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交わることのない線

勝手にマンションを売ってしまったからには、その後の事を考えるしかない。

とりあえず、大吾に、会社の為に、家族のお金を使うのはやめてほしいと言った。すると、この間売った金はお前に渡したから、今度、マンションを売って入ってくる金は会社の運転資金にする。と言って聞かなかった。

でも、わずか半年余りで、800万円程会社にと言って使っている訳で、もしも、マンションを売ってお金が入ってきても、出て行くお金が大きいとそれもすぐなくなる事、たまたま、マンション売却でお金が入ってきて乗り越えられているけど、本来であれば、倒産案件だと思う事など伝えても、まだ余力があると言って聞いてくれなかった。

従業員を雇わず自分1人で運営しない限り、いつ給料が払えなくなるかもわからな状況だった。一攫千金を掴んだ商売を辞める選択肢はなかった。

50代で新しく、しかも雇われるという事が、大吾にとって全く想像が出来なかったようだ。少しでも、安定したお金が入ってきたら、なんとか生きていけると思うのに、なんのプライドのか、会社を手放すことを頑なに拒んだ。

でも、時は刻々と過ぎる。
家なき子になるまで、残り3ヶ月、家族で住むマンションとなると、なかなかいい物件がなく、何度か子供達を連れて見に行ってもみつからなかった。
子供達も、産まれてからずっと一等地の綺麗なマンションに住んでいたので、築年数が古いマンションを見ても、首を縦には振らない。

最大の問題は、自閉症の長男問題。
今まで数多くのご近所問題を繰り広げてきたので、物件探しの1番の条件が、1階か2階の鉄筋のマンション、落とす問題、大声問題全てをクリアしなければならない。
後は、支援してくれる母親の近くのマンションでないと、フルタイムで働くことが難しいので、場所も必須条件だった。

交わらない線をなんとか交わらせたかったが、交わらないまま、全ての条件が揃ったマンションが見つかった。


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