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【お話し】月光~妖精と龍~(3)

 暁飛の寝床

 滝の端の隙間からミリーは裏側へ入っていった。

「あれ?明るい。」

中はかなりの広さがあった。
もっと暗い洞窟のような所を想像していたが
思いの外明るかった。

「日光苔だ。」

「ああ、なるほど。」

日光苔は ほんの僅かな光があればそれを反射して周りを明るく照らす苔だ。
夜も、昼に溜めた光をボンヤリ発光する。
中は何もなく、暁飛(こうひ)が体を休める場所にいくらかの枯れ草が敷かれている。
1番奥には小さな(と言ってもミリーにしたら十分な多きさだが)泉が涌き出ている。

「この泉は溢れたりしないの?」

泉の水はとても澄んでいて、こんこんと湧き出しているように見えるが、溢れ出していない。

「ああ。湧き出しているが溢れることはないな。」

「へー、何で?」

「わからん。」

「ふーん。」

「これは我の命の源だ。」

「源?」

「我にとってはこの水が食事の様なものだ。」

「え?、そうなの?他のものは食べないの?」

「食せる。味も分かる。ただ龍にとっては食べられると言うだけで、毒にも薬にもならんのだ。」

龍は体が大きいので、たくさんの食べ物を食べなければいけないのではと思っていたが、思いの外燃費の良い体のようだ。
この泉のように霊力のある泉は、森の奥や深い谷底などにたまに見つけられる。
この洞窟の泉もそのひとつだ。

しかしこの洞窟の中には、全く何もなかった。
龍が過ごすには十分な広さだが、本当にただそれだけだった。

「おぬしの家はどんな所にあるのだ?」

「ないわ。」

「無いとな?」

「ええ、その日その日でお花の中で寝たり、
トリさんのお家にお邪魔したり、大きな葉っぱの上で寝たり。」

「ほう。そなた達はみんなそうなのか?」

「お家を持っている人もいるわ。でも、持って
 いない妖精のほうが多いわね。私達花の妖精
 は。体が小さいから、遠くまで見回りに行っ
 てわざわざ戻ってくるのが大変な時もある
 の。行った先で暗くなったら寝られる場所を
 探して寝たほうが効率的なのよ。」

「なるほどな。」

「本当に笑っちゃうくらい何にも無いわねえ」

「寝に帰るだけだ。何も必要なかろう。」

「今度お花持ってきていい?」

「要らんよ。世話が出来ずにすぐ枯らしてしま
 う。」

「ふーん。」

ミリーは何かを考えている様だった。

「でも、お友達は連れてきてもいい?」

「ああ。嫌がらなければな。」

「大丈夫よ!私の友達だもん!」

2人はまた外に出てきた。
清涼の谷は本当に穏やかな場所だった。
気持ちの良い風が吹き抜け、暖かい日の光が降り注ぐ。
ゆっくりと時間が動いている感じだ。

「ねえ、お外にお花の種を蒔いてもいい?」

「我に世話は出来んぞ。」

「うん。私がお手伝いするし、ここならそんな
 にお世話しなくても咲くと思うの。」

「好きにするが良い。」

「うん!ありがとう!」

その日、ミリーは暁飛の『寝床』を見ることが出来て、大満足で帰って行った。
「家は持っていない。」
と言っていたので、暁飛の寝床に泊まっていくのかと思いきや、律儀にもときた森の向こうへ帰って行ったので、少し寂しさを感じたのは気のせいだろう。
うん。
きっと気のせいだ。
暁飛は自分の寝床で丸くなった。
                 ー続くー


ヘッダーの絵はKeigoMさんからお借りしたものです。

ミリーと暁飛の出会いのお話し

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