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潮干狩り--端午の節句
潮干狩り、端午の節句-小説
五月五日は端午の節句です。虚士(きょし)が幼少の頃は旧暦でしたので、月の満ち欠け、潮の満ち引きと暦は密接に関連していました。
また「端午(たんご)」は月の初めの「午(うま)の日」をさしていたことが起源であると言われているようです。
虚士が小学4年(昭和34年) 頃の話です。五月の初めの大潮(新月)の休日、浅海集落を挙げて潮干狩りに行くことが慣わしでした。
多くの人々は、潮が引いたら徒歩で行ける近くの、沖の瀬、おの瀬に行っていましたが、船がある人はそれぞれ思いのある所に遠出をして楽しんでいました。
虚士の家には勝太郎とちゃん(父)自慢のポンポン船(ガソリン着火機関)があり、片道3km程の赤島へ行くのが定番でした。ここは潮流が早く波もあるので、子供達だけでは行かないように言われている所です。
なので普段は人がほとんど上陸しない無人島で珍しい生物もいて、探検心からワクワクする事が多かったのです。
虚士は毎年赤島での潮干狩りが大好きでした。
出発の準備があります。赤島は磯ですから、滑らないように足には虚(きょ)太郎(たろう)じさん(祖父)が稻わらで編んだ、あしなか(足半-添付図参照)を履きます(これっきりの履き捨て)。
昼食は先日作った「だご」(がめの葉饅頭)を竹で編んだ「てご」(獲物入れ兼用)に入れて持って行きます。
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赤島に着くと既に他の船も到着して潮干狩りを初めていました。
虚士が道板づたいに下船すると、磯のかおりの浜風が吹いていて、遠くを見ると大きな貨物船が煙を揚げなから航行していました。
大きな石を超えて、岩間をくぐって海水に足を入れるとひんやりとしますが、透明度が高く、藻、ワカメ、牡蠣、がんずめ(小さな巻き貝)、うに等がすぐ目につきました。
狙っているのはそんな者ではないのです。アワビ、サザエ、ホラガイ、トンビ(いも貝)、アカニシ、シッダカ等の大物或いは高級品です。
兄達は大物を狙って、深くて危なかっしい所を目指しますが、虚士は小エビ、小はぜ等の生物に興味があり、浅い所や潮だまりを覗いていました。
虚太郎じさんが編んだ「あしなか」は足に馴染んで海草が生えた岩でも滑る事なく、安心感がありました。
昼食時になっても集まって食べる事はなく、腹が減った人はそれぞれ、がめの葉饅頭をかじっていました。
赤島は干潮から満ち潮へ変わる潮目がはっきり見えます。段々と潮の流れが浅海集落の方向に変化して、干潮から1時間もしないうちに、勝太郎とちゃんが皆んなに「もうそろそろもどるぞ!(帰るぞ)」と呼びかけます。
皆んな、ポンポン船に乗り込み家路に就きました。船の中で潮干狩りの成果を自慢し合います。
勝太郎とちゃんが「サザエ3つ、アワビは深いところで獲れんじゃった!」
誠吾あぼ(従兄)が「アカニシ2つ、シッダカ5つ!」
修一あぼ(兄)「シッダカ3つ、じご(お尻)まで濡れてしもた!」
虚士は遊びぼうけて「ぼうずで、おまけにチンチンまで濡れた!」
他に、ワカメ、カジメ(昆布状の海草)、馬糞ウニ、ガンズメ等々沢山の収穫がありました。
その後皆んなで「だご」を食べながら帰りの船中で疲れた体を休めました。
自宅に着いたら兄達が早速自宅下の平瀬から海水を汲んできて、母の紀乃が大きな釡で潮干狩り成果の、貝類とウニを潮茹でしくれました。(ワカメ、カジメ、テングサ類は天日干しで保存食となります。)
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茹で上がったら、板張りの部屋の上に置いた大きな一斗しょうけ(竹で編んだ大きなザル)にひっくり返しすと、ふわーっと磯の香りが部屋いっぱいに拡がります。
そして、家族皆んなで茹でた貝類を囲み潮干狩りの自慢話しに花を咲かせながら食べます。
虚士も縫い針を持って、ガンズメ(小さな巻き貝)の身を取り出し頬張りました。
虚太郎じさんは焼酎を持ち出し上機嫌です。
終わり
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました)
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