記事随想-つくばエクスプレス延伸構想
私が普段通勤に利用しているつくばエクスプレスは、秋葉原から北千住、流山おおたかの森、守谷を通ってつくばまでを結ぶ58.3kmの路線です。2005年の開業以来、沿線では住宅開発が進み、流山市や守谷市、つくばみらい市などの沿線自治体は人口が急増、近年では子育てにやさしい街として人気を集めています。
そんなつくばエクスプレスに延伸構想があるようです。具体的には起点・秋葉原から南へ東京駅・晴海方面へ、終点・つくばから茨城県内方面です。かつて地図に線を引いて架空の鉄道を作って妄想していた「妄想鉄」の私にとって、何とも夢見るような話ですが、今回はそのつくばエクスプレス延伸構想について触れてみたいと思います。
1.南へ-東京・晴海方面延伸構想
つくばエクスプレスの起点は秋葉原駅です。山手線や総武線、地下鉄日比谷線に連絡しており、また、さまざまな文化の発信拠点としても名高い街ですし、そのイメージは先進的な鉄道路線であるつくばエクスプレスの起点駅として相応しいとも思うのですが、そこから南下して東京駅方面へと延伸する構想があります。秋葉原から東京駅までどんなルートを通るのかはまだ検討中のようですが、東京駅は丸の内仲通りに造るとの話があります。
かつては、東京駅方面のみの延伸が謳われていましたが、昨今の報道では、そこからさらに南下して晴海通り方面に延伸し、最終的には国際展示場駅あたりから羽田空港方面へと繋ぐという構想まであるようです。東京駅を造る予定の丸の内仲通りはまっすぐ行くと有楽町に出られますのでそこから晴海通りに出るものと思われます。
実は晴海、以前私も数年間働いていたのですが、都営大江戸線勝どき駅から10分近く歩くか、道も車内も混雑して定時性の低い都営バスに乗るしかなく、鉄道路線の駅が晴海にあると便利なのにという想いはずっとありました。
ただ、実現可能性はというと正直よくわかりません。
ご紹介した記事は2019年のものです。この当時は東京オリンピックが開かれる前で盛り上がっていた時期ですし、パンデミックが猛威を振るう前でもありました。
この数年間で状況は大きく変わりました。最近戻りつつあるとはいえ、テレワークが定着化し、通勤利用者は年々減少しています。鉄道会社の経営状態も急速に悪化しています。正直、満員の通勤電車が少し空いたからといって赤字になってしまうような、詰め込みを前提としたビジネスモデルには疑問を持ちますが、建設費が莫大となる都心部新線を建設してまで効果があるかは微妙です。実現するとしても、東京駅あたりからの新線は別事業者で建設し、つくばエクスプレスに乗り入れる形になるのではないかと思います。
晴海延伸線は国際展示場近辺でりんかい線と接続し、羽田空港方面を目指すとの構想がありますが、もう一つ、羽田空港アクセス路線としては、JR東日本が構想している羽田アクセス新線があります。このうち東山手ルートと呼ばれるルートが新橋近辺から東京駅に乗り入れます。
むしろ、つくばエクスプレスの東京延伸線は、こちらの羽田アクセス新線に乗り入れることを考えた方がいいかも知れません。というのも、つくばエクスプレスの車両はJRと同じ2,900mm以上の拡幅車両ですので、普通の地下鉄には乗り入れられません。当然、それに見合うトンネルを掘るとなると建設費もかかります。JRが建設する新線であればその問題はクリアできるでしょう。ただ、東京駅でどのようにJRの線路と接続させるかは難しいかも知れません。
なお、かねてより都営浅草線には東京駅直結構想があります。押上駅から泉岳寺駅までほぼ一直線に進み、東京駅近辺の大深度地下に駅を設けるというもので、これによって、羽田空港と成田空港の連絡短縮を図るというものです。こちらの実現性も見ながらの東京延伸構想となろうと思います。
2.北へ-茨城県内延伸構想
つづいては、終点つくば駅から先の茨城県内の延伸構想で、こちらはここ1年あまりで急速に議論が拡がり始めています。現在、筑波山方面、土浦方面、茨城空港方面、水戸方面の4つのルート構想が検討されており、茨城県内では次々と促進期成同盟が設立され、誘致合戦が繰り広げられており、さながら「令和版我田引鉄」の様相を見せています。
ちなみに、「我田引鉄」とは「我田引水」をもじった言葉で、かつて鉄道路線を誘致するために全国各地で政治家たちがパワーゲームを繰り広げた活動を揶揄した言葉です。有名なのはJR大船渡線で、地元政治家の圧力でルート変更が何度も行われ、ドラゴンレールと称されるジグザグな路線となりました。この他、こちらは諸説あるようですが、上越新幹線が越後湯沢からまっすぐ行かずに浦佐を通ることになったのも「我田引鉄」の典型と言われることがあります。
それはさておき、現在検討されている4つの案についてちょっと見てみたいと思います。
①筑波山ルート
まずは、つくば駅からまっすぐ北へと線路を延ばし、筑波山の麓へと行くルートです。
筑波山は関東近郊の比較的登りやすい山として登山客に人気ですが、終点のつくば駅からは実は結構遠く、登山口のある筑波山神社またはつつじケ丘までは、関東鉄道が運行する筑波山シャトルバスでおよそ40分かかります。登山シーズン、特に紅葉の時期には登山客が大挙して押し寄せ、バスも超満員になっています。こうした需要に加え、ルート上には筑波大学をはじめとした筑波研究学園都市が広がっており、そこにいくつか駅を設ければその需要も賄えるかも知れません。
ちょうど、京王高尾線の終点・高尾山口駅のようなイメージですが、高尾山口駅は100mほどでケーブルカー乗り場に行けますが、筑波山の場合はケーブルカーの起点である筑波山神社、ロープウェーの起点であるつつじケ丘にしろ、結構な山道を登った先にありますので、最後は相当の急勾配を登る必要があります。観光需要をカバーするためにはできる限りケーブルカーやロープウェーに近い位置に駅を設ける必要がありますが、このあたりの技術的な課題をどうするか検討が必要です。
加えて、筑波研究学園都市を抜けると、筑波山の麓までは田園地帯を走りますので、需要という意味では難しいエリアです。宅地開発を進めるといっても、人口減少の局面にあって、さらにはつくばからさらに離れたこのエリアにまで宅地開発ができるかは未知数です。
また、終点が行き止まりで、他の鉄道路線への乗換ができないこともマイナスでしょう。土休日や紅葉シーズンはともかくとして、平日に終点まで乗ってくれる人がどれほどいるでしょうか。こちらも難しい課題と思います。
②土浦ルート
次が土浦駅を目指すルートです。つくば駅から東方向に進み、JR常磐線の土浦駅を繋ぎます。
つくば駅から土浦駅へは、今でも路線バスが頻繁に走っています。両駅間を繋ぐ需要は相応に多いのが実情です。また距離的にも比較的近いので、費用面的にも有利だと思います。
一方で、土浦終着でよいのかという疑問もあります。たしかに常磐線には乗り継げますが、つくばエクスプレスとしては秋葉原まで自社路線に乗ってほしいという思惑があるでしょうが、つくばから土浦に繋いでしまうと、つくばから東京へ向かっていたうちの一定数が土浦駅方面へ流れてしまう可能性もあります。
③茨城空港ルート
3つ目の案は茨城空港を目指すルートです。
つくば駅から北東方向に延伸して石岡駅付近を通って茨城空港までを結び、空港アクセス鉄道としての役割を負わせようというものです。石岡市が中心となって提唱しています。
茨城空港は、首都圏第3の空港として航空自衛隊百里基地を2010年に民間共用化して誕生しました。現在はスカイマーク1社が新千歳、神戸、福岡、那覇を結んでおり、パンデミック前には一部国際線も乗り入れていました。
しかし、6kmほど北に東関東自動車道の茨城空港北ICがあるくらいで、東京方面からのアクセスは不便で、年間利用者数は低迷しています。正直、現状を見れば「首都圏第3の空港」を名乗るのもおこがましいような状況です。このような不便な空港に鉄道路線を繋げば茨城空港の地位も向上するだろうと目論んでいるわけですが、こればかりは未知数だと思います。
それは、ただつくばから繋ぐだけで、それだけでいいのか? というものです。東京からの所要時間はいくらくらいになるのでしょうか。羽田や成田に次ぐ選択肢として考えられるような所要時間になればよいのですが、難しそう、というのが正直なところです。
現在、秋葉原からつくばまでが快速で45分。茨城空港は、そこから直線距離で30㎞あります。どんなに頑張っても20分はかかるでしょう。そうすると秋葉原から茨城空港までは65分です。何しろ、日暮里から成田空港まで京成スカイライナーが36分で結ぶ成田空港ですら「遠い、不便」と言われてしまうくらいですから、65分では話になりません。将来的につくばエクスプレスが160km運転を仮に実現したとしても、なかなか交通至便な羽田、国内LCC網も充実している成田と競争して東京からの空港需要を喚起することは難しいと予想されます。
また、茨城空港が終着でよいのか、という議論もあります。東京圏からの空港需要がそれほど期待できないのならば、むしろ、茨城空港は県都・水戸市をはじめとする茨城県全体からアクセスしやすいように整備する方がいいのではないでしょうか。
ちなみに、個人的には、かつて石岡から鉾田を結んでいた鹿島鉄道が茨城空港のすぐ近くを通っており、以前は百里基地への燃料輸送も行っていましたので、今さら茨城空港延伸を提唱する石岡市に対しては、そんなことなら鹿島鉄道を支援して鉄路を維持しておけばよかったのに、と思わないこともありません。
④水戸ルート
最後は県都・水戸市を目指すルートです。
同じく石岡駅付近を通って水戸市を目指すルートですが、つくばから水戸までは直線距離でも45kmあります。こちらもどう頑張っても30分はかかります。秋葉原からですと75分。現在、JR常磐線を走る特急ひたち、ときわは、上野-水戸間を68分で走ります。これだけ見るとどっこいどっこいですが、ひたちやときわは品川駅、東京駅からも乗ることができ、北へは勝田、日立、いわき、仙台へと繋がっています。加えて、東京と水戸間だけの移動需要的に2路線も必要なのかも疑問が残ります。
というわけで、茨城県内延伸ルートは各自治体が夢を見ながら構想を練っていますが、一長一短があります。また、茨城県内が勝手に盛り上がっているだけで実現可能性はまた次の話です。
ですが、本来お偉いさん方に考えてほしいのは、ネットワーク性です。行き止まり式の終点まで延伸しても、その行き止まり地点までの純粋な需要しかカバーできません。終着駅がどこかの路線と繋がっている、途中途中でしっかりとした需要があることで、より一層の効果が発揮できると思います。交通関係に恐ろしく人材が少ない日本の中では自治体職員の方々にもそのような発想を持った人はほぼいないと思いますが、本来はそういう観点も踏まえて検討してほしいと思います。
3.個人的妄想ルート
最後に、茨城県内の延伸に関し、個人的に妄想してみたルートをご紹介します。それは、土浦、茨城空港を経由して水戸までを結ぶものです。
需要旺盛なつくば-土浦間をカバーし、そこから茨城空港、そしてさらには水戸までを結ぶことによって、東京・つくば方面からののみならず、水戸・県北方面からの空港アクセスも向上させるというものです。茨城空港は東京からの空港需要をカバーすることは難しいでしょうから、茨城県内の需要をしっかりカバーすることによって活性化の道を探ります。
また、茨城空港と水戸駅の間には「陸の孤島」とも称される茨城県庁があります。水戸駅から県庁まで鉄道で行けることによって、県北地域からも県庁に行きやすくなります。また県庁と空港が直結することも需要喚起になることでしょう。
ちなみに、茨城空港ルートの言い出しっぺである石岡市を通らない理由ですが、つくばと土浦の旺盛な移動需要に応えるとともに、石岡よりも格段に人口規模が大きく、県南の主要都市である土浦を経由させた方が、土浦以南の常磐線沿線からの空港アクセス需要もカバーできると考えたからです。また石岡を経由させると、既存の常磐線に接近しすぎ、需要の食い合いになってしまいます。石岡から茨城空港へは、既に鹿島鉄道の路線跡を利用したBRT「かしてつバス」が頻繁に茨城空港を結んでおり既にアクセスは保たれているということもあります。
さて、水戸まで延伸することにより、常磐線との競合関係に立つわけですが、今回の妄想案では、JR常磐線と競争して水戸まで早く着くことはあまり想定していません。そもそもつくばエクスプレスは、つくば以南は西方に、それ以降は東方に迂回していて、いくら130km運転をしているつくばエクスプレスといっても、特急ひたちやときわとの競争優位に立つことは難しいと思います。それであれば、水戸までの高速移動需要を勝負ポイントにするのではなく、つくば、土浦、茨城空港、(県庁)、水戸という細かな需要を拾う方がよいと思います。
そういう意味では、秋葉原から水戸までを直通する列車はそれほど多くある必要はありません。主要駅だけに停車する特急列車を1時間に1本程度運転させ、普通列車等はつくばで系統分離すればよいと思います。つくばまでは東京を志向した通勤路線、つくばからは茨城県内の需要を拾う地域型路線という形です。
その前提でダイヤを考えてみました。完全なる妄想です。
①秋葉原-つくば間
特急TXライナー水戸行毎時1本(北千住・守谷・つくば・土浦・茨城空港・県庁前・水戸停車)、快速つくば行1本、区間快速つくば行4本、普通守谷行またはつくば行6本
②つくば-水戸間
特急TXライナー水戸行1本、普通つくば-水戸間区間列車2~3本
特急TXライナーは少しデラックスな特急専用車両を用意したいところですが、細かな需要を拾うという意味では、ちょうど南海電鉄の特急サザンのように指定席料金が必要な特別車両と料金不要の普通車両を併結するのもありかも知れませんね。
4.まとめ
というわけで、妄想鉄としても夢が膨らむつくばエクスプレス延伸構想です。全国のローカル線が廃線の危機を迎えている中、新線建設で盛り上がることができるのですから、何ともうれしい限りです。
とはいえ、実現可能性はまだ遠く、つくばエクスプレスとしても旅客需要の急減で業績は悪化しています。延伸云々よりも、現在6両編成で走っている車両を8両編成に増やすことの方が先決でしょうし、初期型のホームドアの更新も必要になってくるでしょう。
どういう形でつくばエクスプレスが変わっていくのかわかりませんが、今後も注目していきたいと思います。
(トップ画像は、つくば駅近くで筆者が撮影しました)
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