駐車場おじさん
引っ越し先のマンションは、以前の街中のマンションから数百メートルしか離れていないのに、どこか下町風情がある場所だった。近年人気のエリアになってきていて、新しいマンションも次から次へと立っていたが、昭和から立っているような木造の家屋も多く残っていた。
何年も前から、古びたお店が並ぶ一角を自転車で通るたび、このお店なんの店だろうとおもいながら通り過ぎていった場所が、住む場所の近くになるなんて思わなかったが、気になっていたお店を確かめることにした。
その一つが、とんびという店だった。
鉄板焼きと書いていて窓の外から見るといつも常連さんらしき人たちで賑わっている。常連さんの中に1人で飛び込むのは気が引けた、でも、子供を連れて行くような店でもない。
そこで活躍したのが、ロックンローラーの格好をしたママ友だった。ジャラジャラとシルバーアクセを身につけた黒の革ジャン、皮パンツを履いた友達と恐る恐るとんびに行くと、強面のご主人と、ふっくらとしたおかみさんがニコニコしながら話しかけてくれた。
おすすめを聞くと野菜炒めだった。
ただの野菜炒めも目の前で焼いて特製ダレを絡めると絶品になった。冷たいハイボールを飲みながら、新参者の自己紹介をした。
最近別居して隣町に引っ越してきたこと、養育費もなく1人で3人の子供を育ててること、強面のご主人もおかみさんも親身になって聞いてくれた。
偶然にも越してきたマンションの斜め前の一軒家に住んでいるという。世の中狭いなーと思いつつ下町ならではの楽しみ方を覚えた。
仕事の話になり、遠方までバスで通ってきて、車が欲しいけれど駐車場がないことを話していると、隣で1人で飲んでいたおじさん(おじいさん)が、駐車場なら貸すよと声をかけてきた。
えっ、本当ですか?駐車場この辺り全く空いてなかったんですけど、どこの駐車場ですかと聞くと、家から一番近くの駐車場だった。募集はしていないけれど、自分が管理しているから一台くらいなんとかするよ。と言ってくれた。
気になるのはお値段、2万円前後は覚悟の上で聞くと、あんた苦労してるから8000円でいいよと言ってくれた。
神様仏様駐車場おじさん、その時はそう思った。
この不自由な生活からの解放、今は、Timezもあるとはいえ、一家に一台車はやはり欲しい。
都会のど真ん中で8000円で駐車場を借りれて、下町人情の温かさに触れられた。
ほどなく、中古のベンツのAクラスがうちの愛車になった。