
Photo by
satomi_a
引っぱって振り回された1(父の思い出)
小学校低学年の頃は、週末は決まって近くの山へ父とゲンジ捕りに出かけていた。ゲンジとはクワガタムシの総称で、父から教わった言葉で、方言らしい。
ある夏の日、いつものように夢中でゲンジを追いかけていたら、見たこともない宝石のように美しい大きな蝶と出会った。それまでゲンジにしか興味がなく、定番のカブトムシでさえ見つけても捕まえなかったが、透明感のある美しい大きな翅で、ヒラヒラと優雅に飛ぶ蝶の美しさに一発でKOされた。気付いた時には、高い木の枝に掴まっているゲンジを捕るために持っていた捕虫網で捕まえていた。興奮冷めやらぬまま、父に蝶が何者か尋ねた。父は蝶がアサギマダラといい、昔はよく見たけど最近見なくなったとか、長距離を移動するなど簡単な生態について教えてくれ、記念にとアサギマダラを持って帰り標本にしてくれた。
数日後、父は蝶の綺麗な写真がたくさん載っている図鑑を買ってくれた。毎日、夢中になって読んだ。すぐに図鑑に載っている見たことのないたくさんの蝶達を見たい採りたいと思うようになり、父にゲンジ捕りではなく、蝶採集に連れて行ってとねだるようになった。
数日後、父に山ではなく大阪の大きな百貨店に連れて行かれた。そこで、本格的な蝶採集の道具を買ってくれた。竹でできた柄をつなぎ合わせると5メートルもの長さになる釣竿のような捕虫網、採った蝶を入れる三角紙に入れるための三角ケース、それに標本箱、展翅台、昆虫針、ピンセットなど標本を作るための道具…初めて見る物ばかりで、興奮しっぱなしだった。
その後から、週末は近くの山ではなく遠くの山や森へ父の車に乗って蝶を採りに行くようになった。どんな蝶に会えるのか?どんなところへ行くのか?いきしの車の中、いつもワクワクしていた。