お母さんと不思議な亀のお話。
大前提、私のお母さんは天然だ。
世の中のお母さんは天然エピソードを
必ず持っていると思う。
愛おしいほどチャーミング。
数あるエピソードの中でも、私が心を打たれた出来事がある。
私が小学2年生の頃、近所のお祭りで今では珍しい亀釣りの出店があった。
最中が付いた針金を受け取り水槽へ入れると、1匹の小さなミドリガメが釣れた。
その後、20年間私の家で飼うことになる。
名前はメスなのに、カメ吉。
家族全員が根拠もなくオスだと思っていたが、後から性別を調べたからメスだった。
ごめんね、カメ吉...。
カメ子がよかったよね。
カメ吉は当初の10倍ほどに。
生命力がすごい。亀は万年なのだ。
近所の川には、過去に放されたカメたちが泳いでいたりする。そんな無責任は悲しい。
カメ吉は、大事に大事に外の水槽で育てた。冬眠の時期だけは玄関に入って過ごしていた。
そして、亀って意外と足が速い。
亀が遅いなんてウソだ!と家族全員で話す。地上に出ると重い甲羅を背負って走る姿が、とても愛おしかった。
水槽のフタを押しのけてしまうほどのパワーを持っている。大きくなるたび父が大きい水槽に変えてくれていた。
しかし、ある日カメ吉が水槽から脱走してしまった。ウチに来て20年初めて姿を消した。
私は社会人として都内で過ごしていたので、父から後日聞いた話。
母はカメ吉がいなくなってしまったことがとてもショックで、心配だったという。
事故にあったのでは?
近くのドブに落ちてしまった?
母は、必死にカメ吉を探した。
近所の人に聞いてみると、道路を歩いていた情報もあったそう。
その後、暗くなってから近所のドブ付近で母が見つけ出した。
父が出迎えると母が持っていたのは、同じ大きさだけどカメ吉ではないカメだった。色が少し黒めの子。亀の種類も違う。
私が帰省すると、20年カメ吉がいた水槽で見たこともないカメが生活していた。
もちろんカメ吉と同じく可愛がって育てている。
どうかカメ吉。
無事でスイスイ川を泳いでいてほしい。
そして、この話を友達に話して気がついた。
私はカメ吉が脱走したことをメインに話す。
みんなが引っかかるのはそこじゃない。
実家はそんなに田舎じゃない。
近くの川でも車で15分ほど行かないとない。
カメなんて近所で見たことない。
では、なぜカメ吉ではないカメがそこに?
あぁたしかに言われてみれば...。
カメ吉が脱走したタイミング。
見ず知らずのカメと出会うタイミング。
奇跡に近い。
これが母の天然エピソード。それ以上に不思議な亀との物語。
そんな純粋で優しいお母さんが、愛おしくて大好きだ。