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愛着No.1家電と家族の話

30歳の私は、大学生まで石油ストーブと共に冬を越してきた。

社会人になり一人暮らしをする今では、毎年エアコンのお世話になっている。

石油ストーブとエアコン。

石油ストーブの方が、私の心にスッと入り込んでくれる。

その理由は、石油ストーブの周りにはいつも「家族」がいたからだろう。

燃料の石油を買うのは、お母さんかばぁばぁ(祖母)だった。

「北風小僧のかんたろう〜♪」とメロディを流しながら町内を回るトラックから、石油を買って重いタンクを持ち帰ってきてくれる。

あの音楽を毎年聴きたくなるのだが、今はもう回ってくることはない。

石油が切れそうなストーブに、買ってきた石油を入れると火力が増す。

火がはみ出る様子が目に見えてわかる。

こたつでぬくぬくするお父さんとじぃじぃが「強くなってるぞ〜。」と声をあげていた。

私も幼いながらハラハラして火を見守っていた。

石油ストーブ1つで、こんなにもエピソードが出てくる。

「愛着のある家電No1!」だと書いていて自信を持って言えることに気がついた。

何よりも石油ストーブの1番の醍醐味は、直接保温や加熱ができることだ。

お正月のお餅は素手で乗っけって、素手でひっくり返す。「あっちっち…!」なんて言いながら。

キッチンまで立たなくても、手を伸ばすだけで焼きたてのお餅が手に入る代物だ。

ばぁばぁが煮た少し焦げた煮物は、鍋ごとストーブに乗せると保温ができる。いつでも温かいおかずをつまみ食いできてしまう。

コンロと違って決して焦げないのが、石油ストーブの優しさだ。

ばぁばぁは、ストーブで作る焼きミカンもよく食べていた。

皮ごと乗せて焦げがついたら熱いうちに食べるのがおいしいと、当時私もすすめられて食べてみた。

熱すぎて味がよく分からず、ミカンはそのままがおいしいことを学んだ。

ここまで石油ストーブについて熱く語らせてもらったが、石油ストーブと1番相性が良いのはヤカンではないか。

コンロだと激しく「ピー」っと主張してくるヤカン。

石油ストーブに乗ると、ゆっくりとコトコト音を立てて温まってくれる。

さらに、蒸気で加湿までしてくれるから一石二鳥なのだ。

石油ストーブとヤカンで、いつでも温かい飲み物が飲めるってとても幸せなことだ。これこそ名コンビ。

体が冷えていても一口飲めば肩の力が抜けて、心の底から「ふ〜。」と声が湧いてくる。

「石油ストーブ = 優しくて温かい」の方程式が私の中で完成する。

今、石油ストーブは1人暮らしのばぁばぁと代々らしている。もう4代目くらいかな。

つい1週間前のこと。

私が帰省して「ばぁばぁ〜。」と玄関を開けると、足が悪いばぁばぁは、「はいよ〜。」と元気な声だけで出迎えてくれた。

居間の障子戸を開けると、石油が充満していたのが分かるほどの匂いだった。

「換気換気!」と心配してしまうくらいだったが、ばぁばぁは何も気にしていない様子。

そんなやりとりをしながら石油ストーブを見ると、見慣れない鍋が乗っていた。

「煮物かな?」と覗くとただのお湯。

「これなに?」と聞いてみると「ヤカン壊れちゃって鍋で湯沸かしてるの。」と話してくれた。

あの名コンビだったヤカンがないことに違和感を感じた私は「じゃあ今度買ってくるよ。」とすかさず返した。

しかし、ばぁばぁは否定とも思えるくらいの強い口調で「もういらないよ!1人だし。」と言った。

ばぁばぁが、心の底からそう思って言っていることが一瞬で分かった。

私はそれ以上は何も言えなかった。同時にどうにも表現しきれない感情が湧いてきた。

「もう」という言葉が、何かを悟るようなものに思えて切なかった。これは、私の自分勝手な感情にすぎない。

私は「石油ストーブを囲んでいたあの懐かしい時間が一生続いたら良いのに。」と本気で妄想することがある。今でもだ。

でも、同じ時間が一生続くことなんてない。

幸せは変化する。

目の前にある石油ストーブと見慣れない鍋、いつも元気に出迎えてくれるばぁばぁとの時間が、今の幸せだ。

大人になって、切なさも感じられる大人へと自分が成長できているだけのこと。

石油ストーブと家族とのあの時間があったからこそ、私は幸せを知ることができている。

今はその幸せを自分で作るため前に進む時間だ。

ばぁばぁが気がつかせてくれた切なさが、また輝き始めている。


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#モノカキングダム2023
テーマが「あったか」とのことで、つい1週間前の出来事とつながり投稿させてもらいました。

因みに話ですが、芸人「クマムシ」さんも同時に思い浮かびました。よく冬のお風呂場で「あったかいんだから〜。」と思わず歌ってしまうためです…。書いてみると恥ずかしいですね…。

書くことで自分の感情や思い出と向き合えるのは、やっぱり楽しいです!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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