何も知らないあなたの旅路と、歯車の壊れた私の家路
立ち止まるのは悪い癖。私はどうせ、限界がある。
「…ねえ! お願い!お願いッ!」
もうだめです。
綾西絃帆は死にました。旅の終点沖縄で。
剃刀みたいな岩で作られた、夕日が最後に落ちる岬を登り、底なしの青い海へと落ちました。
盗んだバイクは待ち人なし。
でも、どうしてこんなノートを残したの? 本当に彼女はいじわる。
読んじゃダメ 遺書=9/9 改メ日記=8/28〜
一緒に帰ろう。
私は生きてる。
ダメって言ってもここに居るんだよね。
失敗か。今から最初の頼みをするね。日付を聞くよ。今何日? 9日に読んだのなら、今死んだのは私と違う
「……だから、私を殺してほしい」
時計を見ます。『9/9 18:08』
顔をあげます。声の主は、綾西絃帆その人でした。ジャケットも、変わりません。
「昼ドラの真似は後にして。数分で回帰路が閉まる」
彼女が水平線に背を向ける先、道路に厳つい車が並び、警察のヘリも飛んでます。
「弦帆一体何してきたの?」
返事はありません。腕を引かれてバイクに跨り、苔色の岩場を乗り超えて、アスファルトへと突っ込みました。
答え合わせの時間です。チャカの火線が飛び交います。
結局私は最低記者。
ああ、死んだ。
「まだ死なないよ。もっと酷い目には合うけど。今まであなたを守ったツケだ」
ありえない。バイクは銃弾の雨を抜けていきます。
ただ、黒いヤクザ車は急ターン。地獄チェイスの開始です。
「これからは、あなたが私を守る番! でも時間がない! ニア・ガガインの言葉を探して。今日がやってくる前に」
「どうやって」
彼女はリボルバーを素早く抜き、それを私に向けました。
ぱん。
◆
「弦帆!?」
「どうしたの? あ、質問の続き。人を殺す方法知ってる?」
知らないよ。彼女はスパゲティを巻き、食べてます。
ここは、どこ。
「歩いて沖縄行けるかな?」
「行けるよ」
「うふー。まだ遠いけど」
もう一つ、彼女は嬉しそうに言いました。
「着くまで日記を書こうと思う」
理解は覚悟の後でした。
【続く】
コインいっこいれる