見出し画像

不思議だね



地獄の空はえんじ色だった。真っ赤でもないし真っ黒でもない。少し水色と混じったえんじ色だ。
地獄の地上では人々が普通に生活していて、
鬼もいなければ閻魔大王もいないし死神も悪魔もいなかった。
「普通だね…」。
私は地獄から見える海を眺めながら、そう呟いた。

すると海の向こうに小さな島が見えた。私は父に「あの島は何?」と聞いてみた。
「天国だよ」と父が答えてくれた。
天国?
天国がこんなに地獄の近くにあるのかと驚き、
私はじっとその島を眺めた。
「行ってみるか?」と父は私を天国へと案内してくれた。「この道はあの島へと、天国へと繋がっているんだよ」。
それから父と私は時々海を眺めながら、その細い道を辿り天国の島へと向かった。


天国の空はとても青かった。
透き通るように、空の向こうにまた空が見えそうなくらいだった。私は少しの間、天国の空に魅入っていた。
「お父さん、きれいな空だね」と父へ話しかけると、いつの間にか父の姿が見当たらない。でもまたすぐに会えるだろうから、私は父が消えてしまってもあまり気にはしなかった。

ところで天国の地上では人々はまばらで、地獄より人口密度が低いようだった。
でも普通だね。
お花畑があるわけでもないし、天使や天女や菩薩さまや神様がいるわけでもなかった。人々が普通に生活しているだけだった。…不思議だね。
ただ、天国の空は地獄の空とは異なり、青く青く地球という惑星のように透き通っているのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?