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【エッセイ】人は変われないのだろうか
人は変われないのだろうか
前に言われたことがある
「そんなこと言ったって、どうせ人は変わらないからね」
仕事終わりに行った
新橋の立ち飲みの居酒屋
店内は平日というのに
私たちと同じような仕事終わりの人で
まあまあ混雑していた
周囲から聞こえる笑い声に紛れていたはずなのに
流れているテレビの方を見ながら
私の隣にいた人が呟いた声は
はっきりと聞こえた
確かそれは何かを言った私への回答だった
私はゆっくりと右手に持っていたビールを飲み干し
「私はそう思いませんけどね」
と言った
「人は変わらない」
確かに変わらないこともあるのかもしれない
例えば、
私のこうやって何かの一言からあれこれ考えて、色んな思いを掬い取って結びつけようとしてしまうこととか
何かの背景を知りたくなってしまうこと
周りの目を気にしてしまうこと
傲慢な気持ちが湧いてくること
最後の晩餐はお寿司一択だということ
とか
私以外の人だって
母は、何度大丈夫と言っても先回りした優しさで行動する
とか
変わらないことは沢山ある
人は変わらないのかもしれない
変わらないことの居心地の良さもある
でも、変わることでしか得られない何かがあって
私は
そんな遠い目をして
「結局人は変わらない」
と言えないし、言いたくない
自分自身変わったと思ったことがある
ずっと仲良くしてくれている友達から言われるくらい角が少しなくなって
自分では今の自分が好きだと言えるようになって
あの頃よりは柔らかく、色んな感情を大切にすることができるようになった
そんな自分まで否定されているみたいで
私は決意を込めて
「私はそう思いませんけどね」
と言ったんだ
この前、人に
「人って変わらないと思う?」
と聞いた
その人は
「どっちでもあるんじゃないかな」
と言って
「根本的には変わらないけど、表面的な選択は経験とか考えとかに基づいて変えることができると思う」
と続けた
その答えを聞くまでの私は、
「覚悟と行動が伴えば人は変われる」
「根本的にも変われる」
と思っていた
自分がそうしてきた気がしてたから
けど、少ししっくりこないところもあった
変わったはずなのに変わらないところもあって
矛盾を感じてたから
少し苦しかった
だからその人の答えは、
私の考えていた答えに一番近しいものだった
だから、変わらないことと変わらないことが混在することがあるのかと
どっちもあっていいのかと軽くなった
その上で考える
「人は変われないのか」
人は
変わらない部分もあって
変わる部分もある
根本的な性質の中でも
経験や出会いで
新しい性質が
少し組み合わさったり
欠けたりして
変化して
信じるものや考えが変わることで
それに伴って行動が変わる
だから表面にも変化が出る
変わらない部分と変わらない部分が
混ざり合いながら
それが今の私の考えに近しい気がする
だから
やっぱり私は
今だってこう答える
「人は変われると思いますよ」