ヒナドレミのコーヒーブレイク 似た者同士
有紗は二十歳。ファッションに全く気を遣わない女子。そして全てのことにおいて『こだわり』が全くない。
ある日、特に目的もなく 駅の周辺をブラブラしていた。すると心地良い歌声が聞こえてきた。見ると、駅近くの広場で有紗と同世代の男子が ギターを弾きながら 一人で 歌を歌っていた。あまりにも心地よい声だったので、有紗は 彼の前に立ち、彼の声を一心に聴いていた。周りには他に誰もいない。
そして有紗は、洋服が汚れるのも構わずに 彼の前に体育座りをして彼の歌声を聴いた。ライブ?はあっという間に終わり、彼は 帰る準備をしていた。有紗が「次はいつ来ますか?」と聞くと、来週の同じ時間だと教えてくれた。
その日それから 有紗は、来週 ライブへ行く時のための洋服や靴を買いに行った。今までに着たことのないような可愛らしい洋服と靴を。
そして家に帰ってすぐに試着をしてみた。「有紗、なかなかイケてるよ」鏡の中の自分にそう言った。
ライブ当日、母親の口紅を借りてつけ、あの時に買った洋服と靴で 例の広場に行く。彼はもう 歌っていた。その日も 周りには 誰もいなかった。
彼は 全曲を歌い終えると「ちょっと待ってて」と言って 2~3分の間 姿を消した。そして戻ってくると「オレの曲を聴いてくれたお礼」と言って 有紗に缶コーヒーをくれた。
二人はその場で座って缶コーヒーを飲みながら、他愛のない話をした。
しばらく話をした後 有紗は言った。「またここでライブやる時は、教えてくださいね。必ず来ますから!」そして二人は LINEの交換をした。別れ際に彼は言った。「ライブのお知らせ以外はLINEしちゃダメかな?」「全然 大丈夫」有紗は言った。
こうして有紗は彼と付き合い始めた。彼といる時間は矢のように過ぎていく。付き合っていくうちに気づいたことがある。どうやら彼も『こだわり』が全くないということだ。似たもの同士かもしれないと思った。
何度目かに彼と会った時に、彼の夢を聞いた。彼の夢・・・それは(彼には田舎で暮らす祖母がいるそうだが)「近い将来 ばーちゃんの家をリノベーションしてそこに移住したい」だった。その話を聞いた有紗は(何て素敵な夢なの!!)と思った。そして彼の夢を応援してあげたくなった。そして彼に言った。「私も その夢を実現するの 手伝いたい!」
完