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【お話し】月光~妖精と龍~(4)
妖精達
自分の森に帰ってから、ミリーは友人達に声を描けた。
清涼の谷に行かない?と。
清涼の谷までは距離があるし、行ったことのある妖精はミリーだけ。
なかなか誰も一緒に行ってはくれなかった。
とにかく黒龍の谷をみんな怖がっていた。
ある日ミリーは、特別な花畑の管理人をしている《ユキマー》さんの所を訪ねた。
新しい花を研究したり、古代の花を咲かせようと研究したりしている妖精だ。
「ユキマーさーん、いる~?」
「ああ、いるよ。」
ユキマーさんは真っ赤なベゴニアの下で、お花の根元を撫でながら、何かやっていた。
ゴソゴソと這い出てくるとミリーを見た。
「おや、ミリーじゃないか。珍しいねどうした
んだい?」
「あのね、割とほっといてもお花が咲きやすい種、貰えない?」
「珍しいねえ、ミリーは手を掛けても綺麗な花を咲かせたい子じゃなかったっけ。」
ユキマーは土の付いた手をエプロンで軽く拭った。
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「うん。私はね。でも、殺風景な友達の家の近くに蒔きたいの。」
「ほう、あれかい?黒龍の。」
妖精達の間で、ミリーが黒龍の住む谷に行っていることや、妖精仲間を誘っていることは噂になっていた。
「そうなの!暁飛(こうひ)のお家の周り、草はあるけど、お花が咲いていないのよ。でも世話はあんまり出来ないって言うから。」
「ほっほ、そうかいそうかい。じゃあこれを持ってお行き。」
ユキマーさんはエプロンのポケットから小さな白い小袋を取り出した。
中には小さな細かい種がたくさん入っている。
「これは?」
「星の花。」
「え?星の花?それは・・・」
星の花とは地上の花とは少し違う。
妖精の国、人間が住むこの世界とは違う次元に咲く花だ。
人間の住む世界に蒔いても上手く咲かない事が多い。
咲かせるにはかなりの世話が必要だ。
「暁飛、あんまり世話できないって言ってたよ?」
「黒龍の住む谷は《清涼の谷》だろう?あそこは特別な場所だからね。」
「そうなの?」
「ああ、そうさ。あそこは人間の世界の中でも妖精の世界に近い場所なのさ。だからこの花は咲きやすいのさ。」
元々 星の花は、妖精の世界ではそこらじゅうに咲いている花だ。
小さな星形の可憐な花が咲く。
日の当たり方や風の当たり方などで、赤や白や黄色、ピンクやブルー、紫など様々な色の花が咲く。
この世界ではミリーはまだ見たことがない。
「どうやって蒔くのがいいのかしら?」
「ああ、咲かせたいところにばら蒔いて 放ったらかしておけば大丈夫さ。」
「本当に?」
「嘘なんかつきゃあしないさ。元々あっちの世界じゃあ雑草みたいなもんだからね。強いのさ。下手に手を掛けると逆に人の手に頼ってしまって、上手く咲かなくなる。」
「そう。じゃあ コレ貰っていっていい?」
「ああ、持っていきな。」
「ありがとう!ユキマーさん!」
ミリーは種を大事そうにポケットにしまった。
そこへ、《ルーナ》と《ゆみん》の仲良し二人組がやってきた。
ゆみんはミリーと同じ花の妖精。
おしゃれな明るい妖精だ。
ルーナは月の妖精。
夜、人間の子供達がちゃんと眠れているか、お腹など出していないか、悪夢を見ていないか見回るのがお仕事だ。
おっとり、物静かな妖精だ。
「あら、ミリーおはよう。珍しいわね。」
「ゆみんおはよう。ユキマーさんに花の種を貰っていたの。」
「えー?ミリー、これ以上あなた自分の管轄のお仕事増やすつもり?」
ゆみんはゲンナリした顔で呆れたような声を出した。
ミリーは自分の管轄の土地で、花が少ない場所を見付けると、苗や種を持っていってせっせと花を増やしている。
ゆみんは自分の仕事が増えるのが嫌で、今咲いている物を減らさないように見回っている。
本来妖精の仕事はゆみんのやり方がほとんどだ。
あまりにも少なくなってしまった時だけ、種を蒔いたりする。
花は自力で子孫を増やすのが基本だ。
妖精はその手助けをするのが仕事なのだ。
ミリーはお花が大好きなので、ときどき種を蒔いたりしてこっそり?花を増やしている。
「違うの、暁飛の家の近くに蒔こうかと思って。殺風景なんだもの。」
「はあ、あんたも物好きねぇ。怖くないの?あんな真っ黒な龍。この間の嵐だってあの龍が起こしたって噂じゃない。」
「ちょっとゆみん、失礼よ。」
ルーナがゆみんの脇をつつく。
「だって、みんな言ってるじゃない。」
「違うよ!!」
ミリーは手を握り締めて、大きな声を出した。
「暁飛は優しい龍だもん!おっきくって優しくってうーんと、えっと、優しい龍だもん!!」
ミリーは大きな瞳から涙を溢すまいと、必死に我慢していた。
「暁飛に会ったこともないのに、勝手なこと言わないで・・・」
だんだんとミリーの声が小さくなる。
ルーナがミリーの背中を優しく撫でた。
「そうだよゆみん。会ったこともないのにそういうこと言っちゃダメだよ。」
「だってさ・・・」
3人の話を聞いていたユキマーさんが声をかけた。
「じゃあ、3人で清涼の谷に行ってみたら良いんじゃないかい?ちゃんとその目で黒龍を見て、話をして、それからでも遅くはないだろう。ミリーが花の種を蒔きに行くって言うし。」
パッとミリーの顔が明るくなった。
「そうしよう!一緒に行こう。会って、それでも怖いなら仕方ないけど、けどきっと大丈夫!本当に暁飛は優しいから!」
ゆみんとルーナは顔を見合わせた。
そして、ミリーに連れられて清涼の谷へ飛んでいった。
ー続くー
ヘッダーの絵と挿し絵はKeigoMさんからお借りしたものです。