【小説】女子工生⑰《パーティー開始》
聡の乾杯
「さ、どーぞ どーぞ。こっちで~す。」
真白(ましろ)の案内で男子達は リビングに通された。
ダイニングキッチンと繋がっている造りで
かなりの広さがあった。
「私の部屋だとちょっと狭いから 今日はここね。その辺に荷物置いて、てきとーにソファーとかクッションとかに座ってね。」
ローテーブルの周りにソファーがあり、足りないところには、厚手のクッションが置いてある。
テーブルには、もうお菓子やジュースが置いてあり、コップが伏せて置いてある。
キッチンの方のテーブルには、唐揚げやサラダ
焼きそばなどが大皿に乗っていて、ラップが掛けてあった。
珍しく勇介(ゆうすけ)が気遣った。
「なんか、ごめんね。準備任せちゃって。」
鈴音(すずね)がちょっと胸を張った。
「なんの。工業なんか通ってたら、なかなか
女子力発揮する場面ないからね。さ、褒めて
褒めて。」
聡(さとし)がクスクス笑いながら言う。
「どうもありがとう、3人とも。今日はすごく可愛いね。見違えちゃった。」
他の男子達は、聡の様にスラスラと女子を褒めるなんて出来ない。
聡に内心感謝しながら、うんうんと頷いておく。
そこにキッチンの奥から、真白の母親が顔を出した。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。
ケーキは、龍一(りゅういち)が仕事帰りに持って来るって言ってたから、6時半ぐらいには
届くと思うわ。後でお父さんも ご相伴に預からせてもらうわね。」
徹(てつ)がソファーから少し腰を浮かせて 頭を下げた。
「今日は大人数でお邪魔します。」
「あら いいのよ。今日1番楽しみにしてたの、おばさんかもしれないわ。若返った気分よ。」
それぞれが、自分の場所を確保し、落ち着いた。
咲良(さくら)がクッションに座って、首を傾げた。
「ところで、友達同士でやるクリスマスって
何やるの?」
一瞬全員が黙った。
鈴音と咲良もこんなパーティーは、初めてだし、男子達もこんなにちゃんとした(?)クリスマスパーティーは、初だ。
「歌でもうたう?」
「まさか。」
広樹(ひろき)が立ち上がった。
「取り敢えず乾杯して食おう。そして雑談だ。飽きたらゲーム。そしてプレゼント交換だ。」
「そうだな。」
「うん。」
全員が賛成して、各々のコップにジュースを注いだ。
徹が ジンジャーエールの入ったコップを持って聞いた。
「乾杯の音頭、誰?」
清文(きよふみ)もウーロン茶が入ったコップを持ち、クッションに座ったまま言った。
「やっぱ、聡じゃね?総代だし。」
「え?総代、かんけーないよね。」
聡が少しためらった。
真白と鈴音が 2人掛けのソファーに並んで腰掛けている。
「いいんじゃない?聡で。最初の号令は、やっぱ聡でしょ。」
広樹と勇介はもう、全く自分でやる気はなく
「そーだ そーだ。」
「いーぞ、ヒューヒュー。」
とか無責任に 言っている。
聡が肩をすくめて、立ち上がった。
「では、ご指名頂いたので、僭越ながら僕が、乾杯の音頭を取らせて頂きます。」
“わー”パチパチと、女子3人が拍手する。
「皆さまグラスはお持ちになりましたか。
では、今日は、イエス・キリストの誕生日。
まずはお祈りから。天にまします我らの父よ
願わくばーー」
すかさず広樹からブーイングが入る。
「聡、お前それ、わざと?わざとだろ?腹をすかせている俺に対しての 嫌がらせか?」
「いえいえ、至極全うな事です。」
聡は手の平で広樹を制した。
「では、讃美歌を・・・」
「おーいー。」
「まあ、工業の電子機械科に集って、友人になれたこの奇跡に、乾杯!」
「かんぱーい。」
皆でグラスを上げて、乾杯をした。
真白も 小学生の頃、友達のお誕生日会に
呼ばれた事もあった。
中学で、無視が始まってから、前の事も思い出さない様にしていた。
思い出すと 余計に悲しくなるから。
楽しかったような気もするが、何が、どう楽しかったのか、よく覚えていない。
だから、今日のクリスマスパーティーが決まってから 真白のテンションは日に日に上がっていた。
今朝も目覚ましより 1時間も早く目が覚めた。
心待ちにしていたクリスマスが 聡の音頭で始まった。
⑱ー(1)に続く