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ヒナドレミのコーヒーブレイク    我ら『折り鶴 捜索隊』

 今、私は祖母の家にいて 私の目の前には 祖母がいる。祖母と私は 折り紙で鶴を折っていた。足が冷えるらしく、祖母の家の居間には 一年中 炬燵が出ている。

 その炬燵に、祖母は足を入れ 私は座布団の上に正座し 二人は黙々と折っていた。

 「あれは、舞葉(私の名前)が4歳の時だったか」祖母は手を止めて 唐突にそう言うと、お茶を一口啜って 話を続けた。「当時、近所に住んでいた、舞葉と同い年の佐衣子ちゃん。舞葉は 覚えているかな?」私は、記憶を辿ってみたのだが、佐衣子ちゃんを思い出すことが出来なかった。

 祖母の話はこうだった。ある日、祖母が佐衣子ちゃんと私を連れて 近所の森へ行こうとした時のこと。途中で通りがかった小さなパン屋さんから パンのいい香りがして、私たちは 思わず立ち寄った。そして そこで佐衣子ちゃんはメロンパン、私はチョコレートのコロネを買ってもらった。

 店内には、可愛らしい手作りの小物が置かれていたのだが、その中で佐衣子の目を惹いたのは『千代紙で出来た折り鶴』だった。佐衣子が 余りにその折り鶴を熱心に眺めていたので、パン屋のおばさんは「よかったら、持ってっていいわよ」と言ってくれた。そして佐衣子は、その折り鶴をもらって店を出た。

 森の近くのベンチで、二人はパンを食べ、祖母は、それを横で見ていた。佐衣子は、パンを食べている間も、何度も折り鶴をポケットから取り出して見ていた。

 そして私たちは、森へ行ってドングリ拾いを始めた。ドングリが 持参した袋の半分ほどになった頃、少し暗くなってきたので、そろそろ帰ろうと祖母が言った。

 その時「ツルさんがいない!」佐衣子ちゃんが言った。三人は、辺りを捜してみたのだが、暗さも手伝ってか 折り鶴は見つからない。祖母が「明日、明るい時間に探しに来よう」と言い、佐衣子ちゃんは 渋々「わかった」と言った。

 その翌日。前日のように 三人はドングリの森へと・・・この日はパン屋には寄らずに・・・行った。そして折り鶴を捜した。折り鶴捜索隊の健闘 空しく、この日もツルさんは見つからなかった。その翌日も、その翌日も。

 ツルさんがいなくなって1週間経った。私たちは、もうツルさんは 誰かに拾われたのかもと 半ば諦めていた。「新しいツルさんを折ろう」と言ったが佐衣子は首を横に振った。

 そして、その翌日。今日見つからなければ、もう諦めようと 佐衣子を諭し、三人は最後の捜索を始めた。辺りが薄暗くなった頃「いた!ツルさん、いたよ」佐衣子の 嬉しそうな声が、辺りに響いた。                    
                               完

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