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【小説】女子工生⑳《清文の想い》

清文 優しすぎ(作者談)

 再び ゲームのトーナメント戦が始まった。
真白(ましろ)がふと気付くと、清文(きよふみ)の姿がなかった。
トイレかなと思い廊下に出ると、窓から 庭に立っている清文が見えた。
真白は サンダルを引っ掻けて外へ出た。
カラカラと引戸を開ける音に、清文が気付いて振り向いた。

「清文、どうしたの?気分悪い?」

「いや、何か熱気にのぼせた。ちょっと涼んでる。」

「涼むって、結構寒いでしょう。」

「少しなら大丈夫だよ。気持ちいいくらい。
ここ、俺んちから そんなに離れてないのに
俺んちより星がよく見える。」

「周りに あんまり家とか店とか無いからね。その分、見えるのかも。」

その時 少し離れた所から“キー”とか“ピー”とかいう感じの 甲高い音が聞こえた。
清文には、聞いた事のない音だった。

「なに、今の。」

「あれは鹿の声。」

「ハ?鹿?鹿って、あの動物園とかにいる
あれ?」

「そう。あれ。でもここのは その辺の山の中
自由に闊歩いてる野生動物ってやつですな。」

「俺、鹿の鳴き声って初めて聞いたわ。」

「ここは山が近いから、鹿だけじゃなくて、
猪やらハクビシンやら時々見るよ。」

「やらって事は他にもいるの?お前、見た事あるの?」

「私が見た事あるのは、鹿と猪とハクビシン、狐、狸、うさぎ、イタチ、んーあとは、ネズミ?くらいかな。」

「“くらい”って それだけ野生動物見た事あるってスゲエなあ。」

「もう少し奧は、熊も出るらしいけど、私は見た事ない。」

「いや、見なくていいよ。」

「清文さあ、こんなとこで私と野生動物談義してていいの?」

「何で?」

「さっき、プレゼント交換の時 チラッと見えちゃったんだけど、ラッピングした可愛げなプレゼント入ってたじゃん。あれ、誰かにあげるんじゃないの?」

「あれ見えたんだ。違うよ。あれは妹用のやつ。」

「ならいいけどさあ。他に誘いたい子いたのに私が無理に今日、誘ったんなら悪いなあと思って。」

「俺、基本 我慢好きじゃないから、他に行きたいとこあったら ちゃんと言うよ。」

「そっか。」

「そうデス。ところで、今日は楽しかったか?真白。」

「うん!すっごく。家族まで何か貰っちゃって気を遣わせたかな。」

「いや。食べ物、飲み物全部出して貰って、場所も貸して貰って、何も無しじゃ余計こっちが気ぃ遣うよ。だいたい、飲み食い自分らで用意して、カラオケなんか行ったら、ひとり500円じゃ済まないぜ。」

「んー、まーそうか。」

「そうそう。で、話し変わるけど、今日、お前可愛いな。」

「ほんと?可愛い?鈴音(すずね)と咲良(さくら)が、コーディネートしてくれた。」

真白は スカートを摘まんで広げて見せて、首をかしげて笑った。

「学校は 制服と実習服だし、たまにそういうの見ると、女子だったんだなーって思うわ。」

「えー、じゃあ普段はどう見えてんの?」

「え、・・・女子工生。」

「また それ言う!」

真白は清文の背中をバシバシと叩いた。

「痛って、ヤメロって。」

清文が、軽く真白にヘッドロックを掛ける。

(テツ、悪いな。でも俺はここまでだから。友達のままでいるから。)

清文は心の中で徹に詫びた。
自分より 20センチ以上小さい真白を、このまま抱き締めてしまいたい衝動を胸の中に押し込め、真白から手を離した。

「いいかげん 寒くなって来たな。中入ろうぜ。」

清文が、肩をすぼめて玄関に向かい、真白も後に続いた。
玄関を開ける直前、ガラッと先に戸が開いた。
そこには、徹(テツ)が立っていた。

「うおっビビった。なんだテツか、あー焦った。」

「清文、次 ゲーム、清文の番だから呼びに来た。」

清文は、徹がバッグをぶら下げているのを見た。
その中に 何が入っているのか知っている。

「おー悪い悪い。」

と言いながら、徹の肩に手を乗せ、顔を近づけた。
真白に聞こえない様に 小声で

「頑張れよ。」

と囁いてニヤリとした。
そして そのままリビングへ入って行った。
真白も後から玄関に入り、徹がバッグを持っているのに気付いた。

「何、テツ 帰っちゃうの?」

「いや、違う。これは・・・、真白、寒い?少し話したいんだけど、いい?」


いつもの徹と違って、真剣な眼差しで真白を見た。

                 ㉑に続く


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