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未来からの刺客(ショートショート)

 夜、道を独りで歩いていると、中学生くらいの若者が、といっても俺も大学生なので、若者の部類に入るのだが、つまり少年か、少年といったほうがいい。いきなり俺の前に立ちふさがって「死んでくれ」と叫ぶと、光線銃のようなものをぶっぱなしてきやがった。
 危うく避けて大事にはいたらなかったが、殺気だったものを感じて体中がゾワーッとした。
「何をするんだ」
 俺が叫ぶや否や、またもぶっ放してきやがったので、俺は急いで逃げた。少年は追ってくる。追いながら光線銃をぶっ放す。
 だが、まともに俺に当てるつもりがあるのかどうか、わざと外して撃っているようにも感じられる。かといって、立ち止まって「話せばわかる」「問答無用」となっても困る。
 俺は公園に入り、滑り台の後ろに隠れた。奴は多少遅れて、公園内をグルグル見回す。そして俺を見つけた瞬間、滑り台に向かって発射した。
バチバチバチと音を立てて、滑り台は焼け焦げた。こんなのに当たっちまったら電気ショックか焼死してしまう。俺はハアハアいいながら奴にいった。
「少年よ、話をきこうじゃないか。ただ殺されるのでは俺も浮かばれん。あまりに不条理だ」
 その言葉に少年はうなづき、銃を持つ手を下ろした。
「わかった。訳を話すよ。アンタもただ殺されたのでは嫌だろうからな」
 何とか交渉成立だ。話の中でなんとか説得できればいいのだが。
「アンタは僕にとって、祖父にあたるんだ」
 いきなり切り出した言葉に???がついた。俺は独身でまだ子供もいない。
「僕は未来の世界からやってきたんだ」
 あーなるほど。それで見慣れない光線銃なんかを使うのか。て、中学生が武器を持ってもいいんかい、未来は。
「光線銃は警官から奪ってきたんだ。タイムマシンもね」
 立派な犯罪者である。
「それならお前、未来の警察から捕まえにくるぞ。これ以上犯罪を犯すのはやめておけ」
「やめない。僕はこの過去の世界で自殺しにきたんだ」
 どういうことだ。死ぬんなら、勝手に死ねばいいし。
「アンタの息子、僕の親父は、相当な飲んだくれの、遊び好きの、女好きで、母さんを泣かせてばかりいる。僕もあんな親父でなければ、もっとまともな中学生になれたのに」
 だからなんなんだ。俺の教育が悪いっていいたいのか。いわれてみれば、俺も酒、女、賭け事、全部好きなほうではあるが、家庭崩壊させるほどではないはずだ。まだ家庭は持ってないけれど。
「親父をいっそ殺してやろうかと思ったんだが、そんなことで僕の人生を台無しにするのも馬鹿馬鹿しい」
 わかっているじゃないか。親父、つまり、俺の子はともかく、少年さえやる気になれば、立派に更生できるはずだ。俺はそういうニュアンスのことをいった。
「いいや、もう無理だよ。警官1人殺したしね。僕は死ぬんだ。この世界で。そしたら親父も思い知るだろう」
「まさか、それで」
 俺は合点がいった。
「苦しんで死にたくもないしね。それにあんな風に育てたアンタの教育が悪かったんだ」
「だから」
「だから、アンタに死んでもらう。そしたら親父も僕もいなかったことになって消えてしまえるからね」
 何という計画だ。死ぬ痛みを感じるのは俺だけで、お前たちは消えてなくなるだけかよ。まて、俺が死んだら、奴と俺と息子の問題だけじゃあなくなるぞ。未来がガラッと変わるかもしれないんだぞ。わかって行動してるのか。
 そのようなことを俺が言うと、「もはや引き返せない」と奴は引き金を引いた。油断していた俺はまともに光線があたり、その場に倒れた。


 目が覚めたら公園で寝ていた。何をしていたんだろう。酒の飲み過ぎで全然覚えていなかった。ただシャツの胸のあたりが焦げていた。
「何をしてたんかなあ」
 ゆっくりと起き上がり、俺はトボトボと家に向かった。
「結婚して子供ができたら、しめしがつかんわなあ。しっかりせんと」
 なぜか今まで考えたことのない未来のことがふと気になった。


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