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未亡人日記76⚫️京都の夜その後 3

ハイボールを一杯飲んだら看板になった立ち飲みを出て、まだホテルに帰りたくないというのはどうかしている。

歩きながら知人の紹介してくれた女性店主のバー方向に歩きながら、インスタの電話番号からかけると「ああー、すみません、今日はまさかの休みです」とフラれてしまった。もうかなり飲んでるのに、それを聞いたら逆に元気になって、通ってきた道の2階の上がり口にバーのメニューが出ている店があったよね、と携帯を切りながら引き返して、階段を登って行った。

広い店で、大通りがガラス越しに見える。客が誰もいなかったので、私はツカツカと進んでカウンターに座り、バーテンダーに「マティーニ」と言った。

自分で(おお、本領発揮してきた)とおかしくなった。

お客が一人なので、いい調子でバーテンダーと喋っていたが(何を喋ったのか覚えていない)、私の斜め後ろにおじさんが(つまり私より明らかに上)が座った。斜め後ろ、と言うのはカウンターが逆コの字だから。そして今度はおじさんと私は話し始めたのだが、なんだか子どもや親に関する割と説教くさい話をしていた。そういう年代なんだな、私もおじさんも。生きてきたことの教訓を喋りたいんだな。

すると今度は私の左隣に女性が座った。なんだか突然現れた感があった。それは日本語を話す様な顔をしながら英語で注文をしていたからかもしれない。

黒髪だったけど、顔立ちは異国的で「どこからきたの?」と酔っ払っているのですぐ英語で聞くと「スウイッツランド」という。へえ、私最近フランスとドイツ行ってきたんだよ、と酔っ払っているからそのまま英語で喋っていて、彼女が一人旅で京都に来ている話を聴いている。30代半ばだという。いいねえ、いいねえ、と私は言う。

そしたら、あなたも若く見える、と言う。女のひとり旅をする人はみんな同志だ。大いに愉快な気持ちで、私もまた、どこか行きたいなと思っている。ただし、外国ではこんなふうに夜一人で飲みに行かないし(ホテルのバーならあるかもだけど)、飲みに行けないから、女ひとりバー巡りができる日本てすごいなあと頭の中で思っている。

「記念写真撮りましょ」と、最近林家パー子になっている自覚がある私は自撮りモードで彼女と記念写真をとり、エアドロップで送った。そしたら急に「帰らなければ」という気になった。もう呂律が回っていない自覚。

タクシーをGOで呼ぶ。そういうことができるけど、かなり酔っ払っている。バーテンダーが階段を一緒に降りて、タクシーまで送ってくれた。

ホテルに着いて、部屋に戻ったのか、戻る前だったのか、コンビニに行って水を買わなければ、という気持ちになって近くのセブンイレブンを検索した。この辺まだ外国にいる気持ちというか勘違いが酔っ払って出てきたのだろう。

店に行く途中にどんぶり飯系のチェーン店があり、あろうことか、私はフラフラと入って、食券で何か買い(覚えていない)番号で呼ばれて、それを食べて、店から出た。その後、セブンイレブンに行って水とヨーグルトを買い、ホテルに戻ろうとしたが道を間違え、住宅地に迷いこみ、そうすると私はいつの間にか悪態をついていた。

「死ぬから悪いんだ。死ぬから」

夫の名前を呟きながら、泣きながら寒い師走の京都の夜を歩いていた。



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