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【お話し】月光~妖精と龍~(17)最終話
風になって
ミリーと暁飛(こうひ)が番(つがい)になってから、500年程の月日が経った。
人間の生活もずいぶん変わった。
地面には車が走り、鉄道が敷かれ、空には飛行機が飛ぶようになったが、清涼の谷は変わらずそこにあった。
暁飛が寝床で丸くなっている。
その手の中に横たわるミリー。
「逝くな、まだ逝かないでくれ。」
大きさの違いゆえに、抱き締めることも出来ない。
暁飛の、手の中で弱く微笑むミリー。
2人の寿命は違いすぎる。
花の妖精は400年~500年ぐらいの寿命だが、龍は1000年~2000年は生きる。
暁飛は霊力が強いので、もっと長いかも知れない。
「泣かないで。最初から分かっていた事よ。先に逝くわ。でもね私はあなたを愛したことを決して後悔しない。だって幸せだったもの。あなただってそうでしょ?暁飛。」
「ああ。」
「初めて会った日、あの青い花の上。たぶんあの時にはもう恋していたわ。」
「我もだ」
「そして初めてケンカした時、愛だと気付いたの。」
「そうだな。」
「私の体は無くなるけど、心は必ず ずっと傍にいるわ。」
「体が無ければ我は分からないではないか。」
「また、そんな子供みたいなこと言って。大丈夫、絶対に分かるわ。私が側にいるって。」
「ミリー。」
「暁飛、ごめんなさいね。長い間あなたを1人にしてしまうわ。」
「ミリー」
「でもね、今はもう1人じゃないでしょう?たくさんの仲間がいるわ。」
「ミリーがいなければ意味はない。」
「意味はあるわ。きっと、分かる。あなたは優しい龍だもの。」
「・・・・・」
「ふう、そろそろ行かなくちゃね。」
「ミリー ミリー!」
「暁飛、私と出会ってくれて、ありがとう。
愛してくれて、ありが、とう。私は、とても、しあわ せ、だっ・・・」
「ミリー?ミリー?」
月の輝く静かな晩に、ミリーは逝ってしまった。
妖精は命が尽きると 体は月の光に溶けていく。
少しづつ、少しづつ、自分の手の中で消えていくミリーの体を目に焼き付けるように、暁飛はその場を動かなかった。
暁飛は泣いて泣いて、もっと泣いても涙が枯れることはなかった。
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何日そうしていただろう。
ある時、強い風がねぐらに吹き込んで来た。
ミリーが元気な時にたくさん作った ドライフラワーや、機織り娘のカズミーさん、縫子のアメリアさんが作ってくれたタペストリーやクロスがぱたぱたと揺れた。
風はねぐらをビュンッと吹いて、外へ出ていった。
滝の水が扉代わりになっている。
普段、こんな強風は吹き込まない。
ミリーがいなくなって10日ほど経っていた。
暁飛は 風に誘われるように外へ出てきた。
「あ!暁飛だ!おばあちゃん!!暁飛が出てきたよ!」
まだ子供の 紫の羽をした妖精が声を上げた。
おばあちゃんと呼ばれた白い髪の妖精が、近くの石の上に腰かけている。
「ふう、やっと出てきましたね。」
「ルーナ・・・」
月の妖精、ルーナだった。
「いつかは出てくると思っていましたが、割りと早かったですね。もっとかかるかと思ってました。」
「風が・・・風が穴の中に吹いて・・」
「フフッ、ミリーですね。」
「・・・!!」
「私達、小型の妖精は体が無くなっても、自分が生まれ変わりたいと思うまで、ある程度の意思を持って留まる事ができるのです。」
「意思を持って?」
「ええ。会話は出来ませんが。
ねえ、ミリー?」
すると、暁飛とルーナの間を柔らかい風がサーッと吹き抜けていった。
「あ、あ、ミリー」
暁飛は また涙を流した。
「ミリーの事だもの。暁飛さんが寿命と使命を全うするまで、あなたの傍にいるでしょうね。」
暁飛は空を見上げた。
「さて、そろそろ戻ります。・・・暁飛さん、私もお別れです。」
「・・!!」
「私ももう、ここへは来られません。今日、明日にでも暁飛さんが出てこなかったら 会えず仕舞いでした。フフフ。」
「ルーナ・・・」
「あの当時から来ていた妖精も 少なくなりましたね。」
「ああ。」
「後は私と、アメリアだけかしら。アメリアももう飛べないわ。」
「寂しくなるな。」
「でも、子や、孫や、玄孫がやって来るわ。ここは以前とは違います。皆が集まる癒しの場所。頼みますよ暁飛さん。ミリーが愛したこの場所を守って下さいね。」
「分かっている。我は守りの龍。それが仕事だ。」
ルーナは微笑んで頷いた。
「それではお元気で。」
そう言って、ゆっくりと森へ帰って行くルーナを暁飛は静かに見送った。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
数百年後。
清涼の谷には星の花が一年中咲いている。
元は草ばかりだった谷は、ミリーが蒔いた種が花を咲かせ、その花が枯れる事なく一年中咲き乱れている。
暁飛が見回りから戻ってきた。
小さな妖精達が声をかける。
「暁飛ー、お帰りー。どうだったー?」
「ああ。先の大雨で増水していたが、岸を少し固めてきたから大丈夫だろう。」
「川が溢れたら、大変だもんね。」
小さな妖精はニコニコと花を摘んで、花冠を作った。
それを ちょん、と暁飛の頭に乗せた。
「暁飛、可愛いー!」
「我が可愛いと?可愛いと言うのはそなた達みたいな者の事を言うのだ。」
「えー?暁飛、可愛いのにー。花冠、似合うよー。」
言いながらまた花を摘んでいる。
「ここは冬でもお花があるから好きー。」
「うん。きれいだし、気持ちいいね!」
暁飛は草原(くさはら)に横になった。
「ここは、お前達のひいひいひい婆さん辺りのミリーと言う妖精が 花の種を蒔いたのだ。それが一年中咲いているのた。」
すると強い風がビュッと吹いて草と花を揺らし、暁飛のたてがみも揺らした。
「ハハハ!婆さんと言われて怒っておるのか、ミリー。仕方なかろう。こやつらはミリーの何代も下の者達だ。」
するとまた、ビューッ!と強い風が吹く。
「分かった分かった、ミリー。そなたは美しく優しかった。この花もそなたと同じで美しい。」
すると、そよそよと優しい風が暁飛を包み込んだ。
「暁飛すごーい!風とお話しできるの?」
「いいなー!!私も風とお話ししたい!」
暁飛は少し寂しそうに笑った。
「そなた達にはまだ早い。この風は風であって風でないのだ。我の最愛だ。」
風は暁飛を包み込み、サーッと空へ舞い上がり花びらをひらひらと舞い散らした。
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暁飛は舞い散る花びらを愛おしそうに見つめながら言った。
「ミリー、もう少し待っていてくれ。我はまだ少し仕事をせねばならん様だ。時が来たら おぬしが迎えに来ておくれ。次はきっと、同じ時を生きられる物に生まれ変わろうぞ。一緒にな。長くても、短くても良い。同じ時をもう一度過ごそうぞ。」
気持ちの良い風が、清涼の谷をサーッと吹き抜けていった。
ー終わりー
ヘッダーの絵と挿し絵は KeigoM さんにおかりしました。
今回で最終回になります。
ありがとうございました。
次回、『月光』の裏話などを投稿したいと思います。