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未亡人日記75⚫️京都の夜 その後2

立ち飲みの店を出て向かったのは、行ったことのある、カウンターしかない和食居酒屋。予約はできない。
クリスマス前の土曜日だからきっと混んでいて断られるだろうから、その後知人からおすすめされた店に行こうと思っていた。
そしたらなんと、先客はカップルが1組しかいなくて、入れてしまったので拍子抜けした。まだ開店時間からまもないこともあったかも。

「どっちかに詰めますか?」と聞くと「好きなとこで。混んできたらお願いします」と言うので、カップルの1席飛ばしで座った。

変わってない店。前の時より心なしか店の雰囲気、というか店主のあたりが柔らかい気もする。なので
「前来たときは、すごい迷って。看板も出てなくて、前の店の看板のままで、って。隣の駐車場で聞いてたどり着いたんですよ」と言うと
「じゃあ、あれ、それはまだ開店した頃かな?」と店主が受け取るが、特に私のことを覚えているわけではない様だった(当たり前だけど)。
お店にとって1度直来ただけの客に「前も来ました」って言われるのってどんな感じなんだろうな。
私は昔、一度時計の電池を替えたことのある店に何年後かに行ったら「お客さんのこと覚えてます」と言われてちょっと気味悪い気持ちになったのだが、その逆の様な感じなのだろうか。

とにかく、ここは料理がうまい。
まず突き出しにお椀が出た。安心して日本酒を頼む。先ほど甘口で失敗したので「辛口で」と頼むと知っている銘柄。さらに安心して、魚を食べたくてちょっと変わった作りのものを頼む。

そうしたらガラガラと戸があいて「入れますか?」と男性客が入ってきた。

「どっちかに詰めますか?」と男性も聞いて、すると「好きなとこで。混んできたらお願いします」と店の女性がまた言って、「じゃあこっちに詰めようかな」と私とカップルの間に男性が座った。

ここの店は隣に座った人と話が始まりやすいのだが、カップルに話しかけるのはやっぱり遠慮が私にはあるので、お隣さんとはお互いに一人同士でなんとなく話が始まった。
旅の話からハワイの火山の話になって、男性が写真を見せてくれたので、私はこの前、北極圏を飛んだ時の流氷の写真を見せた。

知らない人だけど、食べたい料理を頼んで、これ美味しそう、などつまみを分け合うなどした。私は鴨を食べたかったので、「三十分ぐらいかかります」と店主には言われたが、じっくり焼いてもらうのは全然良いし、むしろ三十分は飲んでいればあっという間に経つことがわかっていたので問題なかった。その後男性は私のリクエスに応じて焼き牡蠣を頼んだ。

話の感じからおそらく5、6歳、いやもっとかも? 10歳ぐらい年下だろうなと思って話をしている。並んで座っているために顔を見ていないので、落ち着いた声を好ましい感じで聴いている。

日本酒は二杯目に進んでいて、今度は濁り系。
さっきの店の酸っぱい味ではなく、まろやかだったので安心して飲んだ。そのうちカップルが帰ってしまい、その間を挟んで一人で飲んでいた女性と男性が音楽について話し始めた。
私にはリアルタイムのミュージシャンだけど、彼女や男性はややレトロ趣味に感じられる大物だった。なので、話に入ろうと思えば入れたのだが、二人が盛り上がっているので、面倒くさくなり、お手洗いに立ったあと、お会計を頼んで出てきてしまった。
こういうところが酔っ払っている証拠だ。なんにもないのにフラれたみたいな振る舞いをするところが。

私はその足で、一軒目の立ち飲みに戻った。

また混んでいたけど、お客さんたちがよけてくれたのでカウンターに潜り込んだ。
「おかえり」と鶴瓶の店主がメガネの奥の目がやや笑ってる感じで言い、
「ただいま」と私は言って、頼む。

「ハイボール」

(つづく)











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