2023/9/23日本数学会市民講演会@東北大学レポート
岡部真也(東北大学大学院理学研究科)
「数学と医療の交差点~癌治療と関わりのある数理モデル~」
がんの治療法と関わる数理モデルを題材に、医療における課題に対する数学的アプローチの一例を紹介する。
男性がかかるガンの中で最も患者数が多いと言われる前立腺がんはアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンの刺激によって進行する。
がん細胞であるAD(アンドロゲン依存)細胞に対し、薬剤や外科手術によってAD細胞のエネルギー源となるアンドロゲンを抑えることで、前立腺がんの進行を抑えるホルモン療法がオーソドックスな治療法だ。
しかし、ホルモン療法には、長く継続していると治療の効果が弱くなり、がんが再燃することがある、という課題があった。これはアンドロゲンの濃度が低下するとアンドロゲンに依存しないAI(アンドロゲン独立)のがん細胞が増殖するからである。
その課題を克服することを目的として、ホルモン抑制を行う治療期間と治療休止期間を組み合わせる間欠的ホルモン療法というものが考案された。投薬と休止を繰り返し、AD・AIがん細胞の数を適正化しコントロールする。
間欠的ホルモン療法は身体的な負担軽減などの長所をもつ一方で、治療期間と休止期間をいつ切り替えるのかの判断が医師の経験に委ねられるなどの課題があった。
そこで偏微分方程式を活用することで数学的に治療計画を立てるというのが本講演のテーマであった。
岡部先生はシンプルな数理モデルで解説されていたので理解しやすかった。
(実際の数式等は時間に余裕があれば後日紹介していく。)
ある条件をみたしていれば、どんな初期状態に対してもデータ誤差を許容した適正な治療計画の作成が可能であることを数学的に証明できたというお話が大変興味深かった。
臨床医療と数学のかかわりについて学ぶことができ、とても有意義な講演だったと思う。
今日も皆様にとってよい一日でありますように。