「Let you in the Room学校編」〜教室に対話の場を作り出すためには〜
皆さんこんにちは、BAwの黒川公晴です。
だいぶご無沙汰してしまいましたが、色んなプロジェクトが進んでいますので、この場で少しずつシェアをしていこうと思います。
まずは最近行った、教育現場での対話プロジェクトについて。
普段は企業案件ばかりなので、今回は初挑戦の領域。
とってもチャレンジングで学びある機会になりました。
「学び方」の前に「学ぶ場」
行政も主導の下、「対話的な学び」とか「探究型学習」といった新しい学びのスタイルが今後どんどん加速していきます。すでに新たなカリキュラムを導入する先進的な学校も少なくありません。
しかし、「どう学ぶか」の前に、「学ぶ場」がどこまで整っているかがとても大事。
「こんなことを言ったら馬鹿にされそうで怖い」
「率直に意見交換できない」
生徒からこんな不安が聞こえる、と相談をくれたのは東京のとある高校の校長先生でした。
「教室に安心・安全の環境を作りたい」
確かに、どんな素晴らしいカリキュラムが整っていても、それを生かして生徒を受け止める「場」がなければ学びは深まらない。
校長先生が叶えたいことと、BAwのミッションである「Let You in the Room」が重なり、即決で東京に向かいます。
まずは先生から
最初に話したのは、「教室にそんなカルチャーを作っていくのであれば、まずは職員室からですよね」ということでした。生徒に求める前に私たち自身はどうなの?ということ。
企業でも言えることですが、組織のミッションや外側への提供価値って、
本来自分たち自身が心から体現するバリューが自然と染み出していくもの。
ということで、生徒に丸一日、教員スタッフの皆さんにはその2倍の長さでワークショップをお届けすることになりました。
Goal 1. 教室に安心安全の土壌を作り出す
Goal 2. その前に教員スタッフの間でそれを体現する
Goal 3. 生徒たちと向き合うためのコーチングスキルを学ぶ
これらを目標にしながら、主なツールとしてアメリカで生まれたNVC(Non-violent Communication)というコミュニケーション手法を用います。
NVCの使い方
NVCは、コミュニケーションのメソッドです。
自分が心から大切にしたい価値観と、その瞬間の自分の感情を素直に表現し合うことで、対立や勝ち負けの関係ではなく、思いやりあふれる繋がりに変えていくための手法。
感情を誰かのせいにせず、あくまで「自身の価値観が故の結果である」と自分で引き受ける考え方でもあります。
例えば、家族や恋人が、何も言わず夜遅くに帰宅したとします。
その時私たちはどんな言葉を発するでしょうか?例えば、
「こんな遅くに帰ってくるなんて、人として非常識だよね」
おそらく当人にあるのは怒りや寂しさ。心配かもしれません。
でもそれを相手への非難や「非常識」という主観的な評価で断じてしまうと、相手はどう感じるでしょうか?
罪悪感や罰で行動を強制的に変えられたとしても、「確かに、次からは早く帰ってこよう」と心から思うことは少なくともなさそうです。
これをNVCでは、例えば以下のように表現します。
「あなたが朝から一度も連絡なく、X X時まで家に帰ってこなかったので、私は寂しくて、心配だった。なぜなら、一緒の時間を大切にしたいし、あなたに無事でいてほしいから」
どうでしょうか。言葉数は増えますが、受け取りやすさはずいぶん違いますよね。「寂しい」や「心配」という自分の感情を素直に表現しながら、それは相手のせいではなく、自分の価値観(=一緒に時間を過ごしたい、無事を願う)がゆえの感情なのだと、自分で引き取っています。
私たちは、会話の中や自分の頭の中で、ついつい自動的に「評価」と「他責」を繰り返しがちです。そうではなく、まずは自分の感情。そしてその感情が沸き起こるということは、自分の中に特定の価値観があるということ。この2点を明らかにして、そのまま素直に表現することで、人と人との関係性は随分良く流れるようになる、というのがNVCの考え方です。
そしてNVCにはもう一つの使い方があります。
それは自己理解を深めるということ。自分の感情と価値観を表現するためには、当然それらを理解しなくてはなりません。そしてそれは、自分の価値観を知り、行動を一致させる=自分軸を築くというプロセスでもあります。
そしてそのためのサポートこそが、コーチングの基礎であると僕は理解しています。
本人がうまく気づけない、表現しきれない感情や価値観を聴き手として受け取り、それを渡してあげる。そのやりとりを通じて相手は自己認知を広げる-もっと簡単な言い方をすれば、「自分はどうしたいのか」を明確にしていく。教員の皆さんには、このエッセンスを丸一日かけてお伝えさせていただきました。
まずは自分から
3日間、先生・生徒の皆さんと濃密な時間を過ごさせていただきましたが、これだけで安心安全の学校が出来上がるわけはありません。
日常の中でついつい「評価」と「他責」の自動モードに入ってしまうたびに、自覚してまた意識を戻す。この連続です。先生は生徒のそれを察知してサポートする必要があります。
そしてそんなコーチングの際に大切にしたいのは、相手を見る前に自分を見るということ。
自分の内面の動きに気づけない人が、他人のそれを察知するのは難しい、というシンプルな構造です。今リーダーに必要と言われる共感力やEQ(感情の知能指数)も、自分から始まるものだと思います。
なので、教員スタッフの皆さんとは今後も月一でセッションを持たせていただくことに。それは「生徒がどうこう」と評価をする場ではなく、自分たち自身がどうなのかをひたすら観察するトレーニングの場。当然、私自身のトレーニングの場でもあります。本当に楽しい、毎回勇気づけられる場でもあります。
ちなみに、生徒向けのセッションでは、高校生の皆さんのセンスにただただ脱帽でした。ふざけたり茶化したりしながらも、ふと見せる真剣な表情や、こと「自分や相手を観察してそれを表現する」という鋭い感覚には、感動を覚えるばかりでした。長い1日にお付き合い頂いたことに感謝と可能性しか感じません。
数式の正解や集団の正解だけを求められる教室ではなく、自由な対話を通じて気づきが創発されていく「学びや」文化が、この素敵な高校から広がっていくことを心から願っています。
Written by Brain Active with
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