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会社の携帯電話

 会社が新体制になると、店長は全員携帯電話を持たされることになった。それまでは個人の携帯に連絡すればいいので、ほとんど必要とされてなかった。だが配給されることで、本部から電話がいちいちかかってくることになる。休みの日も、うんこしてる時も、酒飲んでる時も、お構いなしである。うっとおしいかぎりだ。
 休みの日に電話があると、どきっとする。ささいなことでも気になってしまう。だが遠いので、断じて店にはいかないようにしている。ほとんどのことは店に電話して指示すればすむことだからだ。
 僕にはトラウマがある。どこかの稿で書いたように思うが、休みの日に店から電話が掛かってきて、従業員が心肺停止で救急車に運ばれたという連絡であった。急いで病院に行き、店に行ったら、警察が数人取り調べをしていた。従業員は喘息持ちで薬の多用による心臓発作で亡くなった。
 他にも店から電話がある時は碌なことはない。クレーム関係が多いからだ。なんで休みの日に限ってそうなるかなあ、と思いながら出かけなければならない。
 もっともほとんどは連絡事項の電話である。そう滅多にクレームなんか起こってもらったら困る。
 前いた店について聞かれたこととかもある。問題があったようだ。人について聞かれたこともある。問題があるようだ。「何が売れてる」とよその店から探りを入れてくる電話もある。適当に答えておく。
 何だかわからない電話を掛けてきた上司がいた。.古くからお世話になった方で、当時は人事部長だった。さわりのない世間話である。早晩その人は退職した。どうやら別れの挨拶と忠告のつもりだったらしい。
 店長会議の帰りに必ず電話してくる奴もいる。人事異動が気になるのだ。一時期、結構人が辞めて、毎月のように大量に人事異動があってた時期があった。新旧入れ替わりの時期にはありがちな話であろう。結局旧人である僕も辞めることになった訳だが、おかげで今は悠々自適な毎日を過ごしている。
 

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