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【小説】女子工生⑧《球技大会(1)》

球技大会

 1段だけ扉が付いた靴箱が完成した頃、球技大会がやってきた。
クラスの皆は 自分の出来そうな種目を選んでいく。
女子は3人なので、日向野咲良(ひがのさくら)と
山口鈴音(やまぐちすずね)は ダブルスで出られるバドミントン。真白は男子に混ざってバスケに出ることになった。

電子科は、なぜか文化部率が高い。
どういう訳か、写真部やパソコン部、ロボ研やメカニック、ブラスバンドなどの 文化部に所属している者が、半数以上を占めている。
中学時代は運動部に入っていたが 
高校では文化部と いうヤツも多い。
徹(てつ)もテニス部だったし、広樹(ひろき)は野球部。聡(さとし)は陸上部だった。
広樹と聡はサッカーを選び、徹は結局 真白と同じバスケになった。
本当は、テニスに近いバドミントンをやりたかったが、卓球とバドは、やりたい者が多く 徹が、ジャンケンに負けている間に、サッカーとバレーボールは もうメンバーが決まってしまっていた。
バスケは、真白と徹、清文(きよふみ)、青木くんと江原くんがメンバーだ。
現役バスケ部は清文だけだ。
もっとも、電子科でバスケ部は清文だけだったのだが。

もともと、運動部が少ないクラスなので
“絶対勝つぞ!オー!”
みたいな空気は無く、
“今日は1日授業がなくてラッキー。”
ぐらいのノリだった。

バスケットの会場になる 第2体育館へ行くと
対戦表が張り出されていた。
1回戦の相手は 機械科2年2組チームだった。
もちろん全員男子でバスケ部は2人。
しかも先輩だ。
初めから勝つ気はなかった。

時間が来て、試合が始まった。
バスケ部の清文には 2人の先輩が常に付いて
なかなかパスが通らない。
真白は女子と言うこともあって、どフリーだ。
が、清文が押さえられていては やはり点に繋がらない。
6点差になったところで、徹にパスが渡った。
しかし、バスケ部の1人が ピッタリと付いていて 動きが取れない。
その時、後ろから

「テツ!」

と、鋭く真白が叫んだ。
徹が反射でパスを真白に回す。
2年生は真白が走り出してから 押さえに動いたが、真白はドリブルでスルスルと先輩達をかわし、レイアップシュートを決めた。
次の攻防に入ったが、まぐれだと思ったのか 真白は相変わらずフリーだ。
誰にも邪魔されない真白は、スッと、ボールを持っている先輩に近づき、あっという間に ボールをカットして もう1本シュートを決めた。
立て続けに2本のシュートを 1年女子が2年男子から奪った事で、会場は盛り上がり、真白にもマークが付いた。
真白は 今度はセンターライン近くまで下がった。
真白にマークが付いた事で、清文のマークが 1人減る。
清文は 見た目がヤンキーっぽいが、バスケにおいて、かなりストイックだ。
マークが1人減っただけで、随分自由に動けるようになった。
清文が センターラインまで下がった真白に
ボールを戻す。
真白は 自分に付いていた先輩を一瞬かわし
フリーになったところで、スリーポイントを決めた。
真白が1人で7点を取り、逆転した。
清文は バスケ経験者と見ると、積極的にパスを真白に回した。
真白もそれに答え、くるくると動きまわる。
清文と真白が シューターとして機能し始めると、他の3人も 動き易くなる。
徹はテニスだったが、青木君は元野球部、江原君は元卓球部で、やはりジャンケンで負けたクチだ。
もともと 運動神経は良い方で、飲み込みも早い。
5人の息も合ってきて、なんと、3点差で真白達が勝ってしまった。
この学校の球技大会で電子科が、目立つことなど ここ数年、いや、今までほとんどなかったので、非常にレアな出来事だったらしい。
8分で1ピリだけの試合なので、真白も無理なくプレーできた。
清文が汗を拭きながら言った。

「真白、お前、何でバスケ経験者って黙ってた。知ってたら 序盤俺があんなに苦労すること無かったのに。」

「だって男子に通用すると思わなかったんだもん。そしたら私、めっちゃ フリーだったし、清文囲まれてるし、2年生の動きもそんなに早くなかったし、いけるかなって。」

徹も聞く。

「真白、バスケ部だったの?」

「うん。一応、女バスの部長でした。」

「女バス部長だったんだ。どうりで!」

青木君もビックリして大声をだした。
清文が考える様に首をかしげる。

「でも俺、あんま覚えてねえなあ。強い所は女子でも覚えてるんだけど。」

「チームはね、あんまり強くなかったから。
私らの代、3年2人、2年6人、1年5人だったんだよ。やっぱ3年が2人だとなかなか勝てない。」

江原君がうなずく。

「3年2人って また少ないな。最初から?」

「いやあ 初めは6人いたんだけど、あれよあれよと辞めちゃって、気づいたら2人になってた。お互い 自分が辞めたら、相手が1人になっちゃうな、辞められないなーって思って、結局 私が部長、もう1人が副部長やってたの。だから 私、公式戦 零勝です。
試合、久々に勝って面白かった。」

そんな話をしている所へ 今対戦した2年生が
ひとり、真白のところへ走ってきた。
何か文句でもあるのかと、警戒したが

「ゴメン、顔、大丈夫?」

と、心配そうに真白の顔を覗き込む。
試合で真白をマークしていた先輩だ。
真白がその先輩を抜こうとした時、慌てて振り向いた先輩の肘が、真白のおでこ辺りに ぶつかって真白は少し、飛ばされた。
まあ、バスケは女子でも ほぼ格闘技なので、
真白は慣れっこだったのだが、当てた本人は
相手が女の子という事で、気になっていたらしい。

「大丈夫です。私、デコ、めっちゃ硬いんで。」

前髪を上げて おでこを見せた。
先輩は、ホッとして笑顔を見せた。

「良かった。コブでも出来てたらどうしようかと思った。」

「イヤ先輩、真白のデコより 先輩の肘を心配したほうがいいっすよ。」

徹が真面目な顔で言った。

「あはは、俺は大丈夫。今日は油断した。来年もし当たったら、次は勝つ。」

笑いながら言ってから また真白を見た。

「後で腫れてきたら言ってくれる?やっぱ女の子の顔だし。」

「はい。ありがとうございます。」

先輩は小走りで、2年生の方へ行ってしまった。

「俺、何か言われるのかと思って 構えちゃった。うん。良い先輩だ。」

青木君が 腕を組んでひとりで頷いている。

「真白が経験者なら作戦が立てられるな。
たぶん 次から真白もマークされる。」

清文が言った。
5人は頭を 付き合わせて話し合いをはじめた。

2回戦、3回戦と、電子科1年チームは勝ち上がっていった。
バスケ部員のいないチームは楽勝で、何と
ベスト4まで残ってしまった。
あとの3チームは、全て3年生チーム。
準決勝で当たったのが、機械科3ー1。
バスケ部キャプテンと、部員2人がいるチームだ。

「よう。内田、女子が入ったがチームで 
よく ここまで来れたな。でもここは俺らが
勝つ。」

バスケはキャプテンがニヤリと笑った。

「楽に勝てるとは思ってないけど、負けるつもりも無いんで。俺らも。」

清文も挑発に乗る。
改めて言っておくが、校内の球技大会だ。
さほど熱くなる事も無いのだが、思わぬ伏兵の登場に体育館は かなり盛り上がっていたので
キャプテンと清文のちょっとしたサービスだ。
先ほど、キャプテンが清文のところへ フラっとやって来て言った。

「俺が内田の事、ゲーム前に挑発しに行くから お前も乗っかれ。」

徹達も一緒にいたので さのやり取りも聞いていた。
清文は面倒くさそうに 嫌そうな顔をした。

「えー嫌っすよ。たかがクラスマッチで そんなに熱くなんなくっても・・・」

「熱くなんなくっても いいんだよ。パフォーマンスだ。サービスだサービス。」

「サービスって・・・何にたいしての・・・」

「数少ない女子の視線を少しでも向けるためだ。協力しろ。お前、3年女子にも知り合いいるだろ。お前とそーゆーのやれば 俺もついでに目立てる。」

「えー 誰得ですかそれ。そっちバスケ部
3人いるじゃないっすか、普通に勝てますって。」

「普通じゃダメなんだ、普通じゃ。学校内で目立てる数少ないチャンスなんだ。キャプテン命令だ。やれ。」

清文は フーっと息をついて肩をすくめた。

「はいはい、分かりました。」

そんな事があって、試合時間になった。
キャプテンとき清文が 2秒ほど睨み合うと
体育館の中は “ウォー”とか“キャー”とかの歓声が上がった。
キャプテンは満足そうだ。
清文は

「何だコレ」

と、呟いて 徹達4人は 小さくプッと吹き出し、笑いをこらえてコートに散っていった。
その時、清文が徹を小さく小突いて

「笑うな。」

と 言ったのを真白が見て、ブハッと本格的に吹き出し、更に他のメンバーが 笑いを堪えるという おかしな試合開始となった。

 さすがに レギュラー3人を有するチームには歯が立たず、ほぼダブルスコアで負けた。

「あーもー!勝てるとは思ってなかったけど
やっぱり負けるとくやし~!」

真白が地団駄を踏んだ。

「俺は勝つつもりでらってたから スゲーくやしー!」

真白の真似をして、清文が同じ様に地団駄を踏んだ。

「清文 ウソつけ!」

見てた周りの皆がゲラゲラ笑った。
3位決定戦はやらないので、電気科3年と同じ、3位の賞状をもらって、球技大会は終わった。
ぞろぞろと 教室へ戻りながら

「やっぱりボール 大きいと扱いずらいな。
手首が痛いや。」

真白が 手をぶらぶらさせている。
徹は 授業でやるぐらいしか バスケを知らない。

「何、バスケってボールの大きさ ちがうの?」

「うん。女子の方が一回り小さいんだよ。
大きいとやっぱ重いし、私 もともと手、小さいから 上手く掴めないんだよね。ほら。」

真白は 徹の方に手のひらを向けた。

「手、合わせてみ?」

真白が言うので 少し遠慮がちに徹は 真白の手に 自分の手を合わせた。
真白の指先が 徹の第1関節にも届かない。

「わ、ちっせ。」

徹は手を引っ込めた。

「何それ ホント小せーな。」

「でしょ?女子としても 小さい方なんだよね。女子用ボールでも 細かいボールハンドリングが難しくて 苦労したよ。」

真白はケラケラ笑った。
徹は平静を装っていたが、内心 心臓がバクバクしている。
女の子と手を合わせる事も初めてだったが、合わせた手の小ささと、柔らかさは 自分の手とは全く別物だった。
真白の事は もちろん女子として、ある程度気を遣ったりしていたが、本当に友人として付き合っていた。
急に真白に 女の部分を感じて、徹は胸の中に
なんだか分からない モヤモヤしたものが、生まれたのを 感じていた。

結局、電子科1年は、バド部コンビの バドミントンで、3回戦まで進んだが、賞状をもらえたのは バスケチームだけだった。
まあ、1年で賞状をもらえたのは このチームだけだったので、大したものだ。

今日は、全部活が休みになったので、バスケチームと、広樹や聡、他数名で打ち上げに行こうという事になった。
真白は今週 週番だつたので、

「日誌、先生に出して来るから 昇降口ら辺で待ってて。」

と言って 職員室に向かった。
徹達は昇降口で 靴を履き替え、真白を待つ。

「あー俺もみんなの活躍、見たかったなー。」

「試合時間、被ってたもんね。」

「俺は2回戦から見られた。面白かったぜ。」

「ああ、1回戦負けだったしな。」

「ウルサイヨ。」

などと言い合って待っていると、パタパタと渡り廊下を駆けてくる真白が見えた。
徹が 真白に手を上げようとした時、真白とすれ違った男子が、わざとらしく声を張り上げた。

「今日は大活躍だったじゃん。さすが、男好きの淫乱女は やることが違うねー。」

真白の方へ顔を向けてニヤニヤしている。

               ⑧ー(2)に続く 


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