a noisy room diary❅*(15)
『きよらかで透き通った水』
夕食前、夕方頃になると不穏な空気が漂ってくる。皆お腹が空いてくるのと、夜(闇)が降りて来ることに酷く不安を感じてしまうのだろう。
私は自分の病室から、ついにはロビーで騒ぎ出した例えばヒステリックな魔女達の叫び声に苛立っていた。
落ち着け、私の心よ落ち着け。かっこ良く表現するならばここは“ノルウェイの森”なんだ。と自分に言い聞かせる。←だいぶ本の内容も忘れてしまったが…。
普通に生活しているとしたなら、夕方、ああ…やっと仕事が終わる。家へ帰れる。ビールが飲める。タバコで一服出来る♪
…と、こんなふうに思っているはずだった。
私は魔女達の仲間ではない(いや、“魔女の血をひく娘”だ。いや、“魔女の血をひくおばちゃん”だ)。
ああ、どっちでもいい。とにかくどうして、どうして、こうなってしまったの?本当に普通だったのよ!←え?本当に?え?普通とは何?だ、か、ら、仕事が終わったら一服してビール飲んで、つまみを食べて…←と、同じ繰り返しを説明するバカ。
✵*°
タイセツな恋しい娘の半泣きの声が聴こえてくる。
「どうしてこうなったの、マッマ…?」。
「マッマにもわからないよ、どうしてこうなっちゃったんだろう…」。
*✴*°
つい最近の過去の事だが、
私は生活するために事務職を続けていた。そんな途中、ああ、なんだか自分が変になりおかしくなってきているなと感じていた。(いや、もともと変ではあった)。
その為、環境を変えたくて、緑色の自然に触れたくて私は農業のアルバイトを始めてみた。あの時、一緒にアルバイトをしたみんなは今頃どうしているのだろうか…?
❆*°
°*✴
✵*°
ヘクタールのキャベツ畑とはこれ程までにドデカすぎるのか…!
そのヘクタール畑を相手に私達は瑞々しいキャベツを収穫したのだ(たまに大根も)。
キャベツ収穫にはキャベツの切り方があり(正しい大根の抜き方もあるよ)、正しく切ることが出来ないとズタボロキャベツ化してしまう。
「そんなキャベツは売物にはならんちゃっ!!」と何度も私は叱られた。私は甘かった。甘すぎたのだ。
家庭菜園とヘクタール農業は全く違うのだ。別物なのだ。過酷過ぎるのだ。男気ある仕事なのだ。
私はへとへとだった。ヨレヨレだった。ボロボロだった。
しかし朝早く6:00から仕事開始する時の、
あの朝日の気持ち良いことよ。ありがたいことよ。
お日様を全身に浴びてボロクソになる覚悟を決めて、汗と涙と泥にまみれて、キャベツを上手く切れず93歳のおばあちゃん師匠(←マシンと呼ばれていた)に追いつけない惨めなことよ…。←私はいったい何が言いたいのだ?
あの日、あの時、山奥に流るる清らかで透き通った、沢の水。懐かしいよ…。もう二度とヘクタール農業は嫌だけど…。今頃はとても冷たい清らかな水となっていることだろうな。そしてモスラ(餓)も熊も冬眠しただろうな…。熊はかなり暫く冬眠しててくださいね。
❆*
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°*✵
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18∶00夕食。
ロビーへ行くと離れた所からえみこさんの姿を見かけて、私は小さく手を振ってみた。しかし無視される?いや、本当に私の事に気づいていないのかもしれない。それに、もしも私の事に気づいていたとしても、まあ…仕方のないことだよね。だってここは精神科南病棟だから。友達を作りに来たわけではない。お互い精神的な心の病気を治療しに来たのだから。
つづく
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