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毛が伸びる(ショートショート)
ある朝、目が覚めると何だかゴワゴワする。顔中毛だらけだった。急いで洗面所の鏡を覗けば、まるでガンダルフのようであった。俺は急いで鋏で毛を刈った。バサッバサッと毛が地面に落ちた。最後はカミソリで剃った。いったい何ごとだったのだろうか。毛生え薬か何かを騙されて飲まされた記憶もないし、それにしてもここまで一晩で毛が伸びるのはおかしい。しかも顔だけ。
急いで病院へ行こう。こんな症状は聞いたことがない。大学病院へ行けば、不思議な事例として、歓待されるだろう。
病院へ着き、待っている間、少しずつ毛が伸びてくるのが分かった。やっと自分の順番が来て、今朝起こった事実を述べ、証拠として、刈った毛をビニル袋に入れて持ってきていたのを見せた。
案の定、医者は食いついてきた。血液検査やら、尿検査、CTにMRI、あらゆる検査をおっぱじめた。その間にも毛は少しずつ伸びていた。
一通り、検査を終えた頃には、またガンダルフのような顔立ちになっていた。
「検査をいろいろしてみましたが、現象の原因は不明です。しばらく入院して検査を続けましょう」
医者がそういった。仕事があるが、こんな姿では仕事どころではないだろう。会社に訳を話して、当分の間、休みを貰うことにした。
看護師がバリカンで毛を剃り始めた。羊になった気分だ。頭はツルツルになったが、それも一瞬で、次から次に毛が生えてくる。
気を抜けばすぐにガンダルフになってしまう。どうやら毛が伸びるスピードが速くなってきているようだ。
医者が試しにと放射線治療を試みてきた。すると不思議なことに毛はボロボロ抜け出してきた。
治った、と思ったのも束の間、また毛は生えだしてきた。まるで治療に怒るようにそのスピードは速くなり、あっという間にガンダルフになった。
今まで気づかなかったが、これ以上は毛は伸びない。ガンダルフ状態で毛は伸びるのを止めた。
「ひょっとしたら」
俺は気が付いた。俺はガンダルフなのじゃないだろうか。いつの間にか右手に杖を持ち、とんがり帽子を被っていた。
そうだガンダルフだ。俺はガンダルフなのだ。アマンに帰らなければならない。そう思うや否や、俺は窓から外へ向けて、飛び立っていった。