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火星のゾンビ(ショートショート)

 火星の地中から、突然、怪獣が現れた。全く予想外の事態であった。火星に設置された基地や農場、研究所は皆破壊された。
 火星に移住して暮らしていたメンバーは命からがら宇宙船で地球に逃げ帰ることができたが、数名犠牲者がでた。
 早速宇宙開発隊は作戦会議を開いた。
「まさか火星に生物が、しかもあんな大きな生物がいるとは思いもしませんでした」
「全くだ。このままではここまで順調にきていた火星開発も砂上楼閣になってしまう」
「ホスト国からも相当なクレームがきています」
 防衛隊幹部達は皆、頭を抱えて悩みこんでしまった。
「そいつ1匹ならいいが。他にもいる可能性があるだろうな」
「1匹みつけたら、100匹はいるっていいますもんね」
「そりやあゴキブリだろう」
「でもゴキブリによく似てるじゃないですか。でかい分だけ動きはのろそうだけど」
 そういわれてみれば、ゴキブリによく似ていた。触覚の感じや羽根の色、2本足で立ってはいるが、足は6本ついている。
「もしかして地球から紛れ込んだゴキブリが火星の何らかのエネルギーによって巨大化したんじゃないか」
「ありうる話です。生態を調査しましょう」
 
 宇宙開発隊の調べたところ、睨んだ通りの結果が出た。あの怪獣はゴキブリが巨大化したものだった。
 それならば、とゴキブリ用の退治グッズを火星に持ち込み、殺してしまおうとした。ホウ酸ダンゴがきっと効き目を表すだろう。
 再度、火星に着いてメンバーは目をむいた。巨大化したゴキブリがあちらこちらにいるのである。100匹以上はいそうだった。
 宇宙船からホウ酸ダンゴをまき散らした。奴らがこれを食べてくれたら、イチコロだ。再び開発に着工できる。
 ゴキブリのうちホウ酸ダンゴを食べたやつは死んでいき、その死骸を食べたゴキブリが死に、どんどんゴキブリの数は減っていくはずだった。
 ところがホウ酸ダンゴを食べてくれない。どうしたらいいか。まさかゴキブリホイホイの巨大な奴を作っても駄目だろう。巨大な冷却スプレーでも用意するか。そんなことを考えていると、
「おいっ、あれをみろ」
 土の中から今度はもっとでかい怪物が現れた。その怪物に皆見覚えがあった。ゴキブリ怪獣に襲われた時に逃げ遅れた者だった。
「あいつ、怪物になりやがった」
 怪物になったあいつはもはや人間としての知性や理性は働かないようであった。その辺を暴れまわった。
「いったいどうして」
「これからの研究課題だろうけど、さすがに殺すには忍びないな」
 宇宙開発隊は画像を撮るだけ撮ったら地球へ戻っていった。

 こうなれば宇宙開発隊だけの問題ではなくなっていた。相手は怪物にはなったが、人なのである。特別国際会議が開かれ、宇宙開発にカネを出している国々の宰相が集まった。
「まるで悪魔の所業だ。ゾンビ化しているではないか」
「空気はどうしているんだろうか。呼吸ができなければ、生きていけまい」
「1人しか見つかっていないが、他の隊員もそのようになっているかもしれないぞ」
「攻撃しよう。もはや生かしておいても可哀想だ」
 それぞれ意見が出たが、そうするしかあるまい。という意見が圧倒的多数を占め、殺すことに決まった。
 宇宙開発隊は早速攻撃準備に入った。攻撃したが、相手の皮膚が強くなっていて、銃が効かない。反対に攻撃され、宇宙船は墜落してしまった。
 同時に宇宙船に乗っていた隊員のすべてがが巨大化野生化した。
 残りの宇宙船は地球に逃げた。
「なんでこうなるんだ」
「様子を見るしかないよ」
「どうせ食うものも空気もないのだから」

 しかし見込み違いもいいところで、やつらは死なない。何を食っているのか。酸素の問題はどうなっているのか。
「核兵器を使おう」
 国際会議のメンバーがいった。何と云う事だ。地球ではないにしろ、ついこの前まで仲間だった連中に核兵器を使うことになるとは。
 早速準備に入り、核兵器は宇宙船から標的に向かって発射され、そして炸裂した。怪物化した仲間たちやゴキブリはさすがにひとたまりもなく皆死んでしまった。
 開発基地は場所を代えて1から建設することになった。
「宇宙開発には犠牲がつきものなのさ」
 開発隊の隊員が自らを慰めるようにつぶやいた。
 問題は解決したかのようにみえたが、根本的解決には何もなっていなかった。なぜ巨大化するのか。なぜ食料や空気がなくても生きていけるのか。
 やがて、死んだ蚊や鼠やミジンコや犬や猫や細菌まで巨大化した。
 宇宙開発隊は計画を中止し、謎の解明にあたることを最大の課題とした。

 地球にいたウイルスが火星で変異し、それが地球の生物や細菌まで、巨大化させることがわかった。なおもそのウイルスのせいで、死骸をウイルスが動かすことがわかった。つまり、全て死んでいたのであり、それがウイルスのせいで動いていたというわけである。だから食べないし、呼吸もしなかったのである。そのウイルスは死体にしか罹患しないゾンビウイルスだったのである。
 そのウイルスを撲滅させるしかなかった。これ以降火星に向かう者は消毒殺菌は勿論、マスクは必需品。食事は独りで。ペットの持ち込み禁止。等々厳重な措置がとられることになった。
「死体にしか罹らないのだろう。ここまでする必要があるのかね」
「ウイルスはまるで死神のようにこの辺をうろうろしてるのさ。死んだらすぐ憑りつこうと思ってね。だから撲滅するには生きているうちに近づけないようにして、ウイルスを殺してしまうしかないんだよ」
「いつまで続けるのだろう」
「ウイルスがなくなるまでさ。いつなくなるかわからないし、なくなったかどうかもわからない。まあ当分こんな感じだろうさ」
「昔も地球でこんなことあったよね」
「あれも大変だったね。しばらくマスクは必需品だったからね」




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