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ヒナドレミのコーヒーブレイク    デジャヴ ~4歳~

 「この道、前に通ったことがある!」私はそう言った。

 あれは確か 4歳の頃だったか、幼馴染の綸(りん)と私は、隣町のバス公園へ行くことにした。綸が どうしてもそこへ行きたいと言ったからだ。バス公園と言うのは、老朽化のため 使われなくなった廃バスが一台置かれている公園だった。バス以外にも、一通りの遊具が置かれている。

 そこは 隣町と言っても 歩いて20分とかからない場所にあった。一度通った道は忘れないという綸と私は、迷わず 公園に着いた。方向音痴の私とは大違いだった。そこに着いた私たちは、早速 バスの車内に入ってバスごっこなどを満喫した。

 「そろそろ帰ろうか?」3時を過ぎた頃、綸が言った。正直に言うと、私はもっとずっと前から帰りたかったのだが、綸に『弱虫』だと思われるのが嫌で、自分からは言い出せなかった。だから、綸にそう言われた時 私は「うん」と即答した。

 そして私たちは、公園を後にして 家へと向かって歩き出した。「ちょっと近道しようか?」綸がそう言った。私は、一分でも早く 家に帰りたかったので「そうしよう」と賛成した。だが、結果的には、それが良くなかった。

 綸は、細い道を見つけては「こっちだ」と言って歩いていく。私は ただ後ろからついて行くだけだった。しばらく進んで行くと 似たような家が立ち並んでいる住宅地があり、さすがの綸も 初めての道だったこともあり 進む方向に迷い始めた。

 辺りは薄暗くなり、私は心細くなってきたし、足も痛くなってきた。そして私は、道路にしゃがみ込んでしまった。綸は、そんな私を優しく宥めてくれたのだが、私は駄々っ子のように しばらくは そこから立とうとしなかった。

 だが、綸はそんな私に無理強いはせず、私が立ち上がるまで 辛抱強く待ってくれた。そんな綸に根負けして、私は立ち上がった。

 そして二人は 再び歩き出した。少し行くと「この道、前に通ったことがある!」私は言った。だが、実際 私がその道を通るのは 生まれて初めてだった。デジャヴだ。(それとも、もしかしたら あれは夢の中のことだったのかな・・・)私は 実はこの道に見覚えがあるような気がしただけだった。何だか、懐かしい気さえした。「確か この道を、右に曲がって 次の角を左に曲がったところに 不思議な形の石があって」私はそう言った。行ってみると・・・だが その奇石は 実際に存在した。

 そして私と綸は、その道路を進む。すると、見慣れた景色が現れた。

 私は 10年以上経ってから、この不思議な体験(現象)がデジャヴだと言うことを知った。そしてこの体験の20年後、私は綸と結婚した。            
                                完

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