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年に1度の100%従順なワタシ

そのことについて、今まで100人以上に話してみた。でも、誰1人賛同してくれなかった。

旦那さんも、学生時代の友人も、会社の人も。ママ友にもパパ友にも言ってみた。ゴスペル仲間にも、国際交流仲間にも話した。でも、「うんうん、分かるー、分かるわぁ」という返事を、誰からももらったことがない。

年に1回受ける“胃部レントゲン検査”の話だ。人間ドックの定番メニューの1つ。40代以上の人にはおなじみの検査だが、20代や30代の人にはピンと来ないかもしれない。“バリウム検査”と言えば、あー、なんとなく聞いたことある、と思ってもらえるかな。

“バリウム検査”を受けるためには、前日の夜から飲食禁止。

当日、検査前にすることは2つ。

まず、発泡剤を飲み胃をふくらませる。胃の中のひだを伸ばして、病気の種がないかを見つけやすくするためだ。

次に、“バリウム”と呼ばれるドロドロの白い液体を飲む。小さな紙コップ1杯分くらい。図工で使う紙粘土を溶かしたらこんなふうになりそう、という外見をしている。呑み口がいいとは言えないこの白い液体を、胃に流し込むのだ。

発泡剤を飲み胃がふくらんでいるので、生理現象として何度もゲップが出そうになる。しかし、検査終了までゲップはご法度。幾度となくせりあがってくる生理現象に、ひたすら耐える。

この前段階で、ワタシはすでにスキップをしたいくらいの上機嫌。ジェットコースターの列に並び、やっと次が自分の番、よっしゃー、行ったるー。そんな感じ。

そう、実はワタシ、この“バリウム検査”が大好きなのだ。

今まで誰ひとり共感してくれないけど。

「へぇー。変わってんなぁ。あんなん、好きな人おるんや。」と、若干どころか、かなり冷ややかな視線を送られたことも、1度や2度ではない。

“バリウム検査”のどこが好きかって、放射線技師さんの言いなりになる自分が好きなのだ。

「バリウムをまずは半分飲んで。そのあと少し経ってからゴクゴク飲みほして」と言われれば、指示されたとおりに飲む。

「このタイミングで、ティッシュで口をふいて」と言われれば、そそくさと口をぬぐう。

「ゲップが出そうになるけど我慢して。出そうになったら唾をゴクっと飲んで」のアドバイスどおり、唾を何度でも飲みこむ。

ワタシのますますの従順っぷりが発揮されるのは、検査本番になってからだ。

経験者は知っているだろうが、放射線技師さんは、ガラス張りの別室から検査台に向かってマイクで次々と指示を出す。

検査台の上のワタシは、完全なる『まな板の上の鯉』状態。

検査室には、マイクを通して指示が響きわたる。

「はい、右回りで1回転して」の指示に、よいしょと右回りに1回転。

「背中はつけたまま、腰だけ左に少しひねって。うーん、もう少し。もう少しクイッと上げて」と言われれば、腰をクイッと左に少々。

「バーを逆手でにぎって、お尻を少し浮かせて」の指示にも、100%全力で応える。

ワタシの日常生活に、次から次へと出される相手の指示に100%そって即行動する、なんて場面はあるだろうか。

40代後半のいい大人。会社でも、指示を出す側だ。会議や打ち合わせでは、自分の考えや思いを述べ、相手と折り合いをつけながら着地点を決めていく場面が多い。

だからこそ、100%相手の指示どおりに即行動する検査台の上が、ワタシにとっては非日常空間。放射線技師さんの言うがまま、ゴロンゴロンと回転したり、腰をひねったり、バーをにぎったり。

そんなふうに100%の従順性を発揮している自分が新鮮なのだ。あー、頭をからっぽにして100%指示どおりに即行動しているワタシ・・・こんな一面がワタシにあったなんて。

検査台で、完全なる『まな板の上の鯉』状態になり、非日常を体感する。束の間の、100%の従順性を発揮する自分に酔いしれる。

“バリウム検査”に抱いている、ワタシのそんなアツイ思いを誰も分かってくれない。理由を説明しても、みんなは苦笑いを浮かべる。

誰からも共感を得られないばかりか、なんなら、やや変態扱いだ。変態扱いされるのもイヤではないけれど。

今週末に、年に1度の100%従順なワタシになる。もう、そんな季節だ。

noteの街には誰かいるかな。ワタシの気持ちを分かってくれる人、誰かいるかな。

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み・カミーノ
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