ダダイスト、マルセル・デュシャン。彼の笑い。
大学生のとき、マルセル・デュシャンの展覧会をみるため、六本木へ私は行った。
既に美術本で見慣れた彼の作品が、会場に散りばめられて、はじめて見るような小さな小さなおもちゃに、ついつい笑った。
当時の私はデュシャンを尊敬し、彼の不在に喝采していた。
「今では、カフェのボーイをやってます」
晩年のデュシャンはそう微笑んで、秘密の秘訣としていた。
で、私もカフェで働いてみたけれど、なかなか彼のようにはいかず、後日、大手町のバカらしい法律事務所に勤務した。法学部法律学科の人間しかいないその事務所で、パンを食べて私はしがない暮らしをした。
マルセル・デュシャン。
あれから私は無数の恋を愉しんだ。秘かなこの愉しみを、苦しみ多き、と、アナトール・フランスのように言わなければならないのか?
いつかまたカフェで働きたいと思う。
その準備のために、も少し、戯れ歌でも記しておこう。