祖父
祖父が死んだ。
それを伝えられたのは昨晩のこと、夜半1刻を過ぎてのことで、俺はバーのアルバイト先で母親からの連絡で気がついた。俺が知ったのは3時半を回った頃だったと思う。
アルバイト先だったのもあり、先輩ともう一方いらっしゃったので、俺は気丈に振る舞えた。
マスターも早く上がれと仰ったので、或る程度の片付けをして店を後にした。
店を出た俺は、なんだかよくわからない感情を今すぐ吐き出したくて、Aに電話をかけた。
何を言ったかは記憶していないが、歩道の真ん中で大の字になって泣き言を言ったのだろう、きっと。
タクシーを適当に呼び止めて適当に家の近くまで帰った。
薬もやめたのに、気づいたら寝ていた。
次の日の昼、親父が俺を起こしにきた。
寝ぼけた俺はよくわからないまま、喪服を着た親父を眺め、何かを言う様を眺めていた。
とりあえず起きなければならなさそうであった。
結局起きてシャワーを浴びたのは夕方四時前。
状況を飲み込む前に親父のダブルのスーツを着て、車に乗り込んだ。
家に近い葬儀場に到着すると、さきに叔父が半袖のTシャツで待っていた。あぁ、こういうところだな、と、良いも悪いも思わず言葉を適当にかわし、家族は礼服で座布団の上に座った。叔父は気まずそうに少し離れたテーブルに座っていた。
その後叔父の家族と、叔母の両親が到着した。
俺はシラフだったので適当に挨拶をし、母親と妹と車で酒などを買いに行った。
シラフじゃ無理だ。誰もがそう思っていただろう。
車を運転する両親も、おそらく、祖父の伴侶である祖母も。
ただ、祖母と母は、向き合っていた。
酒を一滴も呑まず、淡々と事務的な処理を行い、
祖父の過去の映像のチェックを涙ながらにしていた。
耐えられず、電話をしがてら煙草を吸いに行き、戻った俺はちょうど涙を流す母と祖母と祖父の映像を眺め、つぶやいた。
「かっこよかったな。」
市役所の局長、つまりトップまで上り詰め、議会でボロクソにいじめられ、それでも食らいついた祖父の生き様を俺はよく聞かされていた。
夜中に帰ってはまた深酒をし、出勤していたらしい。
甚だ俺にはまだできない。母にも後少しできない。
そんな祖父のことが大好きだった。
そして俺はいま祖父の遺した酒を1人呑んでいる。
ありがとうおじいちゃん。
また呑もうね。