見出し画像

【小説】女子工生⑦《初めてのラーメン》

初めてのラーメン

 金曜日、先輩達の芸術的なレポートを参考に
無事 初レポートを提出し、徹(てつ)達は部室へ向かった。
例の扉付き靴箱の製作が 着々と進んでいた。
広樹(ひろき)が作業しながら言った。

「明日と明後日、珍しく部活休みじゃん。」

聡(さとし)も手を止めずに答える。

「ああ、耐震工事だっけ。」

「今日、帰りさあメシどっかで食ってかねえ?真白は また俺らが送ってくし。安いとこで 大助ラーメンか、マック辺りで。」

「僕は 家に連絡すれば大丈夫だと思うけど
みんなは?」

徹も勇介(ゆうすけ)も連絡すれば 平気だと言った。

「真白(ましろ)は?」

広樹が聞くと

「行きたい! 行ったことない! 家に連絡して聞いてみる!」

と、言いながら もうスマホをいじっている。

「あ、お母さん、今日さ帰りに部活の子達と
ご飯食べて帰っていい?  うん持ってる。
うん。またみんなが一緒に帰ってくれるって。 うん、うん、はい、はーい。」

と、スマホを切らないうちに 

「いいって!やった!楽しみー。」

メチャメチャはしゃいでいる。
スキップでもしそうな勢いだ。
徹があきれ気味に言った。

「真白、大丈夫か、ちょっと落ち着け。めし食いに行くだけだぞ。自分のは自分で払うんだぞ?」

真白はほっぺを赤くしながら興奮気味だ。

「だって、友達と学校帰りにご飯なんて初めてなんだもん。てか 友達と何か食べに行ったことない!」

徹達はドキリとしたが、真白は この前の一件以来、少し吹っ切れた様で 中学時代の事も
ペロッと口に出す様になった。
なので徹達も そこはスルーしてフォローする事にしている。

「そうか、真白 初体験か。じゃあどこ行く?真白に選ばせてやる。」

勇介が言うと、聡が苦笑した。

「なんで勇介が言うと いちいちイヤラシイんだよ。言葉のチョイスが。」

「あ、俺も思った。今までで何度か。」

「俺も思った事ある。」

徹と広樹が同意する。

「ウルセー ウルセー。男がイヤラシくなかったら 地球は滅亡するんだぞ。」

「んな 大げさな。」

男連中が騒いでいると 考えていた真白が

「ラーメン 行ってみたい。」

と 言った。

「じゃあ大助だな。そろそろ片付け 始めるか。」

広樹が言う。
5人は いつもよりテキパキと片付けをして、ラーメン屋を目指した。

学校から 自転車で5分ほどの所にある
〖大助ラーメン〗にやって来た。
店の前の端の方へ 自転車を並べて店を覗く。
家庭の夕飯の時間には、少し早いので まだ店の中に客はいなかった。
カウンターとテーブル席が3つに、座敷席も
2つある。
テーブル席は4人掛だ。
6人まで座れる座敷席の方へ座った。
広樹と徹に向かって店主が声をかけた。

「あれ、今日は大勢だね。友達かい?」

「はい。部活の1年メンバーなんです。」

聡が言うと 店主はニコニコしながら

「いいね~新しい友達どんどん連れて来て、宣伝してくれよな。ごゆっくり。」

と 言って、コップに入った水をテーブルに置いていった。
勇介が広樹に聞いた。

「何がいいかな。オススメはある?」

「俺はミソがオススメかな。もやしがいっぱいのっててウマイ。」

徹もうなずいている。

「うん。醤油も旨いけど 俺も味噌がおすすめだな。」

聡が水に口を付けながら言った。

「2人ともそんなに来てんの?」

「んー、3回か、4回か。入学式の日、2人で来て以来 何回か来てる。」

徹が言うと、真白が思い出したように言った。

「ああ、あの後ここに来たんだ。帰りに誘われたんだけど、お母さんと車で来てたから 来られなかったんだよね。」

真白はおすすめの味噌ラーメン。
徹、聡、勇介は味噌チャーシュー、
広樹は 味噌チャーシューの大盛りを頼んだ。
味噌ラーメンは 麺の上にもやしが結構な量が乗っているので 醤油や塩に比べてガッツリ見える。
味噌チャーシューは 通常1枚乗っているチャーシューが5枚も乗っている。
更に大盛りはどんぶりが 2まわりほど
大きい。
運ばれてきたラーメンを見て

「広樹、それ食べ切れんの?」

真白が真顔で聞いた。
広樹が平気な顔で答える。

「問題なし。何なら家帰ってから夜食 食える。」

徹と聡が お手拭きで手を拭きながら 苦笑している。

「こいつ、すっげえ食うよ。ここ来ると必ず大盛りだし、たまに餃子も付けることもあるぜ。ライスとか。」

「そうそう。弁当も大きいよね。僕の1.5倍ぐらいあるし、弁当+菓子パン セットで持って来る時もあるよね。」

「いいなー。広樹、全然太ってないじゃん。
私なんて、朝、晩の通学がなかったら すぐ肉付くよ。部活も文化部だし。」

「あー俺、子供の頃から何食っても、肉、付きにくいんだよね。体質かな。」

「う、うらやましいっ。」

ラーメンを食べながら そんな話で盛り上がっていると、真白のスマホが鳴った。

「あ、大(だい)兄ちゃんだ。」

真白が少し顔を横に背けて話している。

「大兄ちゃん?真白の兄ちゃん?」

勇介が首を傾げた。
広樹が簡単に真白の兄の事を説明していると、真白もスマホを切った。

「もう遅いし、みんなに送って貰うのも悪いから、大兄ちゃんが車で迎えに来てくれるって。」

「自転車どうすんの?」

徹が聞く。

「車に乗せられる。大兄ちゃん無駄にデカイ車乗ってるから。」

勇介が、重ねて聞いた。

「大兄ちゃんって、大介(だいすけ)とか大貴(だいき)とか?」

「ううん 違うよ。うち 長男が龍一(りゅういち)で、次男が涼二(りょうじ)なのね。
私も最初はりゅー兄ちゃん、りよー兄ちゃん、って呼んでたみたいなんだけど、小さかったから 上手く発音出来なかったんだって。で、その内 大、小で 龍一が大兄ちゃん、涼二がちー兄ちゃんになって、それが今までずっと定着してんの。」

それぞれの兄弟の呼び方の話やら、兄弟ゲンカの話などしていると、店の扉がガラガラと開いて、Tシャツにジーンズの男が 入ってきた。
店主と何やら話してから 男がこちらを見た。
入り口に背を向けていた真白が 気づいて振り向いた。

「あ、大兄ちゃん 来た。」

と、聡を見ると、まるで少女マンガのように
頬を染め、瞳をキラキラさせて 龍一を見ている。

「おう。」

手を軽く上げて

「外で待ってるから。」

と言って出て行った。
真白が

「みんなごめん。先いってて。私トイレ寄ってから行く。」

そう言うと 手洗いに行ってしまった。
いや 真白、男の子の前で、もう少し恥じらいを持ちなさい。(作者心の声)
みんなは立ち上がって それぞれ自分の支払いをしようと、レジへ行った。

「さっきの イケメン兄さんが払ってくれたから いいよ。」

と、店主が言った。
どうやら先ほど店主と話をしていた時、支払いを済ませてくれていた様だった。
4人が慌てて店を出ると、龍一がタバコをふかしながら店の前に立っていた。

「あの、すみません。あの、お金・・・」
徹が言いかけると 龍一はフーっと煙を大きく吹いてから言った。

「人におごって貰った時は、『すみません』じゃなくて、『ありがとう』だろ。」

「いやでも、真白さんはともかく 俺達まで。」

「さっき、店に入る前にちょっとガラス越しに覗いたんだよ。あいつスゲエ楽しそうに お前らと話しててさ。ちょっとホッとした。
中学ん時は、・・・全然笑わないヤツだったから。」

龍一は、持っていたタバコを 携帯灰皿にゴシゴシと擦り付けて火を消し、ポケットにしまった。

「工業って男ばっかだし、どうかと思ってたんだけどさ、高校入って家でよく笑う様になってさ、少し安心してたんだ。
お前らの話もちょこちょこ聞いてた。どんな奴らなのか 今日は見に来た。」

龍一はニヤッと笑った。

「それに、この間も真白を 家まで送ってくれただろう。今日もそのつもりだったみたいだからさ、まあ お礼って事で。あいつじゃじゃ馬だけど よろしく頼むよ。あ、手ぇ出す時は必ず俺の許可を得ろ。」

徹が代表でペコリと頭を下げた。

「ありがとうございます。ご馳走になります。 真白さんは マジでいい友達だと思ってます。女の子だし 遅くなる時は必ず誰かがおくります。手を出すつもりは 今のところありません。」

他の3人も頭を下げた。

「ハハッ そんなはっきり手をだされない宣言されて 真白、女としてどうなのそれ。」

真白が店から出てきた。

「お兄さんにご馳走になった。ありがとな。」

徹が言うと 真白がひじで龍一の脇腹をつついた。

「全員分払ったの?大兄ちゃん太っ腹~。
次もよろしくね。」

「調子いいなお前。車、向こうに止めてあるんだよ。自転車どれ?」

真白は いちばん端に止めてある自転車を指差して

「これ。みんなありがとね。また 誘ってね。バイバイ。」

と 手を振った。

「こっちこそ、ご馳走さまでした。」

「また 月曜な。」

「バイバイ。」

「またなー。」

真白の自転車を 龍一が押しながら帰っていく。歩きながらの 2人の会話が聞こえてきた。

「これから ハル達が来るんだよ。麻雀のメンツが足りないから お前入れ。」

「えー。大兄ちゃん達 夜中までやるんだもんイヤだー。」

「明日、休みなんだろ。」

「イ・ヤ・だ・」

「ラーメン奢ってやったろ?迎えに来てやったろ?」

「私が頼んだんじゃないもん~」

2人を見送っていたみんなが 目をぱちくりさせている。
勇介が思わず声をあげる。

「え?今、麻雀って言った?真白、麻雀出来んの?」

広樹が腕組みをして ため息をついた。

「真白、計り知れねーなー。女子高生が麻雀やるか?」

「普通やらないな。」

徹が首を振ると 聡が穏やかに言った。

「でも 龍一さん、真白をみる目が すっごく優しかったね。」

「聡、もっと龍一さんと話せば良かったのに。」

徹が聡をつついた。

「そうなんだよー、話してたのほとんど徹じゃん。もう緊張して話せなかった。次!次に機会があったら、絶対話す。」

「まるでアイドルに会ったファンだな。」

「うるさいよ ヒロ。」

男子4人が家路につく頃、空には うっすらと
星がひかりだした。

               ⑧ー(1)に続く

  

 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?