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未亡人日記74⚫️京都の夜 その後


大津から電車に乗るとあっという間に京都駅に着く。

京都駅は外人と観光客で賑わっていて、私自身も観光客なんだけど、駅が混みすぎて歩きにくいなあ、とか思っている。ホテルは駅前派。京都駅の周りはきっと「本当の京都らしい京都」ではないんだろうなあ、地元の人からは? などと勝手に京都人の気持ちを想像しながら駅前の大きなホテルにチェックインする。

最近私自身がヨーロッパで回ってきた星3つのホテルと比べて(特にパリと比べて)ものすごく大きくて、近代的で、何しろ自動チェックイン機が3台あって、そこを交通整理するホテルマンがいて、大きなトランクを引いている日本人以外の人がたくさん並んでいる。私も並んでチェックインすると、画面に「お部屋をアップグレードしました」とコメントが出てきた。おお、すでにホテル自体が私基準ではものすごくアップグレードされているのに、やはりJR某のダイナミックパッケージの威力なのだろうか? などと心の中で喜ぶ。

部屋はツインのベッドルームで、ソファの感じからするとおそらくトリプルにもなる広い部屋だった。窓の外から大きな通りと京都駅の端っこが見える。

夕ご飯は京都駅で駅弁でも買って、部屋でのんびり食べようかな。お金使わないように。最初はそう殊勝な気持ちでいたのだが、知人のおすすめの店はやはりチェックしなければなるまい、などと思って出かけることにする。これが多分間違い。

お店は四条河原町の方向、つまり駅からはまあまああるので、バスで行くことにする。市バスの3番というのに乗る。乗り場がわかりにくくて行ったり来たりして乗り場に着くと、大勢の人。こんなに乗れるんだろうか、これは次のバスだな? と、半分諦めていたが、到着したバスには乗り込めた上、私はスカーフを被った女性の隣に座れさえした。

バスは駅前を鴨川方向に行き、そこから河原町方向まで上がる道順。途中からも人が乗ってくる。かなり混んでいる。私が降りる予定の停留所に差し掛かると「次降ります」と隣のスカーフ女性が日本語で言うので「私も降ります」と言って人の流れに沿ってバスを降りる。

クリスマスの直前だからすごい人。もう日は落ちていて、交差点をどっちに行ったらいいかわからない。先日息子からGoogleマップを使うやつは情弱、情報多すぎて迷う、と指摘され、私は紙の地図を読むのは得意なのだが、いつまでたってもネットの地図が苦手な理由がわかった。(でも今日もまた設定を変えていないのでGoogleマップのママになっている)。交差点をぐるぐる、四分の三、歩いて、やっと、こっちかな? と方向がわかった。光と人混みから急にあたりが暗くなった。

その暗がりの中に煌々と光っている店がある。以前京都に来た時に、賑わっていて入ってみたいなあと思っていた立ち飲みの居酒屋。(京都駅の前からわざわざ来る店でもないかもしれないけれど)。今日も見た目満員。でも一応聞いてみようと「すみません」とガラス戸を開けてお伺いを立てると、店主が「何人? ひとり?」と聞くので「ひとり」と答えると、「そこ空けたって」と店主の妻らしい(いや、わからないけど)女性がいい、さあっと両脇のカップルが開けてくれて、特に左の日本人女、外人男のカップルは潮時みたいにしてお会計をして帰って行った。

さて何を?

「初めてなんですけど。ビールください」と女性に申し出ると、「ビールは瓶ビールね、何にします?」と言われ、カウンターで手酌瓶ビールはちょっとアレかな? と思い「すみません、ハイボールにします」というと、「ハイボールは、ソーダと中身が別、どっちかだけも頼めます」。おかわりオッケーなのだ。

壁に色々メニューが貼ってある。淡路の玉ねぎ焼き、蕪の天ぷらを頼む。牡蠣と鱈エシレバターの焼きというのを食べたかったのだが、量が心配で、というのは、この後は別の店で座ってしっかり食べたかったのだ。そしたらなかなか出てこない。なので、「アテ」と書いてあるのですぐ出てくるのではないか? とチーズのたまり醤油漬けを追加で頼むがこれもなかなか出てこない。この時点ですでにハイボール二杯飲んでいる。やっと出てきたチーズは、想像を裏切る、なんとわらび餅みたいな繊細な粉がついている外観だった。2切れ並べてあり、爪楊枝が刺してある。立ち飲みなのに芸が細かい、と、鶴瓶に似た店主をまじまじ見直す。ではでは、と日本酒を頼む。

大きくても、小さくても同じ値段らしい。小さいお猪口みたいなサイズにすればいいのに、またここで中サイズを頼むから私はダメなんだな。「辛口? 甘め?」と女性に聞かれたので「甘め」とお願いしたのだが、麹の味のする発酵途中の酸っぱい系で、これはちょっと口に合わなかったが黙って飲んだ。

隣に入ってきた男性二人連れがエシレバター焼きを頼んで美味しそうだった。が、その量ではやはり食べられなかったな、などど思っている。ここまでひとり客かつお上りさんの分を弁えて、周囲の話をBGMに黙って飲んでいたが、エシレバター焼きをきっかけに隣の男性客二人連れに話しかけ、東京から来たと言ったら驚いていた。まあまあ、そういう客もいると店主が言い、私は「京都駅前から来たんですよ、前回来た時は入れなかったから」と言った。

ガラス戸の外では雨が降っているらしく、通る人が傘を差している。折り畳み傘を持ってきたのにホテルに置いてきてしまった、このままだと京都駅に帰るのにも濡れて嫌だな、バスを待っている間に濡れたくないからもう少しここにいるかな? と思いながら飲んでいると次第に止んできて、ガラス戸の後ろにまた人が並んできたので「私出ます」と言ってお会計した。

三千円でお釣りが来た。

もしかして、この店は、外から見るといつも満員だけど、「たのもうー」と声をかけるとお客が詰めてくれたり「あ、出ます」などどいってくれることで回転しているのではないか? と思った。

(続く)




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