やまもも泥棒
やまもも泥棒(小説)
先日、かよい丁公園を散歩したら、ヤマモモがたわわに実り、熟しているのが目に留まり、少年の頃のヤマモモ泥棒事件を思い出しました。
虚士(きょし)が小学6年生(昭和36年)の頃、6月ある日の話です。
当時、浅海(あさみ)集落の児童は5年生になると4km程離れた深海(ふかみ)集落の本校に通学していました。
その日虚士は授業終了清掃の後のホームルームが終わり、下校して校門に出たところで、浅海の同級生、裕三(ゆうぞう)君、勝秀(かつひで)君、好孝(よしたか)君と一緒になりました。
道すがら、4人もそろうと気が大きくなり虚士が、もの知りの好孝君に、「きゅうは、ヤモんなっとるか、しれんけん、山越えしゅうかい?」(今日は、ヤマモモがなっているかも知れないので、山越えして帰ろうか?)と言いました。
好孝君は「やまみちゃしっとるばって、ヤモのきゃしらん」(山道は知っているけど、ヤマモモの木のあるところは知らない)と返しました。
すると、勝秀君が「”うしら”(通学路の浅海に近いところ)にあるよ、もう熟れとるじゃろ!」と言いました。
お腹が空いている4人でしたが、「ヤモばらし(ヤマモモ泥棒)」を夢見て、足取りも軽く早足で歩き、”うしら”に着いたら、勝秀君が、道路から山の方を見上げて、ヤマモモの木を探し出し、「あすこ!」と指さしました。
虚士も見やりますが、確かにヤマモモの木はあるけど、実が熟しているかまでは解りませんでした。
ぐずぐずしていると「登ろう!」と祐三君が先頭に立って獣道を登り初めました。4人ともヤマモモの木の麓にすぐに到達しました。
その木の下には、割と大粒のヤマモモが落ちていて、虚士が見上げると、たわわに実り熟して美味しそうなヤマモモが見え、特有の”松の風味”が香って来ます。
また、木も抱きついて登れる大きさで祐三君が裸足になり、いの一番に「よし!登ろう」とするすると登って行きました。
続いて3人も、それぞれの枝に分かれて登り、熟したヤマモモの小枝を引っ張って、直接口に運び食べました。期せずして皆んなで「ん、まかね!」(おいしかね!)と言い合いました。
虚士が2口目を食べようとした時、一番高いところにいた祐三君が無言で、するすると降り始めました。虚士がどうしたんだろうと思っているその時、下の道路のほうから、
「こらー!、なんをしよっとかー!」と怒鳴り声が聞こえます。3人は慌てて、ぶつかりながら滑り降ります。
怒鳴り声がした時は既に、祐三君は着地していて、「こっち、こっち!」と手招きして山の上の方に向かっています。
30m位山の獣道を登ると、上には畑と小道がありました。そこまで来て
「たまがった!」(おどろいた!)と皆んなで顔を見合わせ、言い合いました。
当時、ヤマモモの所有者はいましたが、管理されていないものも多く、子供達は、それらを自由に食べていました。
上質(大粒で美味しい)で、取りやすい場所のヤマモモは管理しているものもあり、それらは取らないようにしていましたが、子供には区別が難しいものも有りました。
終わり
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました)
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