
【お話し】月光~妖精と龍~(9)
プレゼント?
「ソラ、大丈夫かしら。」
ミリーが心配そうに呟いた。
「何がだ?」
暁飛(こうひ)は頭の上のミリーに聞く。
「何がって、ソラは暁飛に失恋したのよ。まあ、ソラが先走って番(つがい)とか言い出したのはビックリだけど、たぶん前からソラは暁飛の事を好きだったのよ。」
「・・・・・」
「暁飛?」
「よく分からん。」
「え?あれだけソラが好き好き言ってたじゃない。」
「我もミリーが好きだぞ。」
「!! い、いやそういうんじゃなくて、」
「大体、自分の仕事もしないで番も何もないだろう。」
「えっと・・暁飛・・暁飛は今まで他の龍とか妖精とか好きになった事、ないの?」
「そもそも、好きと言う感情がよく分からん。我がミリーを好ましく思うのとは違うのか?」
「たぶん・・・違うと、思う、よ?」
「・・・?・・・」
今まで他の妖精との交流がなかったのだから、致し方ないとは言え 暁飛はかなりの
人(妖精?)たらしで朴念仁らしい。
ミリーはソラの事が可哀想になってきた。
暁飛とミリーは湖の上にやって来た。
その畔に空色と白と緑が不思議に混ざった布が置かれている。
近くに ふくろうのラウルも待っていた。
ミリーは暁飛の頭から降りて、アウルの近くに飛んでいった。
「ありがとう、アウル。」
アウルは暁飛を見上げた。
「うわあ、遠くからチラッと見た事はあったけど、近くで見るとデカイなぁ。」
「ん?この者は?」
暁飛が足下のアウルを見下ろした。
「オイラはふくろうのアウル。妖精じゃぁないけどミリー達とは知った仲さ。」
ミリーはアウルの頭の上に乗った。
「ありがとうね。重かったでしょう。」
「いいや。空布だもん。重さはそんなにね。大丈夫。ただデカイんで、なるべく小さく畳んで持ってきた。それでも少し風が吹くと煽られちゃってヤバかった。」
「本当にありがとう。」
ミリーは両手で拝むようにお礼を言った。
アウルは暁飛をまじまじと見た。
「本当に真っ黒でデカイんだな。それで目が赤いときたら、皆怖がるのは無理はないって。」
言いながら暁飛の足を翼でバシバシと叩く。
「アンタ、自分からどんどん喋んないと益々怖いと思われちまうぜ。」
アウルはカラカラと笑った。
「・・・」
暁飛は黙ってアウルを見下ろしている。
アウルは少し馴れ馴れしくし過ぎたかと、身構えた。
「な、なんだよ。怒ったのかよ。冗談じゃんか。」
「いや・・・」
「だから何だよ。オイラが気に入らないんなら そう言えよ!せっかく空布 運んでやったのに。」
「いや、すまぬ。我は妖精以外の生き物と話すのが初めてでな。なんだか・・・」
「へぇ。そうなんだ。」
「うむ。他の妖精とも、ミリーと話したのが、100年振りぐらいだったのだ。」
アウルは面白そうに暁飛の顔の前まで飛んできた。
「へー!オイラが一番か。じゃあ特別に友達になってやってもいいぜ!」
アウルは暁飛の頭の上に乗って、偉そうに胸を張った。
「友達・・・とは?」
「・・お前、友達いないのか?」
「友達の定義が分からん。」
「定義って、オイラだってよく分からないけど、まあ仲良しの知り合いってこった。」
「そうなのか・・・仲良しの知り合い。」
「ワハハ!おもしれぇー。あ、顔知ってるだけじゃ駄目だぜ。お互い名前も知って、話しをして、居心地良いなって思わねぇと。」
「そうなのか。我はさっき顔もよく分からん、名も知らん妖精に。『番になれ』と言われたが。」
「ブハ!誰だよそいつ!勇気あるなー。よっぽど暁飛の事が好きだったんだぜ!」
「好きは、友達とは違うのか?」
「好きにもいろんな種類があるんだよ。」
アウルは面白がって涙目でヒーヒー笑っている。
「おいミリー、コイツは手強いぜー。」
ミリーはキョトンとしている。
「何が?」
「!!お前・・・ブハッ!!」
アウルは盛大に吹き出した。
「ヒーヒー!お前ら揃って・・ワハハ!まあ、ある意味お似合いなんじゃねぇの?」
アウルは暁飛の頭を翼でバタバタと叩く。
「ま、オイラもそのうちに谷に遊びに行くよ。
夜になっちまうかも知れねぇけどな!じゃあなー!」
アウルは1人で何か納得して森の中へ飛んでいってしまった。
残された2人はよく訳が分からないまま、しばらくポカンとしていた。
「ミリー、これをどこに運べばよいのだ?随分と大きいが。」
ミリーはハッとして、ニッコリ笑った。
「暁飛の寝床。」
「我の?」
ミリーは暁飛の鼻先で両手を広げた。
「暁飛にプレゼント!」
「・・・?」
「・・あれ?嬉しくないの?空布だよ。」
「いや、何故我に、」
「何故って、あげたいから?だって暁飛の寝床、なんにも無いんだもの。これ、アウルがカズミーさんにお願いしてた物だったけど サイズが大きすぎちゃったんだって。困ってたから私が買って暁飛にプレゼントしようと思って!」
ミリーはにこにこと話した。
「・・・貰う理由がない・・・」
「理由?私があげたいだけよ。」
「だけって・・こんな高価な物を我はお主から貰う訳にはいかん。」
「なんで?」
「だから貰う理由がないのだ。」
ミリーはだんだんと腹が立ってきた。
「理由って何?せっかく暁飛に丁度良いと思ったのに!何か理由がなかったら私は暁飛にあげたらいけないの?」
「施しはいらん。」
ミリーにつられて暁飛はつい言葉を荒げてしまった。
「!! 施し?何それ!せっかく・・」
「せっかく?我は可哀想ではない!お主から貰わなくとも生きていける!今までもそうして来た!」
暁飛は落ち着かなければと思っても、何故か引くことができなかった。
「可哀想なんて思ってないわ!」
「では何なのだ!何故我に構う!」
「分からないわよ!そんな事!」
「他の者から施しを受けなくとも我は生きていけるのだ!」
ミリーは訳の分からない感情が溢れ出て涙が出そうになったが、ぐっと堪えた。
泣いたら負けの様な気がした。
「ああ、そうね!そう言えばさっきソラが告白してたもんね!ソラからもっと良いものプレゼントされるんじゃない?」
「な、その話しは今は関係なかろう!」
「いろんな妖精があの谷へ行ってるもんね!暁飛モテちゃうね!」
「お主は何を言っているのだ。」
ミリーも自分が何を言っているのか分からなくなっている。
「分かった!余計な事してごめんね!!もう帰る!」
ミリーは森へ向かって行った。
空布は置いたままだ。
「待て!これはどうするのだ!!」
「知らないわよ!私には大きすぎるもの!暁飛がどこかに捨てたらいいじゃない!」
「捨てるって・・・」
「その辺に捨ててあったら機織りのカズミーさんが悲しむでしょうけどね!わざわざ雲を降ろして織った空布なんだから!」
「ちょっと待て!」
「イーーーダ!!」
「イッ・・・」
盛大にあっかんべーをしてミリーは森へ入って行ってしまった。
森に入られてしまうと、暁飛には追う事が出来ない。
木が邪魔をして上手く飛べないのだ。
暁飛は暫く途方にくれていたが、小さなため息をひとつ付き、空布を掴むと1人 寝ぐらのある谷へ帰って行った。
ー続くー
ヘッダーのイラストはKeigo-Mさんにお借りしました。