木の葉と人の群れと
秋の終わりから冬にかけて、都立公園の一本の木を眺めていた。北風がだんだん強くなり、木の幹は揺れていた。
私は画家コローの風景画を思い出していた。少し暗い感じの木々の絵だ。
風が強くて、木から音が聞こえる。
葉がどんどん飛ばされていく。
葉の数が十枚ほどになった。はらりはらりと散っていく。
木の上方に、二枚だけの葉になった。そして一枚、それだけになった。
風は下からやって来た。
木の葉の最後の一枚が、剥がれて飛んだ。
O・ヘンリーの小説にはこの様子が書かれていない。
まざまざと私は見た。
木の葉はなくなった。
年の瀬、東京にたくさんの人々が集まってくる。
花の都に憧れて、人々はやって来る。
川端康成の『雪国』には「花は、なかった」との文があり、「葉子さん、葉子さんじゃないか」と看護師の葉子の病状への驚嘆の文が続く。
東京の最後の一葉をずーっと観察していた私は、押し寄せる観光客を見て、ちょっと理不尽を感じる。
小説では葉子が火事で死んでしまう。
駒子は途方に暮れている。
私も、たくさんの観光客を前に、途方に暮れて、木の葉のなくなった木陰に隠れる。