ヒナドレミのコーヒーブレイク 12月24日
今年も、カレンダーは あと一枚を残すだけとなった。
私は、色々な予定をカレンダーに書き入れるタイプの人間ではない。したがって我が家のカレンダーは、白紙のまま その役目を終えることが多い。だが、今年は違った。と言っても一日だけだが、カレンダーに書き入れる予定ができた。12月24日、クリスマスイブだ。
この年になると、クリスマスツリーを飾るわけでもなければ、ケーキや七面鳥を食べるわけでもない。一人きりで祝っても虚しい。だから、毎年 クリスマスイブもクリスマスも、いつもと何ら変わりのない質素な食事にする。だが、今年は違う。12月24日の欄には、赤色で二重丸の印をつけてある。普段は、ほとんどカレンダーを見ない私が、予定が入ったその日から、日に何度も見るようになった。まるで何度もカレンダーを見れば、その日が早くやって来ると信じているように。
12月24日。その日は我が息子・穣(みのり)が我が家にやって来る。穣に会うのは もう何年ぶり、いや何十年ぶりだろうか?少なくとも、私がこの家に越してきた20年前からは、一度も会っていない。穣は今年38歳のはずだ。
穣は17歳の時に、突如 家を飛び出して行ったきり、20年以上 連絡もよこさなかった。それが、何ヶ月か前に突然「今年の12月24日にそっちに行くから」と連絡をしてきた。おそらく 金の無心だろうが、穣に会えるのなら それでも構わなかった。その日は、思い切り豪勢な食事を用意しようと思っている。穣はビーフシチューと、だし巻き卵とエビフライとショートケーキが好物だった。当日は、それらを全てケータリングするつもりだ。今から、店に予約をしてある。
そして12月24日はやってきた。約束の午後6時を10分程過ぎた頃、穣は現れた。以前より大分 貫禄がついて、一回りほど大きくなっていた。「すぐにここが分かったのか?」と尋ねると、穣は「あぁ」と短く答えた。
まずは、再会を祝してシャンパンで乾杯し、しばらくは談笑が続いた。「それで、金の方は大丈夫なのか?」私は本題に入った。「それなんだけど・・・」穣が言った。(ほら来た!)私は思った。「実はさ、オレ 小さいながらも会社を経営してて、そこの社長をやってるんだ。学生の頃、散々 親不孝してきたから、少し恩返しでもしようと思ってさ」穣は現在、結婚して 嫁と2人の子どもと4人で暮らしていると言った。何だか いつの間にか 大人になった穣に 私は嬉しいやら少し寂しいやら、複雑な心境だった。穣は「いつでも、親父のこと 面倒見るからさ」と照れ臭そうに言った。私は、(いい正月を迎えられそうだ)と 一人 にやけていた。
完