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【小説】女子工生②《友人になりました》

 友人になりました


階段を三階まで上がり 廊下の突き当たりの教室が電子科だ。
ガラッと扉を開けて入ると 数名登校していた。

「おはよう。」

その中のひとりが人懐っこく 声を掛けてきた。
徹(てつ)も

「おはよう。」

と返して自分の出席番号が書かれた紙が貼ってある机にバッグを置き 椅子に座った。
すると、さっき挨拶したヤツが近寄ってきた。

「お前ソコ? 俺ココ。隣。大下ね、大下広樹。お前 名前何? どこ中?」

何だか最初から馴れ馴れしかったが、嫌な感じはしなかった。
もともと人懐っこい性格なのか。
徹よりも 少し低い身長でニコニコしている。
少し人見知りする癖のある徹には、相手から 声を掛けてくれるのはありがたい。
誰もすき好んで 一人でいたくない。

「久住 徹(てつ) Y中。」

「俺は N中。」

「え? N中? えっらい遠いな。電車組?」

「いや、チャリ。N中ってもS中との境の 川んとこなんだよ俺んち。橋渡ればS中まで 徒歩10分。でもN中学区だから チャリで20分くらい掛けて 通ってた。今 チャリで15分掛からないから だいぶ近くなった。」

「へー 中学でも そんな事 あるんだね。」

「・・・久住ってさあ 中学ん時、変なあだ名 付けられなかった?」

「スルドイ・・・。もう 小学校からずーっと   ‘’くずてつ‘’ って。」

「やっぱりー。」

「ああいうのって 誰かが言い出すと すぐなんだよな。久住って名字も 徹って名前もそれぞれで見るとカッコいいと思うんだよ。徹も“とおる” と読まないで“てつ”って言うのも気に入ってるし。でも、フルネームで“くずみてつ”から“くずてつ”になっちゃうんだよなー。」

「わははーっ あーゴメン!本人にとっちゃ 大問題だよな。よし!クラスでニックネームが定着する前に 俺が“テツ・テツ”連呼して、皆が そう呼ぶように仕向けてやる。」

「よろしく頼むよ。」

そんな事が始まりで、思ったよりすんなりと クラスに馴染むことができた。
まあ 広樹が声を掛け、徹は近くにいて 気の合ったヤツと 話をする。というパターンが 殆どだったが。
一番最初の友人に 広樹がなってくれたのは、幸運だった。

入学式の後、各クラスに戻ってホームルームが始まった。

で、やっぱり気になるのは 3人の女子の存在だ。
工業高校の電子機械科を選ぶ女子とは、どんな子なのか。
他の男子もチラチラと女子を気にしているのがわかる。
何となく 3人を観察してしまう。
 ひとりは 腰近くまである髪を後ろでひとつに括っている。
少しポッチャリとした色白の女の子だ。
ホームルームの自己紹介で “日向野 咲良”と名乗った。
おじいさんだか 曾祖父さんだかが イギリス人で 瞳が、茶色の中に 所々、青が混ざっているという 不思議な色をしていた。
 もうひとりは 肩までの髪を 前髪まで全部 バシッと真っ直ぐに切り揃え、前髪を二・八 分けにして、なんだかとっても キラキラしたヘアピンで止めている。
身長は 少し低めで 150センチ位か。
細身でちっちゃくて 小動物っぽい感じだった。
 2人とも、タイプは違うが 割りと普通に
“可愛い女の子”という定義が 当てはまる。
小柄な方は、“山口 鈴音”と言った。
(すずねちゃんかあ 名前もかわいいなあ。)
なんて ぼんやり考えていた。
だが 徹が一番興味を持ったのが、もうひとりの “佐山 真白”だった。
見た目からして “可愛い”女の子ではなかった。
刈り上がってはいないものの、男子にも引けを取らないショートカットに 日焼けした肌。
ピンと伸ばした背中は、なんだか凛々しくも見えた。
二重瞼に 小さめの鼻。バランスの良い唇で、可愛いと言えば 言えるが、やはり凛々しい方がピッタリくる。
自己紹介の順番が回って来ると、照れる事もなく、臆する事もなく、スッと立ち上がると、

「佐山 真白です。K中からきました。ここでは 卒業するまでに いろんな資格を たくさん取れたらいいなと 思います。部活は、んー、運動部は女子が入れるものが 限られているので、どうしようか 考え中です。」

と、言って席に着いた。
佐山さん以外の2人は 女子が多く入部している 茶華道部に決めているらしかった。
徹も、部活は 女子がいた方が楽しそうだと思ったが、さすがに茶華道には 興味を持てなかった。
佐山さんが着席すると、担任の 佐々木先生が

「お、佐山、きたな。」

と、言った。

「はい。」

ちょっと笑って 佐山さんが答えた。
(佐々木先生と知り合いなのかな?)
と 徹は思った。
そう思った生徒は 他にもいたようだが、次々と進み、日向野さんや 山口さんの自己紹介が始まると、他の人男子の興味は 女の子らしい 女の子へと移っていった。
だが 徹は、自分の斜め前に座る、凛々しい女の子に 興味が残った。
帰りまでに、何とか 声を掛けてみたかったが なかなか上手くタイミングが合わなかった。
自分では気づかなかったが、結構じっと 見つめてしまっていた様で、それを 目敏く広樹が気づいた。

「何?何?テツ 佐山さんの事気になんの?」

と、小声で聞いて来た。

「んー、気になるっちゃ気になる。なんか 普通の女子と 違うくない? まあ 普通がどんなもんか分かるほど 俺も女子、知らんけど。でもさ、明らかに他の2人とは カラーが違う。」

「うん。茶色いよね、全体に。」

「そうじゃなくて! 女子 女子してないって言うか、凛々しいって言うか。」

「あー、そうね 話してないから 分かんないけど、媚びるとか、しなるとかって感じじゃねえよな。」

「うん。何で工業選んだのかな。他の2人もだけど。」

少し考えてから広樹が言った。

「じゃあ帰り、誘ってみる? 昼めし どっかで食ってもいいし。」

「あ、いいね。」

自分では とてもじゃないが、話した事もない女の子を誘うなんて 出来そうもない。
持つべきは、社交的な友だ。まだ友になって
1日目だが。
 
ホームルームが終わり、帰り支度をしていると、早速 広樹が佐山真白に声を掛けに行った。

「佐山さん、俺、大下広樹。よろしくね。」

佐山さんは少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になって

「佐山真白です。こっちこそよろしくね。」

と、物怖じせずに挨拶した。

「佐山さんさあ、この後時間ある?俺とテツ、あ、久住徹ね、アイツ。」

徹の方を 指差した。
佐山さんはくるりと振り向いて 徹を見た。
徹は慌てて ペコリと頭を下げた。
佐山さんも頭をペコリと下げる。

「テツと昼めし食って帰ろうかって 話してるんだけど 一緒にどう?」

佐山さんは 残念そうな顔をした。

「あーごめん。今日、お母さんの車で来てるんだわ。歩いて帰れる距離でもないし、今日はダメだわー。」

「あらー、じゃあタメだね。残念。テツ!ダメだって!」

と、こっちに振ってくれたので イソイソと近づいて、さりげなく会話にはいった。
こういう気遣いが 広樹はできるヤツで マジ感謝だ。

「うん。聞いてた。しょうがないよね。家、遠いの? K中っていってたよね。」

「うん。K中から北に3キロくらいかな?隣の市との境、ギリギリのとこらへんだよ。」

「え?K中から北に3キロって ここから10キロぐらいあるんじゃないの?」

「さすがに10キロはないけど 9キロ強かな。入試とオリエンテーションの時 チャリで来たけど、くる時40分ぐらい掛かって、帰りは地味にずーっと上りだから1時間は掛かる。下るのは校門からそこの信号までで あとはずーっと地味ーに上り。」

「K中の方じゃ 電車もダメか。」

徹が市内の地図を 思い浮かべながら言った。

「最寄り駅まで 12キロ。学校の方が少しちかい。」

広樹が残念そうに

「んじゃ 今日は諦めるか。でも又誘ってもいい?」

と聞く。
ナイス広樹。

「もちろん!声かけてくれて嬉しかった。
同中の子って知ってる子いなかったから 声掛けてくれなかったら 今日、自己紹介以外に 声、出さなかったよ。」

もしかしたら おしゃべりな子なのかもしれなかった。

「えーと、大下広樹君と、久住徹君ね。」

佐山さんは少し考え様な仕草をして

「ヒロとテツでいいかな?」

と首をかしげた。
徹は女子からもずっと“くずくん”とか、“くずてつ”とか悪気無く呼ばれていたので、女の子に『テツ』と呼ばれて、なんだかくすぐったかった。

「もちろん。」

と、広樹が笑った。
徹も笑って頷いた。

「私も真白でいいよ。」

「了解。」

「OK。」

「じゃあまた明日ね。バイバイ ヒロ、テツ。」

「バイバイ真白。」

声に出すと少し照れくさかったが、そのうち慣れるだろう。
母親を待たせているのか、小走りで教室を出ていく真白を見送って広樹が言った。

「なんか いい子じゃん。普通に友達になれそう。あんまり色気ないけど。」

テツも真白が出て行った扉を見ながら答える。

「友達に色気はいらないだろ。あんまり色気出されても こっちが困る。慣れてないんだから。」

「女の色気に?」

「うん。女の色気に。」

なんだかバカバカしくなって帰る事にした。
二人で学校の近くにある学生御用達の ラーメン屋に寄って昼食を済ませた。
学校の近くと言うだけあって 値段も安いし、味も旨かった。
明日から本格的に始まる高校生活が 少し楽しみを増した気がした。

                 ③に続く


 
 


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