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ヒナドレミのコーヒーブレイク     彼女とクラシック

 クラシックに縁のない私が しかも一人でクラシックのコンサートに行ったのは、ほぼ偶然に等しかった。クラシック好きの彼女からコンサート・・・ピアノとバイオリンの二重奏・・・に誘われたのだ。

 彼女とつき合い始めて半年以上経っていれば「ゴメン、オレ クラシックは苦手で」とでも言っただろうが、つき合い始めてまだ2週間も経っていなかったこともあり、断れない私がいた。約束をした後で後悔したが遅かった。

 そんなわけで、私はその彼女とクラシックのコンサートへ行くことになった。だが当日の朝 彼女から「熱が出たから 今日は行けません。ごめんなさい」と文章だけのLINEが届いた。今日の今日では、彼女の代わりは見つからなかった。

 そして私は、行きたくもないコンサートに一人で来た。生まれて初めてのクラシックコンサートだった。

 会場に着くと、皆一様にパンフレットを買い求めていたので、私も真似をして購入した。チラッと目を通したが、知らない単語ばかりで出てきてよくわからなかった。だが私は、しかつめらしい顔で、わかったフリをして読んだ。

 私は(早くコンサートが終わればいいのに)と そればかり考えていた。

 司会者が挨拶、曲と演奏者の紹介をし、演奏者が登場する。会場から盛大な拍手が起こり、厳かな雰囲気の中、演奏が始まった。

 初めは(クラシックなんて、何を聴いても同じだろう)と思っていた私にとって、それは驚きの連続だった。ピアノとバイオリンの美しくも妖しい旋律が私の耳に届くと、私は異国へでも迷い込んだかのような 不思議な感覚に陥った。ピアノとバイオリンの絶妙な駆け合いが見事としかいいようがない。私は こんなに素晴らしい音楽が この世にあったなんて信じがたい気持ちだった。

 コンサートが終わっても、もっとずっと聴いていたいと思うほど、私は音楽に陶酔していた。他の観客が全て出て行ったあとも、私は目を閉じて 先ほどの曲を思い起こしていた。

 こうして私は クラシックに魅せられていった。音楽、特にクラシックに関しては無知だったから、猶更 何もかもが新鮮でいいのかもしれない。一度好きになるとすぐにのめり込む性格の私が、クラシックにのめり込むのに 時間は要らなかった。手当たり次第に クラシックを聴き、彼女とのデートよりクラシックに費やす時間の方が多くなった。結果は火を見るより明らかで、私は彼女に振られた。と言うより、私が彼女ではなくクラシックを選んだというのが正解かもしれない。                    
                                完

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