だからボクシングをやめられない。30歳過ぎてからボクシングを始めてプロボクサーになった仕事と両立の奮闘記
外資系のコンサルティング会社に勤めながら32歳の時にボクシングを始めて34歳の時にプロライセンスを取得した。
ここまでだったらカッコ良い話に聞こえるかもしれない。
だが、戦績は1敗2分けと聞かれるまでは言いたくないような惨めなもの。
毎朝の筋トレやランニング、夜はボクシングジムでの練習、ほとんど休まず真剣にやっていて、お酒もラーメンも揚げ物もずっと食べずに食事管理も徹底している上で、この戦績だ。
勝てないのには大きな要因がある。とにかく体が小さいということ。一番軽い女子の階級でも試合前は体重が1kg以上足りなく身長は対戦相手よりも10cmほど低い。
そしてこのディスアドバンテージを埋めるためのボクシング技術やセンス、運動神経もない。
あるのは根性とスタミナ。だからもうボクシングを辞めたって良いのはわかっている。
このまま続けて一勝できたとしてもそこまでだ。
だけど、どうしてもボクシングが辞められない。代わりになるものが見つからない。
私はパンチドランカーになったのだろうか。いや、そんなに激しい打ち合いはしていない。
辞められない理由、それがわかる日が来た。
その日は仕事で悶々とすることがあった。ボクシングをすることで頭を切り替えたくて、何としてでも仕事を切り上げてジムに行かなければと思った。
仕事のことはジムに持ち込みたくないから、ジムに着いたらいつも通り振る舞った。振る舞っているつもりだった。
その日もトレーナーにミットを持ってもらった。「今日は集中できてないぞ。仕事でなんかあったか。」と、トレーナーに見透かされた。
頭の片隅に仕事のモヤモヤが残っていたことで、目が泳いでいたのかもしれない。反応が若干遅れてパンチを出すタイミングが遅かったのかもしれないし、パンチの威力が若干落ちていたのかもしれない。その微々たる変化をきっと見抜いたのだと思う。
もうこの時間は、何もかも忘れてボクシングだけに集中しよう。疲れ果てるまでボクシングの練習に集中することで、練習終わりには清々しい気持ちになり、すっかり心は元気になっていた。
練習の後にトレーナーに伝えた。
「ミットを持ってもらっている時に見透かされていましたが、実は仕事で悩んでいることがありました。だけれどもボクシングの練習をやり切ったら吹き飛びました。ありがとうございます。」
そうしたらトレーナーにこんな言葉を掛けられた。
「仕事をしながらボクシングも集中してトレーニングができているんだから、他のことなんて何でもできてしまうんじゃないか。自信を持って普段の生活から堂々としていれば良い。」
その言葉にどれだけ勇気づけられたことか。
だから私はボクシングをやめられない。いつもボクシングを取り巻く環境に助けられている。