![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/143755628/rectangle_large_type_2_0db46472aca5358e31f8b2a9e7673067.png?width=1200)
掌編ファンタジー小説シリーズ「異世界伝聞録」その3
最初の感覚は、美しい。
……その一言に限る。
この国の第三都市、古都アマーリアスは清廉な民が集う神子・聖女たちが守護した地域だ。
なんでも4年間務める複数の聖女の継承制で都市の風紀を守っているらしい。
先生と別れて早くも4年。
僕は吟遊詩人として旅に次ぐ旅。
活気のある酒場と、元気のない街を風の便りに巡っていた。
この街に来るのも、4年とちょっとぶりだ。
となりの学問が盛んな大都市ファーレンの冒険者ギルドで申請した時から、僕の天職は始まったから。
現神官で当時聖女だったファラと出会ったのもこの時だ。
彼女は耳が聞こえない。
彼女は目が見えない。
彼女はあまり喋らない。
彼女は祈り、ただみんなに微笑む。
彼女はパン屋さんの焼きたてのパンの匂いが好きだ。
彼女は朝の花壇の水やりを欠かしたことがないらしい。
彼女は掃除に余念がない。
彼女は他人の悩みを黙って聞き、涙と共に優しく抱きしめてくれる。
彼女は紛れもなく聖女だ。
ただ、ファラの出自は戦災孤児。
精鋭の神官戦士の師匠に拾われたらしい。
だからファラは、僕より小柄で年相応に細身だが、単純戦力としては先生に言わせれば僕9人分らしい。
余談だが法術による回復も、祝福もできる。
いわゆる神官戦士(モンク)だ。
絶対的に敵わないが、彼女はそれでも祈るし、僕たちに微笑んでくれる。
4年前の大規模な三大ギルド連合による“深淵祓い“では、凶つ星の呪いに呼び寄せられた深淵に近づく魂を救済し、不死者の軍勢を彼女の師匠たちと共に足止めした功労者の一人だ。
先生が炎の精霊に祈るなら、彼女の師匠は精錬された宝具を握りしめて殴りつけ、生の感覚と死の体験を涙と共に不死者に一発ずつ叩き込んでは、味方にしていった。
懐かしいなぁ。
街に入ると、ファラが居た。子供たちの面倒を見ているようだ。
振り向いたファラは、昔より少し綺麗になっていた。
ーーー異世界伝聞録。
吟遊詩人シドの日記より。
いいなと思ったら応援しよう!
![ほづみわたる](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132289866/profile_09a617181c5bb4ad61a33847fbe5a3ac.png?width=600&crop=1:1,smart)