苺大福の店
大学生の頃、足繁く通っていたお店がある。
苺大福のみせ
大学生の頃、大学のそばに昭和の雰囲気を残すこぢんまりとした和菓子屋さんがあった。
営業時間は店の前に大きな文字で「お団子」と書かれた白い立て看板が出ていた。
ガラスの引き戸を開け、店内に入るとすぐに現れるガラスケース。そしてそこに行儀よく並ぶ可愛い和菓子たち。約15〜20種類の大福や草餅、串団子などを販売していたと思う。
店内はお客さんが2人いるともう動けないくらいの小ささで、いつも私は大好物の大福1個と、その日の気分でもう1個適当にさっと選ぶ、という買い方を繰り返していた。
私はおそらく1〜2週間に1度のペースで通っており、そこそこのファンだったと自覚している。
その店が好きな理由は沢山あるのだが、味・価格・人柄・ホスピタリティの4つに分けて紹介していきたい。
・味がいい
その店で出す苺大福が、私の大好物だった。
赤ちゃんの肌みたいにやわやわな求肥、優しい甘さの白あん。なぜか少ししゅわっとする、丸々1個入ったいちご。いちごの爽やかな酸味と白あん控えめな甘さとの相性が絶妙で、これ以上に美味しい食べ物なんてこの世にないんじゃないか、と思うほど美味しかった。
そのため、店に来たらまず苺大福は必ず買っていた。しかし苺大福は冬〜春の期間にしか販売しておらず、季節によってバナナ大福になったり、杏大福になったり、キウイ大福になったりした。そんな時はそれらを食べていたしもちろん美味しかったが、やっぱり苺大福の季節になると格別に嬉しかった。
そのほかにも、色んなフルーツを少しづつ詰め込んだフルーツ大福も大好きだった。
この美味しさはやはり周知されており、午前中ですぐ売り切れてしまうので2コマ目の授業がない日によく買いに行っていた。
・安い
いちご大福1つの価格が130円。クオリティが日本最高峰レベルで美味しいのに、価格も業界トップクラスに安い。スーパーで売ってるものと遜色ない価格で、その道数十年のプロの味が楽しめる。おかしい。他の店で苺大福を買おうとすると200〜300円くらいするのが普通だと思う。
学生のお財布にもとても優しいお店だった。
・人柄
優しくニコニコしてる小さな老夫婦が切り盛りしていた。専らおじいさんがお菓子作り、おばあさんが店頭で販売を担当しているようだった。私はおばあさんのファンで、よく話しかけていた。おばあさんが、「あら、いらっしゃい!今日はちゃんと苺大福ありますよー」と声をかけてくれるのが嬉しかった。
・ホスピタリティ
店頭に並ぶ大福を買った際、「これ、あまりで作って小さいからおまけね。」とこっそり子供サイズの大福をつけてくれたことが何度もあった。
他にも私が友人と3人で店へ立ち寄った時、店が小さくて友人2人は外で待っていた。その際、おじいさんが「外のお友達と一緒に食べてね」と買っていない串団子を3本つけてくれたこともあった。
行くたび行くたび2.3個和菓子を買うとほとんど毎回のようにおまけで販売している商品をつけてくれた。いつも、笑顔も商品でもサービスを沢山してくれるお店だった。
良いことがあった日も、悲しいことがあった日も、何もない日でも、1人でも、恋人と散歩がてらでも、数えきれないほど足を運んだ。
何も変わらず、そこにただ在り続けてくれることが嬉しかった。
大学卒業後、私は県外の企業へ就職する。
数年してから仕事の研修がてら、大学のそばに立ち寄れる時間があったのでお土産を持って和菓子屋さんを訪れた。
和菓子屋さんは、シャッターが閉まり、看板もなく、「本日お休み」の看板も無くなっていた。
店と自宅が一体化した建物だったため、家の玄関を探し、インターホンを押した。すると、私の大好きだったおばあちゃんが出てきてくれた。無意識に胸を撫で下ろす。
どうやら、おじいさんの腰の持病が悪化して、数年前に廃業していたそうだ。
大学のそばということで、きっと私みたいな学生とはきっと沢山会ってきただろう。数年前のことだしきっと覚えていない。
それでも、私はお店の和菓子が大好きで、何度もこの味で幸せをもらって、辛いことを乗り越えてこれました。大好きです。ありがとうございました。
とめいっぱいの感謝と告白をして、今の自分の住む地域の銘菓をお渡しした。
おばあさんは顔に皺をいっぱい寄せて「ありがとうございます」と笑ってくれた。
私のことを思い出してくれたかどうかは分からないけれど、ご夫婦の作品の大ファンが存在しているんだと、伝えられたことにはとても意味があったと思っている。
その後もかっこつけて去りたかったのに、車の運転に慣れていなかった私は、おばあちゃんが見守る中緊張してなかなかエンジンをかけられず余計に焦って時間がかかってしまった。それでもおばあさんは最後まで見守り、見送ってくれた。
その日以降、もう数年経つが会ってない。
元気でいてほしいと願うばかりである。
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