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【小説】女子工生㉒《パーティーの終わりに》

それぞれの涙

 真白(ましろ)がリビングに戻ると、両親達は、もう自室へ移動していた。
ゲームで盛り上がっている筈の友人達は、誰も
一言も発せず、シーンと静まり返っている。
ゲームの効果音だけが ピコピコ鳴っている。
真白は 何故 そんな状況になっているのか
分からず、思わず固まった。
勇介(ゆうすけ)が、真白を指差し、

「あー!」

と 大声出した。
びっくりした真白は 1歩後ろへ後退る。

「それ!そのマフラーしてるって事は、真白
テツと上手くいったの?」

続けて広樹(ひろき)も

「あー、どうなるかと思った。テツ、いつまで経っても動かねえし、真白は鈍いし、そろそろ帰る時間になっちゃうじゃんって。」

と、胸を撫で下ろしている。

「え、え?」

訳の分からない真白。
そこへ徹(てつ)が入ってきた。
鈴音(すずね)と咲良(さくら)が真白に抱きついた。

「きゃーおめでとう!クリスマスに告って、
カレ・カノなんて、そんなベタな感じでいいの?あーアーツーイー。」

「見てるこっちが照れちゃうよー。」

他の皆も良かった 良かったと大騒ぎだ。

「な、何で皆・・・・」

真白が困惑していると、クスクスと、笑いながら聡(さとし)が言った。

「真白、ゴメンね。僕たち テツが真白にクリスマスプレゼント買ったの知ってたんだ。テツも ちょっと弱気になったりしたから、もしかして それだけ渡して何も言わないんじゃないかって 心配していたから。よかったね。似合うよ。それ。」

広樹は、まだ モグモグとお菓子を食べている。

「そうそう。真白が誰を好きかなんて、端から見てたら 一目瞭然なのに、もたもたしてるからさあ。」

清文(きよふみ)がコーラ片手に笑っている。

「それ言ったの 聡じゃなかったっけ?お前
全然気付いてなかったじゃん。自分の事で
いっぱい いっぱいで。」

「あー、それを言うな~。こ、心の傷がー。」

広樹が 大袈裟にソファーに倒れ込んだ。
鈴音が、徹にずいっと近づいた。

「真白の事泣かせたら、私達が許さないからね。」

「おっかないなあ。」

すると咲良も 腰に手を当てて徹に詰め寄る。

「冗談じゃなく!」

「はい・・・・」

2人は

「よしっ。」

と言って真白に向き直った。

「よかったね真白。久住に何かされたら、私達にすぐ言いな。とっちめてやるから。」

「うん。ありがと。」

徹が慌てた。

「いや真白、“ありがと”じゃないでしょ。俺、お前 泣かす様な事しないし!」

思わず、大声で言ってしまった。
勇介が、フーッと大きなため息を差ついた。

「あー馬鹿馬鹿しい。ベッタベタにベタな感じで クリスマスにくっ付いた2人を見てる事ほど 馬鹿馬鹿しい事はないな。そろそろお開きにしようぜ。8時回ったし。」

聡も立ち上がった。

「ん、そうだね。取り敢えず その辺の物片付けようか。」

女子3人で コップや皿などを 洗ったり拭いたりしている間に、男子は 余ったお菓子をまとめたり、ゲームを片付けたり、ゴミを拾ったりしている。
片付けの気配がしたのか、奧から正子(まさこ)が出てきた。

「あらあら、片付けなんかいいのに。」

鈴音が、コップを拭きながら頭を下げた。

「いえ、遅くまですみませんでした。今日は楽しかったです。皆さんにもよろしくお伝え下さい。」

「いいのよ。また、是非来てちょうだい。」

「はい。ありがとうございます。」

片付けをして、皆が外に出た。
そして もう一度

「お邪魔しました。ありがとうございました。」

と、挨拶すると、正子が ガサガサとスーパーの袋を下げてきた。

「ちょっと待って。皆、コレ持って行って。」

袋の中から 小さな包みを出して、ひとりづつに手渡した。
受け取り、包みを見た咲良の悲鳴が、夜の山に
こだましそうになった。

「キャ・・・・モゴモゴ・・・」

慌てて鈴音が 口を押さえたので、何とか叫び声は響かずに済んだ。
いくら田舎でも、さすがに夜8時半を過ぎて、女の悲鳴が響き渡れば、近所の人が、何事だと思うだろう。
手を放してもらった咲良が、

「これもガトー・クロダのクッキーだ!ありがとうございます!」

と、クッキーの袋を頭の上に掲げて、小躍りしている。

「どういたしまして。喜んでもらえて何よりだわ。龍一(りゅういち)に、ケーキ注文する時、一緒に頼んでもらったのよ。良かったら食べてね。」

「はい。」

「ありがとうございます。」

口々に礼を言って 男子達は自転車に跨がった。

「また明日な。」

「バイバイ。」

それぞれに手を振ったりして出ていった。
最後に徹が真白に

「また明日、部活でな。」

と言って 帰っていった。
真白も手を振って見送った。

「車の鍵を取ってくるから ちょっと待っててね。」

正子が家へ戻っていった。
女子3人は

「さむーい。」

「星がキレー。」

などと、キャッキャしながら待っていた。


 帰り道、聡と清文はコンビニに寄った。
他の3人とは そこで別れた。
腹は一杯だったので、ガムを1個買った。
2人でそれを噛みながら ゆっくりと自転車を漕ぎ出した。

「清文、今日、えらかったじゃない。」

「・・・・・」

「僕たち 頑張ったよね。」

「・・・うん。・・・」

「あら、素直。」

「・・・・・」

「タオル、真白に渡ってよかったね。」

「・・・うん。・・・」

「泣いちゃダメだよ。」

「泣かねえよ!」

「男の子でしょ。」

「だから泣かねえって!」

「・・・家に帰って、風呂入って、ベッドに入ってからなら、いいんじゃないかな。・・・」

「・・・うん。・・。」

冬の空に キラキラと星が輝いていた。
明日から。
そう、明日から また頑張ろう。

「さあ、女の子達も送りましょうね。車に乗って頂戴。」

「はーい。」

真白も一緒に乗り込み、道中賑やかに 鈴音と咲良を家まで送った。
帰り道、正子は真白に話し掛けた。
女の子3人でのお喋りは、うるさいくらい賑やかだったが、2人が降りると 車の中はやけに静かに感じた。

「今日は良かったわね。」

「うん。」

「今日ね、皆を見てて思ったんだけど、あなた中学の時大変だったじゃない。」

「うん。」

「でも、すごーく大変だったけど、あの頃があるから、今の真白があるのかしらって。」

「うん。」

「あの子達みたいな 良い友達が出来たって思うと、あの辛い3年間も 無駄じゃなかったのかなって思ったの。そんな簡単な事じゃ無かったろうけど。真白にとっては。」

「あ、それ、入学して少しした頃、テツに言われた事ある。」

「そうなの?」

「うん。大変だったろうけど、それも笑い飛ばせるくらい 楽しく高校生活送ればいいじゃんって。」

「そう中学の頃の事、話したの。」

「うん。話の流れで テツに最初の頃話してねテツからロボ研の仲間には 言ってくれてたみたい。」

「そう。」

家でもあの頃の事は、ほとんど口にしない。
家の中では、タブーの様になってしまっていたので、正子は驚いた。

「実はさあ、中学の時の同級生と、あの頃の事で揉めそうになった事があったの。」

「え、そうなの?」

「うん。でも今日きた皆とか、クラスの子達とか、先輩とかが、庇ってくれたの。」

「そう。」

「中学の時、死んでしまいたいぐらい辛かったけど、あの事がなければ、工業選ばなかったと思うし、今の友達にも会えなかったのかって
吹っ切れた。
今の私になるために、あの3年間は必要だったのかもって。」

「そう。そうなの。本当によかった。」

「お母さん、今までも今日も ありがとね。」

「どういたしまして。」

正子は 年と共に緩くなってきた涙腺を 決壊させないように、運転に集中した。

                 ㉓に続く




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