東京九州フェリーの「はまゆう」とごっちゃになってしまいそうな名前だが更にややこしいことに「はまゆう」は東京九州フェリーに加えて同じSHKライングループ内の関釜フェリーにも同名の船が存在する、どちらかというと関釜フェリーの方が先輩なのだが。ということでSHKライングループには「はま○○」と名のついた船が
・関釜フェリー「はまゆう」
・新日本海フェリー「はまなす」
・東京九州フェリー「はまゆう」
の3隻があるという次第(並びは就航順)。
余談はさておきこの舞鶴-小樽航路は新日本海フェリーの代表的な航路で、舞鶴・小樽を深夜に出て翌日夜に目的地に到着する。所要時間約22時間と聞けばこの船の航海速力30.5ノットにも納得がいくというもの。すなわちこの速度は2隻でこの航路をデイリー運航するために求められた数字なのだ。かつては3隻で運航していたが、それでは曜日毎に異なる時刻となってしまう。同じ時刻で運航するなら4隻要る上、半日以上停泊するため稼働率も下がってしまう。その答えが海上自衛隊の護衛艦もかくやというほどの高速フェリーを導入して2隻で運航していくというスタイルなのである。
敦賀-苫小牧(東港)もやはり同じような方法で運航しているし、東京九州フェリーもこの方法だ。物流に人流に、関西圏対北海道で夕方までに発送で翌々日朝配達可能な速達性と使いやすさは大きな武器になっている。
徒歩での乗船開始は出航30分前の23時ちょうどから、乗船したら荷物を自室に置きすぐさま入浴に向かう。既にドライバーの乗船開始からはしばらく時間が経っていることもあってか大浴場は早くも盛況、とはいえ洗い場が埋まっているというほどではなくスムーズに身体を洗い湯船に浸かった頃に底の方から唸るような音。おっとちょうど出航したようだ。しばらくフェリー特有の揺れに身を任せてお湯に浸っていたが明日も朝風呂そして夕方頃に入るつもりだ、そんな場所に挨拶も済ませたし部屋に戻るとしよう。
入浴してさっぱりすると後は寝るだけなのだがここで何か食べたくなるのが人情というもの、とはいえレストランの夜食営業は無いのだがこのために苫小牧のセイコーマートでカップ麺を買ってきたのだ。給湯室でお湯を注ぎラーメンを啜る背徳感と来たらもう。
フェリーでの夜食でカップ麺というのは前々からやってみたいと思っていたのだが、通常は夕食を済ませて朝食なので出番は無い。しかし乗船時間があまり短い場合だともう地上で食事したほうが良い、そうなると深夜発で早めに夕食も済んでいたためというエクスキューズが使える今回は格好のチャンスだったという次第。
チョイスしたのは「えびだし塩ラーメン」、セイコーマートのカップ麺というと山わさびのそれが有名だが流石に夜食のためにむせると有名な刺激強めのものを選択する勇気は湧かなかった。とはいえこのえびだし塩ラーメン、あっさりした味で美味しく頂くことができた。
ここで今回の部屋について、利用したのは2名定員(最大3名)の「ステートB」の和室である。繁忙期でなければ規定の料金を支払うことで1人でも問題なく利用できる。鍵は乗船時に船内インフォメーションで乗船券を見せて受け取る。洗面台と戸棚が別途ある3畳の部屋で乗船時点ではベッド(布団)メイキングはなされておらず自分でセットする必要がある。コンセント類もしっかり確保されており、部屋ごとに窓があるので日本海の大海原を心ゆくまで楽しめる。床の間のライトも専用のスイッチで制御できるのも驚きだ。
客室の環境は良く、マットレスの柔らかさも程良い程度。入浴から戻ってしばらくこそ揺れに伴うガタガタ音が気になったもののしばらくすると慣れて快適に眠ることが出来た。
翌朝は7時前に目が覚める、窓を開けてみるとちょうど眩しい太陽が輝いていた。少ししてエントランスまで歩きディスプレイに目をやると船は津軽半島の西側沖を航行中とのこと。速度の表示はないが海原を走る速度からしておそらく30ノットかそれに近い数字を出していることだろう。陸地からは大きく離れており電波は通じない。天気は雲がいくらかあるも高い青空が美しい。
さて何故この時間なのかというと元々は朝食前に朝風呂でも入れたらと思ったのだが、おっと残念朝風呂は8時からだ。レストランはオーダーストップが9時なので朝食を済ませてから入浴とするのが良さそうだ。少々のお預けを喰らうもそれならと船内を歩いてみる。
強風のためとしてデッキの類はほぼ閉鎖されており、航海中外の空気を吸えるのは基本として5階カフェから出るオープンデッキのみとなる。せっかくなら護衛艦並の速さというものを全身に受けてみたい気もするが30ノットで航行する以上仮に無風でもデッキ上は秒速14m弱、台風の強風域顔負けの風が吹きすさぶのだから立入禁止も無理のない話かもしれない。
エントランス付近とカフェ(営業時間外でも立ち入り自由)、それに続くプロムナードにフリースペースとして椅子やテーブルがあり、こういったところで読書など自分の時間を過ごすのも良さそうだ。ただ建造時期が比較的古めなのもあって共用スペースには電源はほぼ無い。こういった場所でPC作業をしたい場合にはバッテリー残量に要注意といったところか。
8時からの朝食はこの航海で最初にレストランが使えるタイミング。ここのレストランもタブレット注文でセルフ会計となるので人は料理の用意と配膳・下膳に集中できるスタイルだ。お粥かカレーかで迷ったが、お粥に納豆、焼鮭を組み合わせることに。せっかくならと注文してみた焼鮭だがこれが個人的には大満足のもので、流石新潟や北海道を結ぶフェリーというだけのことはあると納得(メニューに産地表記はないので本当にその地域のものかはともかく)。ちなみにオープンデッキは夏季にはジンギスカンセットが用意されて船上でジンギスカンを楽しめるとのこと。
そんなオープンデッキがこの航海で一番の注目を浴びるのは9時53分、筆者はというと念願の朝風呂を済ませてフォワードサロンでくつろいでいた頃に姉妹船あかしあ反航の放送が流れる。15分後の10時08分頃とのことでデッキに向かう算段を立てる。
深夜発夜着だと朝食を終えて一休みしたタイミングでこのイベントがやってくるので楽しみが途切れないのが素敵なポイントだ。しかし同時に行程半ばということになるのでこの素敵な船に乗っていられるのもあと半分の時間なのかと少し寂しさをも感じさせるタイミングだ。もっともここまでの時間は半分くらい寝ていたのだからお楽しみはまだまだこれからというのが適切なのだが…
5分ほど前にデッキに着くと思っていたよりだいぶ人が多く、写真を撮るにしてもシャッターチャンスはかなり限定される。しかもデッキの構造上前方がなかなか見えにくいので視界は真横から後方に限られる。とどめにどちらも30ノットで突っ走っているのだから相対速度は100km/h以上になっているはずでちょっとフェリーの速度とは思えない。汽笛吹鳴とほぼ同時に視界に入ってきて、そして瞬く間に後方に消えていく。
やっぱり速い、30ノットの世界はこんなにも違うのかと改めて感じさせられる。それからしばらく人のすっかりはけたデッキでエンジン音と波の音を聴いて日光に夏の名残を感じる。美しく深い青の海はもう3ヶ月も経つと鈍色の光を跳ね返す大荒れの海になるというが、にわかには信じ難い穏やかさだった。
すれ違った「あかしあ」が水平線の彼方に消えていくと再びただ1隻日本海をひた走る。昼食までしばらくの自由時間といったところだ。ちなみにこの記事についてもこうしたタイミングを見計らってメモ帳に書き続けている、そうして書き上げたものを到着前になってしまうだろうか、電波が通じるタイミングで一気にコピペしてアプリに写すことになる。オフラインで記事の編集ができれば嬉しいのではあるが。
そうしている内に12時になった、昼食の時間だ。現在秋の東北・北海道フェアとのことで限定メニューのエスカロップとだまこ汁をオーダーすることにする。とはいえ根室にこのような料理があることも知らなかった、次行くとしたらちょっと探してみたいが寿司の誘惑とのせめぎ合いになってしまいそうだ。
昼過ぎとなり段々と雲が増えてくる。日没を見てみたい気がするのだがこの調子で行くともうその頃にはすっかり曇ってしまいそうだ。オープンデッキで左右の端あたりにまで行くと波の音がよく聴こえてきてエンジンの音と合わせ船旅をしているという実感を改めて得られる。Starlink等の高速通信システムがいよいよ船にまで進出し、乗組員の就業環境としては是非導入する価値があるだろうにしても自分としては時にはメールやアプリの通知から自由になれる時間というのが欲しいという気持ちもある。まあそれは自分自身で機内モードに設定していれば済む話ではあるのだが、自宅でだってこれをやってライブBDを観れば「おすすめのトレンド」に惑わされない時間を創り出せる。
この時間にカフェも使ってみる、朝食及び昼食後のしばらくの時間軽食やデザート、ドリンクを提供してくれるので食事をこちらで済ませるのも良い。流石にカレーライスを注文する度胸は無くチョコレートアイスを注文、北海道産クリームを使っているとのことでこれは美味しい。しばらくその場で記事を書き続けてからフォワードサロンに移動した。
フォワードサロンに着いてしばらく、15時過ぎに突如YouTubeの通知が来た。電波が通じている場所ということだ、それならとAISアプリを立ち上げると我らがはまなすは能登半島の西側の沖合を南下している。入港まであと6時間程度、気が付いたらもうそこまで来たのか。陸側を見てみるとなるほど確かに能登半島が見える、またちょうど真横にフェリーがもう1隻走っているではないか。確認するとあれは同じく新日本海フェリーの「すいせん」のようだ、あちらは昨晩苫小牧東港を出航して敦賀に向かっている。アプリだけでなく目で見ても白っぽい船が確認出来て、久しぶりに「人がいる世界」に戻ってきたような気分になる。
自室でしばらく昼寝をしているとそろそろ17時近くになってきた、日没時間も気になるところだしそろそろ入浴としよう。夕食前ということもあってか大浴場はなかなかの盛況ぶり、上陸に向けてここで汗を流したいのは皆同じようだ。上がり湯を浴びるタイミングを見失いかけつつもこの航海で最後となる大浴場を満喫したら案内所に借りていたバスタオルを返却し、オープンデッキに向かう。
やはり雲がかかっていて日没そのものは見られそうもない、しかし色を変えていく雲と空、そして海を眺め波の音とエンジン音のデュエットに浸っているとしみじみとした気持ちが湧き上がって来る。このような感覚を拾い集めるために人は旅をするのだろうか。…などと浸っていると夕食が始まるというアナウンス、この航海最後の大きなアクティビティを最後まで楽しませてもらうとしよう。
夕食に選んだのはオリジナルビーフシチュー、サラダをローストビーフサラダに替えてのオーダーとした。たっぷりの柔らかい牛肉が入ったシチューは充分なボリュームがあり大満足、なるほどこれは自慢のビーフシチューというだけのことがある。他にも就航地にちなんだものを含めて魅力的なメニューが多々あり、食事だけで見てもこれは何度でも乗ってみたいくらいだ。最後に自動販売機でアイスコーヒーを求めて自室に、ここまで20時間近く乗ってきたこの航海も最終コーナーを終えてのストレートに入ったというところか。自室にいても外の様子がにわかにこれまでに無い慌ただしさを感じさせるものになってきた。
入港1時間前になると案内放送が入り入港時間は予定より10分早い21時05分とのこと。早く着くのは有難いような、しかしこの船から離れがたい気持ちもあり複雑な思いを感じさせる。下船後はこれと言った移動や活動はなく、徒歩で近隣のホテルまで行きそのまま宿泊となる。着いたらすぐに寝られるように歯磨きなども船内で済ませてしまう。
徒歩で20分もせずに今晩のホテルであるアマービレ舞鶴に到着、「艦これ」のキャラの立て看板やロビーの重巡「摩耶」の模型で思い出したが舞鶴は旧軍以来の軍港の街だ。明日は朝早々に移動するつもりではあるが、この要素もいずれじっくり楽しんでみたいところ。
音楽用語で「愛らしく」を意味する言葉を冠するホテルだが、その由緒は正しいもので現在洋食レストランとして使用されている松栄館は元々かの東郷平八郎が宿泊や宴会で使った場所とのこと。ますますこれは時を改めてじっくり堪能してみたい、そんな場所がどんどん増えていく。
翌朝、今日は朝に伊丹空港行きのバスに乗るまでしばらく自由時間がある。そこまで本格的な観光といかずともひとまず旧海軍の施設などを少し見て回る余裕はありそうだ…ということで朝食バイキングの腹ごなしついでに海沿いをしばらく歩く。
ここのレンガ倉庫は戦前、旧海軍時代に建設されたもので見れば納得のイギリス積みとなっている。観光船や博物館なども多く、次に来たときには是非ともしっかり時間を取って様々な場所を見学してみたい。その後は自衛隊桟橋付近を歩く、もがみ型護衛艦をしっかり見られたのは初めてかもしれない。
またこの付近にはここ舞鶴で役目を終えた護衛艦「しらね」「あまつかぜ」の主錨が展示されている。しらねは近年まで活躍していたヘリコプター搭載護衛艦、あまつかぜは日本初の艦対空ミサイル搭載護衛艦で、今のイージス艦にも繋がる重要な存在だ。
バスが出る東舞鶴駅までは北吸トンネル経由の道を辿る、こここそは1972年に廃線となった舞鶴線の支線(通称中舞鶴線)だ。明治時代に軍港引込線として建設されて大正9年に鉄道院の路線として営業開始、戦後も使われていたが道路整備でその役目を終えた。その廃線跡のうち北吸トンネルを含む区間は遊歩道として使われている。
東舞鶴からは京都交通バスで一気に伊丹空港に向かう、てっきりよくある4列シートの高速バスだとばかり思っていたら3列シートでトイレ付のバスが来たのには面食らった。比較的短距離ながらトイレを利用する様子もあり快適性という観点ではなるほど確かに魅力的。コンセントが全席にあるのもポイントが高く、JR西日本の特急がここで出遅れたのは本当に惜しまれる。
伊丹空港では2時間半程度のトランジット、ここの飲食店は多くが保安検査通過後にあるのでスポッティングもそこそこに。軽めに昼食を食べたら余裕を持ってゲートに向かう。
🛫DEP:ITM/RJOO
RWY32L
🛬ARR:NRT/RJAA
RWY34R
JAL JL3006
(AA8431,BA4607,HA5463,OM5522,TN1801)
Planned:1435-1600
Actual:1451-1547
Japan Airlines
🛩Boeing737-846 B738
JA343J 39192 /4048
ここからは成田行きのフライトで帰る、16時に成田に着くためそこから北米や東南アジアに向かう国際線に乗り継げる接続便としての性格が強い。機内も国内線とは思えないくらい国籍豊かで大半の乗客が大荷物を抱えているが、機体は普通の国内線仕様の機体となっている。
上掲の写真を撮ってから1分もしないうちだろうか、離陸からすぐに機体は雲の中に入ってしまった。前線の影響でフライトの大部分が雲の中を飛ぶものとなりほぼずっとベルトサインが点灯、ドリンクサービスも冷たい緑茶のみと大変なものになった。CAさん本当にお疲れ様でした…
次に地上が見えたのは着陸直前、ギアを下ろしてから九十九里浜上空に差し掛かった頃となった。
折返しの伊丹行きは北米や東南アジアからの到着便の乗客を受け入れてから飛び立つ、ターミナルが一番混む時間帯ということもあってか沖止めで降機後はバスでターミナルに向かうことになる。搭乗機を撮れないのは寂しいが周りの飛行機の充実したバリエーションで待っている時間も全く退屈させてくれない。第2ターミナル国内線区画、年初の旅を始めたところが今回の到着地となった。
帰るには少し早い時間だが、着陸後のタキシング中にこの旅を始めた日に公開が始まった劇場版MyGO!!!!!の予約を行っていた。満員の京成線快速電車で京成成田に行き快速特急で先を急ぐ、今日の楽しみはまだまだ終わらない。