守護霊(ショートショート)
蕎麦屋のバイトの三好は失業してしまった。何かをやらかした訳ではない。最近流行のウーバーなんとかやらいくつも出てきた配達請負人に仕事を奪われてしまったのである。
三好自身もウーバーなんとかをやらざるをえないが、実は自転車もバイクも持っていない。これでは仕事にならない。
別の仕事を探そうにも、30近くまで、蕎麦の配達ばかりしかしてこなかったので、融通がきかない。
皿洗いでもいいんだが。近くのレストランにお願いにいってはみたものの、既に外国から来た実習生が安い賃金で働いているので、お呼びではなかった。
コンビニエンスストアはレジ打ちとか難しそうなので、気後れがした。あとは公園のトイレ掃除とかはどうだろうかと、問い合わせてみたが、これも定員いっぱいであった。こちらは70前後の高齢者がたくさん勤めていた。
いっそのこと実家に帰って再起をかけようにも実家そのものが三好にはもうなかった。
早く仕事を見つけなければ、家賃も払えず、ホームレスになってしまう。既に手元のカネは数千円しかなかった。
TVと布団だけがある小さな自分の部屋で、スーパーの50%引きの弁当を食べながら、彼は考えた。
いっそ無銭飲食でもして、留置場に入れられれば、衣食住が足りるではないか。そうしようか。どうせ捕まるなら豪勢な高いレストランの食事がいいなあ。などど思っているところへ、目の前に煙の塊が出てきた。
その塊はしばらくすると人間の姿になり、三好を驚かせた。
「情けないことを考えるんじゃない」
喋った。煙の塊の人間の姿をした何者かが語りだした。
「わしはお主の守護霊だ。あまりに情けなくて、こうして出てきてやったのだ」
「しゅ、守護霊?」
突然のことに三好は驚いた。
「何か私にして下さるのですか」
「甘えてはいかん。守護霊はただお主を見守るだけだ」
「じゃあ何の解決にもならないじゃないですか」
「無銭飲食で捕まっても碌なことはないぞ」
「では他にどんな方法があるというんです」
「それは自分で考えろ」
「あのー何のために出てきてくれたのですか」
「励まし、応援するためだ。それしかできん」
守護霊とはいっても、特別な能力があるわけではなかった。ただ見守るだけなのだ。
「お主が悪い方向へ向かわぬようにこうして現れてきたんだ」
三好はガッカリした。出現した時は少し期待してたのに、これである。
「ではお導き下さい。どうしたらいいでしょう」
「それは自分で考えろと言ったではないか」
「いいです。それなら、無銭飲食して捕まります」
「碌なことにはならんぞ。何しろ経験者がいうのだからな」
「えっ、守護霊様は無銭飲食で捕まったことがあるのですか」
「自慢ではないがそうだ。だから止めておる」
「道理で、こんな身の上になるはずだ。守護霊じゃなくて貧乏神じゃねーか」
「よくいわれる」