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【短編恋愛小説】牛臥海岸の潮風に揺られて③散歩コース

牛臥海岸の潮風に揺られて
目次
1僕たちの青春
2ドライブ
3散歩コース
4久しぶりの外出
5牛臥海岸の海風に揺られて

3散歩コース
ヴヴヴヴヴヴ

「お前はなんで未来さんにだけそんなに威嚇するんだよ!犬は飼い主に似てくるって本当かな?アハハハ」
「本当にたろきち君は暴れん坊さんだね、かわいいんだから!」

なんだこいつ!俺様の頭触んなよ!!
ヴヴヴヴ!

俺様がこんなに威嚇するのにも理由がある。
まずは、1年前のこの女との出会いから教えてやるよ。

タンポポが増えてきた芝生で日向ぼっこをしていると、あいつたちはやってきた。
「あれ!?フレブルちゃんですか!?私のマリアはパグなんです!お名前はなんていうんですか?」
「こいつはたろきちっていいます!」
主人はデレデレとしている。

「たろきち君かわいいな!私パグにするかフレブルちゃんにするか悩んでたんです!」
【なんだ?いきなり触るやつ苦手なんだよな。】
【ごめんね。私の主人はすぐ犬に触るの。みんなにそうだから許してあげて。】
「たろきち君とマリアが鼻を近づけあって仲良くしてるみたい!楽しそう!」
「そうですね~」
【すまん。俺の主人はかわいい女を見るとデレデレしちゃうんだ。俺を飼い始めたのも女の人と絡むためだし。今日もこの季節は女が多いとか言って公園来たんだ。】
【・・・お互い辛いね。】
犬同士話していると、主人同士は俺様達よりも盛り上がっていた。
「今田さんはいつもここ散歩してるんですか?」
おいおい、相手の名前まで聞いてやんよ、、、本当にかわいい子に目がないな。
「はい!最近は土日のどちらかは牛臥山公園にきてます!真田さんもですか?」
「僕たちはたまたま来ました。普段はもっぱら家の周りで。でも家も、すぐそこなんですけどね。」
「わかります!お仕事してると普段の散歩は少し手抜きになっちゃいますよね!」
「そうなんですよ~。もしよかったら連絡先を交換しませんか?また散歩一緒にしたいです!」
【あんたの飼い主は結構積極的ね。】
【・・・。】
「いいですよ!また時間合わせて一緒に散歩しましょ!」
【なんか、今後会うことが増えそうだね。私はマリア。】
【俺様はたろきち。まあ、よろしく頼むわ。】

帰宅するなり、主人は興奮しながら話しかけてきた。
「たろきち!よくやった!お前のお陰でかわいい子と連絡先ゲットだ!来週が楽しみだ!」
こいつは相変わらず単純だぜ。まあ、ご主人様の喜ぶ顔を見るのも悪くはねぇな。
「ワン!」
「お、たろきち返事してくれたのか?いい子だな~」
主人になら頭を撫でられても悪い気はしないぜ。
あのマリアってやつもなかなか話しやすかったから、俺様も来週が楽しみだぜ。

こんな出会いから俺様とマリア達は毎週会うような仲になっていった。
時には、主人が車を出して、箱根の方に行くこともあった。
まあ、俺様も初めてガールフレンドみたいで、マリア良いんじゃね?って思ってたわけよ。

季節は夏になっていった。俺様達、鼻短犬は大変な季節だ。
いつしか牛臥山公園には、タンポポはなくなっていた。
【なあ、マリア。夕方なのに暑くねえか?】
【凄い暑いよね。たろきち君、実は私、最近体調がずっと悪いんだ。】
【ちゃんと飼い主に体調悪いアピールしてるか?】
【最初はしていたけど、わかってもらえないからやめた。】
【なら俺様から言ってやるよ!】

ヴヴヴヴ!ワンワン!!
「あれ?急にどうしたのたろきち君!あ、水が欲しいのか!ハイどーぞ!」
【うん、美味しい!ってばか!】
ヴヴッヴヴヴ!!
「あれ?飲みかけてやめた?水じゃないのかな?」
ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!
「たろきち!未来さんに迷惑かけちゃだめじゃないか!」
「全然大丈夫ですよ!あ、吠えすぎたから凄く息切れしてる!夕方でもやっぱり暑すぎたのかな。」

【ごめん、マリア。気づいてもらえなかった。】
【大丈夫だよ。たろきち君はいつも優しいね。それだけでうれしいよ。】
【・・・てやんでえ!!】
【たろきち君って江戸っ子なの?】
【なんでもないわい!】
マリアが笑う。

「なんだ?すごく楽しそうだな!でも暑いし、今日は解散にしましょうか!また来週会いましょう!」
「そうですね!」
【バイバイたろきち君!】
【マリアは早く直せよ!】

これが最後になるなんて。

次の日、主人は慌てふためいていた。
どうしたの?を込めて、ワン!!と吠えた。

「マリアちゃんが全然動かなくなっちゃったって。元々気管支に病気があったらしいんだ。とりあえず未来さんが心配だからちょっと出掛けるよ!」
その日、主人は帰ってこなかった。

そして、その次の週から、マリアがいないのに、今田が散歩に来るようになった。
次の週も、その次の週も、一緒に散歩した。でも、公園にはいかなかった。
俺様の前では明言しなかったが、わかってしまった。マリアは死んだんだと。

俺様はお前を許さない。
マリアが許してくれる限り、ずっと吠えてやる。
だって、お前が気が付けばマリアは死ななくて済んだのに!
俺様が言ったのに呑気にしやがって!

でも、厄介なのは、俺様があいつに吠えるとご主人が悲しそうにするんだよな。
それだけは俺様も悲しい。

それから数ヶ月が経った。

なんか最近、俺様の家に今田が住み始めたんだよな。腹立つことに。
でも、、、俺様が吠えててもいつも、優しく餌くれるんだよな。
主人に隠れてこっそり鰹節もくれるし。
今田って本当はいいやつなのかな?
マリア。俺様、こいつのこと許していいかな?

その日の夜、マリアが突然現れた。
【ねえ、たろきち君起きて!】
【え、マリア!?】
【久しぶり!実は空から君の様子を見ていたんだ。たろきち君も気が付いているでしょ?私の主人がいい人だって。】
【・・・。でも、あいつがマリアを殺したんじゃないか!】
【違うの。これは寿命なの。私はもうこの世にいないの。だから許してあげて。優しいたろきち君ならわかってくれるよね。】
【マリア?おい!マリア!】
マリアはいつの間にか消えた。
夢を見ていたのだろうか。
何だったのか、考えていたら、そのまま眠ってしまった。

次の日、あの公園に行けばマリアに会えるかもしれない。
そう思って、主人と今田に牛臥山公園にいこうと伝えた。
「浩二さん、なんか今日のたろきち怒ってない?」
「散歩でも行きたいのかな?あとで、この辺散歩してあげるか。」
はあ。こいつらは全く俺様の言うことを理解しねえ。

マリアが死んでから、俺様達は牛臥山公園にいっていなかった。
思い出しちゃうらしい。
でも、今日は絶対に行かなきゃいけなかった。

家を出ると、普段はおとなしく散歩してやってるが、今日だけは聞いちゃだめだ!
強引に綱を引っ張る。
「おい!たろきち!そっちはだめ!」
主人が綱を引っ張る。
【くぉっ。息出来ねえ!でも、今日だけは今日だけは!】
死に物狂いで抵抗する。
「浩二さん。いつものたろきちと違う気がしない?行ってあげましょ?」
「でも、あっちは。。。」
「私も乗り越えなきゃいけないし。」
「わかった。じゃあ、行こうか。」

俺様達3人は、公園に向かった。
久しぶりに来た公園は、初めてマリアと出会った時と同じ花が咲いていた。同じ匂いがした。そして、同じような海風が吹いていた。
【あの時と同じじゃねぇか。いや、でもマリアがいない。いや、いるのか!?】

はっとして後ろを振り向くと、主人と今田だけが立っていた。
心なしか、今田のお腹が太ったように感じる。

今田。俺様も、お前を許すよ。マリアが許してるんだから。
マリアがいなくなって悲しいのはみんな同じだもんな。

ワン!!

吠えた後、二人のもとに行き、今田の足をなめた。

「あれ?なんか急にたろきちが未来ちゃんに甘えてない?」
「たろきち!どうしたの!お姉ちゃんのこと好きになったの!?」

【たろきちありがと。】
どこからか、声が聞こえた気がした。

4話は7/22の18:00に公開予定です!

1僕たちの青春

2ドライブ

4久しぶりの外出

5牛臥海岸の潮風に揺られて


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